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259:虹色の柱の裏側

「う……ぁ」


 額に手を押し当てられたモモの双眸からは、ボロボロと涙が零れ落ちた。彼女は今、過去に立ち戻っている。私と同じように、自らの最期を目にしているのだろう。


「なに、これ……嫌だ、信じたくない。私がもう、死んだなんて。いやぁっ!」


 怯えて滅茶苦茶に暴れるモモの体を、逃すまいと力を込めて抱きしめる。結界内にだけ現れてゲタゲタ笑う空間の口など、もう気にもならない。


「大丈夫、怖くなんてない。元の貴女に戻るために……余計なノイズを消し去るだけ」

「ああ、消える……私が、消えていく!」


 私がとどめに使ったのは、ラストバトル専用の神聖魔法だった。これもチェリーに一時的に与えられたものだが、モモを救うにはこの魔法と決めていた。


 虹クリではタイトルにあるように、神聖魔法『結晶化(クリスタル)』がメインとされている。ヨルダと同様、クロエもクリスタルに封印してこそ真のハッピーエンドだと。


 でも、違う。

 私はあの夢で、モモを救済するためのヒントを得たのだ。そう、前世の記憶なんて普通は誰も思い出さない。なのにゲーム感覚で国を引っかき回す異世界人がモモの人格を乗っ取ったせいで、おかしくなった。

 本当はとても優しくて……あのロックが、人生を賭けるほどの素敵な女の子なのだ。


 敵のレベルを下げる――ラスボスを多少倒しやすくはなるけれど、一方でその名前にする意義が分からなかった魔法。


(邪心を持つ前の、純真無垢な少女に戻す。モモ、貴女の前世に関する記憶を消すわ!)


 恐怖と絶望で悲鳴を上げるモモの頭を、幼子にするように優しく撫でる。憎たらしいヒロインだけど、ライバルにも矜持があるの。別の時間軸で魔女クロエを逃がしてくれたお返しに、私も貴女に慈悲をあげる。


「神聖魔法『忘却(オブリヴィオン)』――全て忘れて、眠りなさい」


 呟きと共に、八芒星の魔法陣は光り輝き、虹色の柱となって天井を貫く。ドオン! と凄まじい音がして、私の意識は吹っ飛んだ。

 だから、その後にどうやって崩れるダンジョンから抜け出したのかは知らない。


 私がグレースの宿屋で目を覚ましたのは、それから三日後の事だった。



 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 夢の中で、私たちは向かい合っていた。


 艶やかな長い黒髪の『わたくし』ヨルダ=ムーンと、ベリーショートの黒髪にスーツ姿の『わたし』黒江芹菜、そして私。黒髪ばっかりね……


 二人は私に向かって何かを話しているようだったが、声は届かない。けれど魂は同じだから、何となく分かる。ヨルダは全てから解放されたように穏やかに微笑みかけ、芹菜はやれやれと肩を竦めているが、最後には仕方なさそうに口元に笑みを浮かべていた。


 チェリーの代行を果たした私は、再び人生を歩き出す。この先どうなるか分からないけれど……もうゲームのシナリオからは完全に外れたのだ。



※ツギクルブックス様より書籍版・電子版、モンスターコミックスf様より漫画版が発売。

※「がうがうモンスター」「マンガがうがう」にてコミカライズが連載中。

※書籍情報は活動報告にて随時更新していきます。

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