223:モモの正体の裏側
『三年前、村の教会で神力測定が行われたあの日――お前はいつものように明るく振る舞う一方で、心なしか怯えたような表情だった。そして神官に呼ばれて教会に入った後で、天にまで届くかってくらいの凄まじい光が放たれて……急いで駆け付けてみれば、そこには神々しいまでに輝く、自信に満ち溢れたお前が立っていた……
あの時点で気付いておくべきだったんだ。別人みたいな喋り口調だし、神官でも読むのに苦労する古書をスラスラ読めるし……みんな聖女として覚醒したおかげだって言うから、押し切られるまますぐに離れ離れになったけど、心のどこかでいつも引っかかってたんだ』
それは、『虹色クリスタル』オープニングの冒頭で語られる出来事。初代聖女から祝福を与えられ、聖女として覚醒したモモ。だけどそれを語るロックの声音は少し固くて、どこか悲しげだった。
(ロック、何を考えているの? まさか……)
嫌な予感がして、馬車を急がせる。位置的には、ここからそう遠くはないはずだ。
『お前は、誰なんだ? 俺の幼馴染みをどこへやった』
『酷いわロック……私はモモだって言ってるじゃない。ただ前世の記憶を思い出しただけ』
モモはついに自分の正体について、明かす事にしたようだ。こんなの聞かされたって、ロックも殿下たちも意味分かんないわよね。聖教会の教義にも反するし、イエラオ殿下みたいにあっさり受け入れる方がどうかしてるわよ。
「お嬢様、通り道の先に魔獣が集結しています!」
「さっきまで全然出てこなかったのに!?」
「恐らく、あいつらの向こうに殿下たちがいるのではないかと」
モモが魔女クロエのように召喚を行っているのなら、上級者向けダンジョンが空っぽになっているのも道理だ。ぐずぐずしていたら間に合わなくなってしまう。
「ミズーリ嬢、ランチャー一発で仕留められるかしら?」
「待て、それはギリギリまで温存しておけ」
私の指示を止めたのは、ダークお兄様だった。私の神具を構え、馬車の外に狙いを定めている。
「僕なら、一度でカタを付けられる」
裸眼のお兄様に見えているのは、邪悪なる気そのものだ。そして、彼が的を外す事はない。ここは馬車に寄ってくる魔獣のみを払う事に集中した方が良さそうだ。
私たちが戦闘準備に入る中、ブローチからは彼らの会話が流れていた。
『前世か何か知らねぇけど、だったら覚醒前の記憶はどうなったんだよ? モモだって言い張るなら、思い出してみろ。そいつこそが、俺にとってのモモだ』
『知らないわよ。あんな天然田舎娘なんて、とっくに消えてるわ! 今は私がモモなんだから、受け入れなさいよ!!』
モモから吐き出された残酷な言葉が、わんわんと反響している。静寂の中、ロックはどんな思いでいるのだろう。モモのためなら、命すら惜しくなかった貴方は、消えてしまったと本人の口から聞かされた今――
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※「がうがうモンスター」「マンガがうがう」にてコミカライズが連載中。
※書籍情報は活動報告にて随時更新していきます。





