253:暗黒の救済の裏側
「フフフフ…アハハハハ、そう言う事!」
私から力を手に入れた経緯を聞いたモモは、身を捩って大笑いした。頭の中を引っ掻き回されるような感覚を遮断するため、みんなは耳を手で覆っている。
「魔女クロエは確かに強いけど、あんな反則技が使えるのはおかしいと思ってたのよね。初代聖女がやったと思えば納得だわ」
「どう言う意味だ!?」
「暗黒の救済エンド……ラストバトルで全滅すると、画面が真っ暗になって淡々とBGMとスタッフロールが流れていく……そして何の説明もなくプロローグが始まるの。パレット村にいる一人の少女が、聖女の力に覚醒する場面からね。これがどう言う事か分かる? 世界は終わる。そして時が巻き戻るの」
得意げに虹クリのバッドエンドについて語り出すモモ。転生者ではない彼らには意味不明だろう。
ある程度レベルを上げていれば滅多に全滅なんてしないので、エンディングをコンプリートするためにわざと発動させるプレイヤーもいるという『暗黒の救済エンド』だが、モモの言う通り何の説明もないのが何とも不気味だ。
(それはともかく、時を巻き戻しているのが初代聖女という予想は正しいわね。もちろん、オープニング場面の時点までが限界なんだろうけど……セーブポイントってシステムがそもそも現実でどういう機能として働くのか不明だったのよ)
神頼みで、やり直したいから時を巻き戻してくださいなんて、教会に祈ったところで変人扱いされるだけだ。だけど恐らく、あれは『神の愛し子』であるモモにだけ与えられたギフトなのだろう。不慮の事故などが起きた時に、魂がセーブポイントまで戻るための。
「世界の終末? 時が巻き戻る? バカバカしい、この場にいる全員が死んだくらいで、世界が終わるはずがないだろう」
レッドリオ殿下の言う通りで、実際に世界が終わるわけじゃない。私が魔女化した場合、パーティーを全滅させた後でダンジョンを出て暴れまくる事は考えられるが、それでも強力な冒険者が総出で戦えば負けてしまう。
だけど世界ではなく、『モモの死』に限定すればどうだろう? 前世のフィクションで見かけた、時間逆行の物語では、同じ時間軸でやり直す以外にも、平行世界に飛ばされるパターンもあった。
(選択肢ごとにその数は増えていく……ゲームに当てはめると、こっちの方があり得そうなのよね)
世界の滅亡や人の死などは、やはり起きてしまえばなかった事にはできない。チェリーにもできない事があると言われたのを思い出す……聖女が本当に何でもありなら、彼女だって何百年も悩み苦しんだりはしなかったのだ。
「正体も分かったから、グリンダ伯爵はもういいわ。今度こそ私は『真の聖女』…いいえ、真のヒロインになってイケメンと恋をするの。邪魔なクロエは記憶が戻る前に破滅させちゃえばいいし。そう言えばカナリアも……本当目障りよね。だけど今回の失敗も全部なかった事になるんだもの……全部、一からやり直せばいいのよね! ふふふ」
血のような赤い瞳で夢物語を語るモモに戦慄する。彼女は完全にここがゲームの世界だと思い込んでいる。いや、どこだろうと関係ない。世界が、人の心が玩具にされるのを放ってはおけない。
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