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37:ロックという男

 クロエとシンはその後も雑談をしながら朝の準備を進めていく。


『ロックはどうしました?』

『今日は新しい面子と組んで早朝から挑むと言っていたわ。だから帰って来るのは昼過ぎになるわね』


「ロック……」


 モモの口からその名が零れる。幼馴染みがクロエと知り合ったのが心中複雑なのだろう。それ以上の感情はないと思いたいが。


「やはり、顔見知りでしたか」

「実際に見てみない事には、何とも…」

「…そのような儚げな表情を見せられては、妬けてしまいますね」


 すかさず口説こうとするセイに肘打ちを食らわすが、レッドリオも同感だった。もしも彼女が故郷にいる内からロックへの想いを秘め、その口で自分たちに接していたのだとすれば……いや、王都に来る前はどうあれモモは現時点で好きな男はいないと言ったのだ。それを信じるしかない。


 レッドリオたちの心中を余所に、クロエは厨房で何やら作り始めた。小麦粉、バター、砂糖…どうやら焼き菓子のタネを今から作って寝かせるようだ。


『クッキーですか』

『女将さんの料理を手伝うようになって勘が戻ってきたから、久しぶりに作りたくなって。もちろん許可は取ってあるわよ』

『ロックに渡して気を引こうとお考えなら、殿下と結果は同じだと思いますよ』


 今日のシンはいつになく辛辣だ。口説けと言っておいたのに無駄だと諦めたのだろうか。案の定、クロエは気分を害して頬を膨らませた。


『失敗したら自分で食べるわよ。大体、ロックとはそんなんじゃないって言ってるでしょ? モモ様のために冒険者にまでなった人相手に…』


「ロックが、私のために……」


 呆然と呟くモモに焦燥感が募り、周りの面子は口々にアピールを始める。


「私も貴女が望む事なら何でも叶えてあげますよ。たとえ幼馴染み相手だろうと、モモ嬢を想う気持ちは誰にも負けません」

「わ、私だって…」

「おやダーク、君が暴走したせいでモモ嬢の貴族入りがおじゃんになったのを忘れたのかい? それだけじゃない、殿下が」

「モモ、ロックとはお前から見てどんな男なんだ」


 言い争うセイとダークを遮り、レッドリオが切り込んだ。責めるような眼差しに対して怯えた表情を見せるが、無理にこの上映会に割って入った以上、聞く権利はあると思う。


「ロックは……孤児だったのを故郷のパレット村の村長さんに引き取られました。優しくて面倒見が良くて……すごくいい人だったと記憶しています」

「好きだったのか?」

「いえ、あの……幼い頃から一緒だったので兄妹のような関係でしたし、その…とにかくいい人で」

「なるほど、恋愛対象ではなかったと言う訳ですか」


 苦笑しながらもホッとした様子が隠し切れないセイ。確かにロックは、レッドリオたちから見て冴えない風貌だった。モモと一緒に王都の学園に通っていたとしてもそれほど目立つとは思えず、彼等もロックを恋敵とは認識できなかっただろう。

 ならば、クロエは――? レッドリオに捨てられた彼女が次に選ぶとすれば、その見目の良さから幼い頃に拾われて以来側に仕えているシンだと思われていたが。田舎臭さの残るぽっと出の男にあっさり鞍替えしたとすれば、何か釈然としないものを感じるのだった。



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