234:ロックの危機
(え、何? 何が起きてるの……どうしてロックが串刺しになってるの? さっき、私を襲ってきた髪から助けてくれたのは……嘘っ!?)
「ガッ、は……」
「ロック――!!」
血を吐き出すロックに一気に現実感が押し寄せ、口から悲鳴が迸る。メランポスがすぐさま追い付き、生き物のような髪に食らい付いて引き千切る。パリン、と音がして、サラサラの虹色の髪が突如爆発したようにボサボサになった。どうやら顔にも一撃を食らい、仮面が割れてしまったらしい。
腹を押さえた手の隙間から瘴気と血を溢れさせ、ロックは崩れ落ちた。
「ロック……ロック!! しっかりして、すぐ助けるから!」
意識を失ったロックを地面に横たえると、すぐに服を捲って傷を露わにする。より神聖魔法を効かせやすくするには、直接触れた方がいい。しかし様子を見る限りでは出血も酷いが、何より瘴気の量が尋常ではない。
(嘘、嘘よねロック……嫌だ、こんなの!)
傷口に手を当て、神聖魔法『浄化』を施す。先に傷を防いでしまえば、体内に瘴気が残ってしまうので、この場合回復はそれを祓ってからになる。
集中していると、周りの音が遮断されて状況が分かり辛い。猛攻に耐える中、「ぐわっ」とダイ様の悲鳴が聞こえて動揺するが、少しでも気を抜けばロックが瘴気に飲まれそうだった。
(泣いちゃダメ……今はそんな場合じゃないでしょ!)
そう自身を叱咤するも、焦りと絶望から勝手に涙が溢れてくる。
「うぅ……ぐすっ、お願いよロック……目を覚まして」
「お嬢様、こちらもそろそろ持ちません!」
「わかってるわよぉ……!」
ロックに庇われてからすぐに結界を張ったものの、攻撃の全ては防ぎ切れていない。結界を突き破ってくる髪の攻撃を払い除けながら私を守るシンにも、限界が近付いていた。
やっぱり追放された悪役令嬢の私じゃ、誰も救えないの? モモが殺すのを、ロックが死ぬのを止められないの? 神様、力をくれるのなら聖女でも魔女でもいい! 祈りなんてもう……とっくに出尽くしちゃったわよ……
だんだん体温が失われていくロックの体に覆い被さり、私は前世の宗派に倣って手を合わせる。この際、何にでも縋りたかった。
「お願い、ロックを連れて行かないで! わたくしの罪ならいくらでも償うから……助けてくれるなら、何だってするし、何もいらない……。お願いします、助けてくれるなら神様でも悪魔でも……」
ズキンッ!
「痛っ!?」
なりふり構わず叫んだ瞬間、突如私の頭に激痛が走り、意識は白く塗り潰された。
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