246:魂の行方
「ヨルダ、私はずっと後悔していました。あのような結末を止められなかった自分、そして私たちの仲を引き裂いた殿下……レッドリオが、許せなかった」
先ほどとは違い、チェリーは口を開いて言葉を紡いでいる。信徒としてではなく、対等な存在である証を態度で表しているのだろう。
彼女の言う『レッドリオ』とは殿下……ベニー様の事ではない。他の国でも見られるが、王家は代々先祖の名前を引き継いでいたりする。(今の陛下の名称も『フレオン八世』である)
そういう訳で、チェリーが「許せない」と言っていたレッドリオも、ヨルダの記憶にあった王太子の方だ。
「けれど私は使命から逃れられない。生きていた頃は王妃としての、そして死して後も聖女としての役割が私に課せられていた。この国の守護神となる……それは、納得して受けた事ではあるけれど。
それでも、どれほど王家に利用されようとも、いつかこの願いを叶えるために、私は時期が来るのを何百年も待っていた。それはヨルダ……私とレッドリオの血を引く王家と、貴女が結ばれる事。国の守護は私が選んだ後継に任せ、貴女、ヨルダを今度こそ幸せに……」
チェリーの手に頬を愛おしげに撫でられ、私は混乱していた。
つまりヨルダの魔女化は、チェリーの望むところではなかった。彼女の希望としては、レッドリオ殿下と私が予定通り結婚すべきだと。そしてモモは、『真の聖女』の役割は国家の礎として王家に仕える事のみ……? 虹クリでは、ルートによって結末は様々だが、少なくともモモが聖女となればクロエの魔女堕ちは確定する。
「では、『虹色クリスタル』とは何なのですか? 異世界の乙女ゲームは、この世界における予言の書にあたるものではないのですか?」
漠然と胸の内にあった疑問を、神とも呼べるその人にぶつけてみる。今生きているここがゲームの中に作られた世界だとはもう思っていないが、だからと言ってまるっきり無関係とも言えない。初代聖女であれば、その秘密も教えてくれるのではないかと思ったのだが……返ってきたのは、嫌悪に満ちた表情だった。
「その遊戯の存在は知っています。何故、あのようなものが向こうで広まっているのかは分かりませんが……私はカラフレア王国の民によって祀り上げられた、祈りの力の集合体。異世界に干渉できる事も限られています。
そう……私がヨルダを復活させるにあたり、想定外な出来事がいくつかありました。異世界に関して言うなら、まさにヨルダの魂はクリスタルを抜け出し、黒江芹菜として転生してしまった事。彼女の命が尽きるタイミングで魂を再びこちらへ呼び寄せる際、同じ時期に死亡した者たちも何名か引き連れてきてしまった事。
考えられる原因としては、カラフレア王国に関する知識の共有です。長らくこの国に神として君臨する私にも分からない……何故、あのような物語が異世界に存在するのか」
チェリーにも分からないのなら、私がいくら考えてもしょうがない。とりあえず世界が現実なのか虚構なのかは、現時点でそれほど重要でもないのだから。
分かるのは、チェリーが異世界のこのゲームを良く思っていないらしい事だった。
※ツギクルブックス様より書籍版・電子版、モンスターコミックスf様より漫画版が発売。
※「がうがうモンスター」「マンガがうがう」にてコミカライズが連載中。
※書籍情報は活動報告にて随時更新していきます。





