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281:ロマンティックはお休み中

「元に、戻ったんだな……よかった、本当に……」


 どこにも異常がなさそうなモモの様子に、目を潤ませていたロックが鼻を啜る。ぼんやりと彼を見ていたモモは、その可憐な唇を開き――


「……なーに泣いてんだ、ロック? それにお(めぇ)、いつの間にそんな図体でっかくなったんだよ? オラびっくりだぞ」


(――!!?)


 その瞬間、世界が凍り付いた気がした。


(な、何かしら……今、物凄くこの世界に似つかわしくない台詞が聞こえたような)


 レッドリオ殿下たちは、戸惑いながら部屋を見回している。今の発言がモモのものだとは、まだ気付いていないようだ。声はそのまんまなんだけど。


 俯いてシーツの上に雫を落とすロックの頭をよしよししていたモモは、そこで初めて自分に向けられる視線に気付いて目を丸くする。


「うっひゃあ、揃いも揃って役者みてぇな(つら)してんなぁ! こいつら何者(なにもん)だ!? ……そうか分かったぞ、さてはお(めぇ)芸人(げぇにん)一座だな? (わり)いけど、オラんとこみてぇな辺鄙な村に、客なんて来ねぇんじゃねぇか?」


 いやどっちかと言うと、今の貴女こそどこぞの物真似芸人みたいなんだけど!?

 どうなってるのこれ、私は確かに前世に関する全ての記憶を消したはず……なんで日本人なら誰でも知っている、某少年漫画の主人公みたいな喋り方になってるの?


(落ち着いて、クロエ! 私たちは日本語で話してる訳じゃない、単にそういう印象のように受け取っているだけよ。そう、パレット村はマッド伯爵領でも辺境にあるってナナカ嬢から聞いた事があるわ。だから物凄く田舎訛りがきついだけ……って、ちょっと待って?)


 混乱する頭をどうにか収める内に、新たな疑問が湧いてきた。私はみんなが呆然とする中で、一人だけ感極まっているロックに耳打ちする。


「ねぇ、村にいた頃のモモってこんな話し方だったの? ロックは訛ってないじゃない」

「俺は伯爵家の貴族教育で矯正されたんだよ。……まあ村にいた頃も、よその人間と話す機会の多い村長とか、王都から送られてきた神官に育てられたし。あ、モモの母親も町の出身だったな。けど、こいつは村の爺様たちから滅茶苦茶可愛がられてたからなー……」


 まあ『村』なんだから訛っていても全然おかしくない、ロックもそれが当たり前だったから話題に出す理由もない……納得すべき事のはずなんだけど、とにかく違和感半端ないのよね。

 そっと窺ってみると、モモはお腹をグーグー鳴らしながら「オラ腹減ったよー、飯まだかなぁ」などと気の抜けた声でシンに聞いている。キャラ的にもあっちに寄っちゃってない、これ? 虹クリでもこんな喋り方一回もした事ないじゃない。……いや、待てよ?


「そ……そう言えば最初の村のシーンでは、モモはロックたちと会話してるようで、全部モノローグだったわ……ちゃんと鍵括弧付きで喋るのは一年後の学園入学式の時からだし。そう言う事だったのね……神官長が一年間頑張って、矯正したのね……!」


 謎は全て解けた! モモのキャラクターを乙女ゲームのヒロインへと変貌させたのは、神官長の功績だったのだ。

 もちろんそれはゲームの話であって、実際は前世の人格になっていたので必要なかったのだが。私が記憶を消した事で、本来の性格と口調が表に出てきたのだろう。


 そう結論付けている間、モモは今までの経緯を聞かされて仰天していた。


「ひえぇ――っ、オラの体が(わり)い奴に乗っ取られて、王子様たちを誑かしただって!? しかも三年も……くそっ、何てこった!! オラは……オラはとんでもねぇ事を……う――ん」


 そのままキュウッと気を失って、再びベッドに逆戻り。

 慌てて「モモ!!」と声を上げるロック。

 いつの間にか泡を吹いて倒れているお兄様。

 教会にあるレリーフの一つと同じポーズを取っているセイ様。

 立ったまま鼻提灯を出しているダイ様。

 モモの相手をしていたはずが、遠い目をしているシン。

 そして殿下は、自分の頭を押さえていた。


(何これ……)


 気付けば彼女に恋焦がれていた男たちが、軒並み屍と化していた。

 まあ驚くのも仕方ない。何せ天真爛漫なモモの正体が、戦闘民族野菜星人だったんだから……って、そんな訳ないでしょ。田舎者口調なだけで中身は正真正銘、乙女ゲーム『虹色クリスタル』のヒロインそのもの――貴方たちの愛したモモ様のはずよ。


「そんなにショックかしら? 私がモモを田舎者呼ばわりした時は、生まれで差別するのは心が卑しいって詰られたのに」

「いや、さすがに……クロエ嬢は今の彼女を何とも思わないのですか」


 復活したセイ様が目元を拭いながら訊ねてくる。天使とのお別れは済んだのかしら?

 何とも思ってない訳じゃないけど、少なくとも元・日本人としては、こんな喋り方をする相手と敵対する気力など起きようはずもない。それは魂に刻み込まれたお約束とも言うべきだが、何と説明したものか。


「まあ……こう言う風に喋る救世主もいるかもしれないじゃない? 何が起きてもへっちゃらって感じで」

「たった今、気絶したがな……」


 自分だけが分かる上手い言い回しに、これまた上手い返しをくれたのは、疲れた顔をしたレッドリオ殿下だった。



※ツギクルブックス様より書籍版・電子版、モンスターコミックスf様より漫画版が発売。

※「がうがうモンスター」「マンガがうがう」にてコミカライズが連載中。

※書籍情報は活動報告にて随時更新していきます。

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