表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
443/475

275:クロエの幸せの裏側

 俯くと視界に、ぽたぽたと水滴が落ちる膝が見える。

 こんな弱くて汚い私を、見せたくはなかった。断罪前の悪行を直接目にする事はなく、真っ新な関係でいられた彼には。だけどもう逃げられない……全部、吐き出してしまった。


「クロエ、お前はもう充分に苦しんだ。これ以上、自分を痛めつける必要なんてない」

「ロックは優しいから、そう言うと思った……だけど芹菜(わたし)なら、大切な人が傷付けられて黙ってるほど、お人好しじゃないわよ」


 前世での歯痒い思いが蘇る。最後まで心残りだった、過去の過ち。今度こそ悔いのない人生をと託されたのに、私はそれを裏切った。芹菜は死の直前、薄々感じ取っていたのかもしれない……同じ魂だからこそ、悪役令嬢の所業に嫌悪感を抱いていたのだ。


「俺だってそうだ。目の前でそいつが傷付いて泣いていたら、放っておけねぇよ」

「え? だって……貴方の大切な人は、モモで」


 鼻を啜り上げながら顔を上げると、ロックはそっぽを向きながら頬を掻いていた。


「あいつが大切なのは当然だろ。けど俺が幸せになって欲しいのは、モモだけじゃない……お前だってもう、許されてもいいはずだ」


 ずるい……モモが大切と言いながら、私にも幸せになれだなんて。


 ロックがモモを踏まないようにベッドに乗り上げ、私に手を伸ばす。涙を拭ったその手が、短い髪にも触れる。やや乱暴な手つきだったし、服に着けて至近距離から録音してるブローチからはガサガサ音が聞こえてそう……悪い事をしているようでドキドキした。


「なぁクロエ、間違えない人間なんていない。一度や二度の過ちで人生終わりなんて決め付けんな。俺の知ってるお前はいい奴だよ……一人で勝手にうじうじ悩んで、幸せを諦めたりすんなよ」


 うじうじしてて悪かったわね。そんな私でも、ロックはいい奴って言ってくれるんだ。お人好し過ぎない……?


「グス…ッ、私の幸せって何?」

「そりゃあ……自分で考えろ」


 質問をあっさり投げ出すと、さっさとベッドから身を引いてしまうロック。自分から振っておいて、それはないんじゃない? だけど簡単に答えをくれないロックが何だかおかしくて、泣いていたのも忘れて噴き出してしまう。そりゃ人によって幸せも違うしね。私の、クロエ=セレナイトの幸せか……


「……けどまぁ、そのための道筋が見つかった時は、手助けしてやるよ。これ以上お前を悪役だ何だと抜かす奴がいたら、誰であろうと俺が容赦しねぇ」

「フフ……ありがとう。ロックって本当に、『いい人』よね……悪役令嬢の私なんかでも、幸せになって、いいのかな……」


 握りしめた拳を突き出して宣言するロックに、口元だけで笑ってみせる。本当はロックに対して、単に『いい人』だけでは片付けられない。すごく優しくて……その分、残酷だ。だけどそんな彼が好きな私にとっての幸せを、ロックは果たして許してくれるだろうか?

 許可を取るのは本人だけじゃない、家族にも国にも、世界にも……そして私自身の中にある、芹菜にもだ。



※ツギクルブックス様より書籍版・電子版、モンスターコミックスf様より漫画版が発売。

※「がうがうモンスター」「マンガがうがう」にてコミカライズが連載中。

※書籍情報は活動報告にて随時更新していきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

バナーイラスト
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ