286:モモの生い立ち②
「あいつは昔っからオラのピンチには飛んできてくれてな。まあ二人一緒に怒られる事になるんだが、ロックがいてくれるだけで辛さも半分だからよ。いつも助けてくれるあいつに食わせてやりてぇって、母ちゃんからうめぇ焼き菓子の作り方いっぺぇ教わったんだ」
「モモの手作り……さぞかし喜んだでしょうね」
体が冷えてきたので、それぞれベッドに潜り込んで話を続ける。それでもどこか冷たい感じがして、きゅっと握りしめた手を擦り合わせていた。
「いやそれがよ、どうしたって上手くいかねぇからボロクソ言われちまって。悔しくて絶対うめぇって言わせてやるって何度も挑戦したもんだ」
「へえ? あのロックがねぇ……」
私の拙いクッキーでも喜んでくれる彼からは想像もつかない。最初は下手だったという彼女にもだ。
「でも、何だかんだ言いつつ全部食べてくれたんでしょ?」
「よく分かったな。あいつ食い意地張ってっから、まずくても残さねぇんだってよ。確かに毒のあるヒメモモバナの実まで食ってたからなー」
つ、通じてない……彼の行動理由には必ずモモがいるのに。でも「あいつ本当しょうがねぇやつだろ?」と笑う表情はロックにそっくりで……幼馴染みなんだなあと納得する。
「モモは、その……ロックの事は、好き……なの?」
「ああ、いつも一緒にいたし、いいやつだろ?」
話の流れで、思い切って核心に触れようとするが、これではよく分からない。異性としてはどうなのか。
「お、男の子だなって思ったりは?」
「そりゃ分かってっぞ。しょっちゅう家にも泊まりに来てたし、おんなじベッドや風呂にも入ってたしな」
「はっ!?」
落ち着いて、子供の頃の話だから!
思わず大声を出してしまった自身を宥めつつも、口元を引きつらせながら私は問い質した。
「……ちなみに、何歳頃までそうしてたの?」
「十歳くれぇかな? 兄妹でもねぇのにいつまでも続けんのはよくねぇって言われてたけど、村は夜になると子供にはおっかねぇかんなー、なかなかやめらんなかったな」
いや、実の兄妹だとしても十歳はちょっと長い。ロック、幼いとか言って誤魔化してたわね。ここまで来ると異性として意識し始めるか完全に家族になるかは微妙な線だわ。
「モモがそう頼んだからなの? それって、彼が貴女を好きだからじゃ……」
「そりゃねぇんじゃねぇか? オラみてぇなうるせぇのの面倒見なきゃなんねぇってしょっちゅうぼやいてたし」
「憎まれ口でしょ。嫌いならベッドもお風呂も断るはずよ」
「いや実際、潜りっこでどうしても勝てねぇ腹いせにケツ引っ叩きまくってたら、お前とはもう入ってやんねぇって怒られちまってそれっきりだからよ。へへへへ……」
割とバカな理由で卒業してた……ロックもそこまでしないとやめられないなんて、結構なヘタレよね。でもシンにえげつない行為を強いていた私に他人をどうこう言える権利はない。
ともあれ、ようやくモモにとってロックは異性じゃないと確信できた。よく考えたら村を出る前から恋心を抱いていたのなら、乙女ゲーム自体が成り立たないのだ。
(それに関してはホッとしたわ。ロックはまあ……ご愁傷様って感じだけど)
あるいはとっくに分かっているからこそ、純粋にモモの幸せのためだけに動けるのだろう。彼女が誰を選んでも……
※ツギクルブックス様より書籍版・電子版、モンスターコミックスf様より漫画版が発売。
※「がうがうモンスター」「マンガがうがう」にてコミカライズが連載中。
※書籍情報は活動報告にて随時更新していきます。





