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243:初代聖女

「あなた、は……」


 出会った事もない女。

 だけど、何となく分かる。カラフレア王国に生まれ、貴族として、王子妃候補として、『仮の聖女』として幼い頃から刷り込まれてきた。モモのようなピンクの髪に、ゆったりとした聖衣。礼拝堂で、物言わぬ銅像として模られた彼女を、いつも眺めてきたのだから――


「チェリー=ブロッサム?」


 初代聖女その人の名を呟くと、彼女の口がふわりと弧を描いた。途端に何もない空間が彼女を軸として開けていく。目を閉じた一瞬で、私たちは花畑に立っていた。一面に『聖女の髪飾り』が咲き乱れている。


【クロエ=セレナイト。貴女をここへ呼んだのは私です】

「でしょうね」


 魔女化したモモと同じく、直接頭の中に声が響いてくる。不快どころか頭を撫でられているかのような、むず痒い感覚だ。戦闘中に、いきなり私だけ飛ばされた理由は分からないが、そんな事ができるのは私が知る限りでは彼女以外思い当たらない。


【驚かないのですね】

「むしろ、早く何とかしてくれるのを待っていたんですが。あれだけ祈ったのに応えてくれなかったのは、私が悪役令嬢だからですか?」

【ふふ、貴女もだいぶ向こうの世界に感化されているようですね。貴女も知っての通り、神聖魔法は祈りの力……愛とは私と貴女、どちらか一方通行ではダメなのです】


 片思いでは通じないって事? それを言うならモモこそが神に愛された『真の聖女』のはず。が、そういう事ではないらしい。


【本来ならば、この国の生きとし生ける者全てが愛し子。私はいつでも皆の祈りを聞き届け、応えていました。ただ、私の言葉、私の想いを形として受け取れる資質には差がありましたが】

「それが『神官』、そして中でも聖教会に選ばれた乙女が『聖女』なのですね」


 ここまでは経典で勉強してきたから分かる。が、私は神と問答をしに来た訳じゃない。初代聖女様に呼ばれたのは恐らく、私が力を欲したからだ。ロックの命を助けるために……彼はどうなった? 割と長い間、前世の記憶を見せられていたけれど。


【心配せずとも、地上の時間は今、動いていません。私は精神世界を通じて、貴女の魂を一時的に神域にまで引き上げました】


 ……神域? あの、死後に行けるという、初代聖女様が暮らす楽園? 確かに今は目がチカチカするほど銀色の花に囲まれて、雲どころか太陽すらないのに真っ青な空が広がってるけど。私、死んだのではないのよね……一時的って言ったし。


「とにかく、ロックは助かるって事?」

【それは貴女次第です】


 思わせぶりな物言いに、不遜と知りつつもムッとする。この女神様、人の命がかかってる時に余裕過ぎじゃない?


【そう警戒しないで。私が直接手を下さなくとも、貴女の愛する者は貴女自身の力で助ける事が可能です。ここへ連れて来たのは、それを()()()()()もらうため】

「思い出す……?」


 何だろう、既視感がある。ゲームのモモが最終決戦で覚醒したのは、初代聖女様の愛し子としての力によるものだった。でも、それはこれとは違う。彼女は、私の中に最初からある力を……記憶を取り戻せと言っている?


【思い出して……貴女がクロエ=セレナイトとして生を受けるより前の事を】

「あ、う……わ、たしは……クロエ、セ……リナ」


 初代聖女様の眼差しに射抜かれ、心を覆っていた鎧のようなものが砕けたような気がした。口が勝手に動く……体の自由が利かない!


【もっと深く、思い出して……異世界人、黒江芹菜の人生よりも、もっと前に】

「うっ、あああっ!!」


 頭の中が、グルグルかき回されている。気持ち悪い……泥の中に、どんどん沈んでいくみたい。


 私は……

 わたしは……


 ワタシ、ハ……誰?



※ツギクルブックス様より書籍版・電子版、モンスターコミックスf様より漫画版が発売。

※「がうがうモンスター」「マンガがうがう」にてコミカライズが連載中。

※書籍情報は活動報告にて随時更新していきます。

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