294:いい子なのに
「そう言えば、殿下はもうモモと話はされました? 何故かあれから、お兄様たちの様子がおかしいんですよ」
「い、いや……まだだが」
「そんなに避けないであげてくださいませ。あんなにいい子なのに」
食堂など数人が集まる場では顔を合わせているものの、誰かと二人きりで話した様子はなさそうだ。
「一応、声をかけようとはしたんだがな……」
曖昧にはぐらかすレッドリオ殿下。一心不乱に手紙を読んでいるモモは、部屋に殿下が来られた事にも気付いていない。元々、王族と平民では住む世界が違う。あの学園内にいる限られた期間が特殊過ぎたのだ。外界から遮断された空間と言ってもいい……ある意味それが、ゲーム世界と繋がる原因だったのかもしれない。
殿下にもお伝えしたお兄様たちの様子はと言えば、ダイ様あたりは立ち直りも早く、フレンドリーに接している。貴族でも体育会系のさっぱりした気質のせいだろうか……モモにもそんなところはあるし、似た者同士よね。セイ様は完全に現実逃避、お兄様はモモ以外の事も抱え込み過ぎて昼間っからお酒で紛らわせている。
そして、殿下は……ずっと何やら考え込まれているようだった。魔女化したモモとの新たな婚約は可能性が潰えてしまっただろうに、その事に関して気にした風もない。何を深刻に悩まれているのかしら……?
こっそり窺っていたその時、廊下からシンがドアをノックした。
「お嬢様、イエラオ殿下がご到着です。お嬢様と二人きりで、話がしたいと」
「王太子殿下が……?」
何の用なのか大体想像がつき、知らず知らずの内に背筋が伸びる。もう乙女ゲームのショタ枠でも頼りない義弟でもない、次期国王となる人。落ち着いた今の時期に改めてとなると緊張してきた。
「! キースが戻ってきたのか」
レッドリオ殿下が大きな声を出したので、そこで初めてモモは部屋の人数が増えている事に気付いた。
「うわわっ! 王子様来てたんか……です、か。こん、このような格好ですまね……いえ、ごめんあそばせ?」
「無理はするな。俺も退室するから気にしなくていい」
狼狽えるあまり、モモは噛みまくっていた。なるほど、前世と違って直接言葉を交わす時はちゃんと弁えているからこそ、話ができなかったのね。殿下も既にモモとの間に線を引いているようだった。
「シン、王太子殿下に伝えて。支度したらすぐに参りますと」
モモと同じく、完全には回復していない私の格好は体操着だ。楽ではあるし、ここにいる人みんな分かっているけれど、前世で言うところのジャージみたいなもので……このまま王太子となったイエラオ殿下に会うのはちょっと。
少し迷い、一応追放中の身である私はいつものワンピースに着替え、一階へ下りる。シンの話ではお茶でも飲みながらとの事だったので、てっきり食堂を使うのだと思っていたが、連れて行かれたのは何故か外だった。
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