216:ハッタリ
「セイ様は、まさかモモ様が好き好んで魔女になったなんて思っていませんよね」
「当然です。彼女はきっと操られている……私の予想では、その犯人は貴女だと見ているのですが」
セイ様が探るように睨んでくるが、本気で疑っている訳ではないのだろう。彼にとってモモが魔女かどうかは関係なく、単に私が嫌いなだけだ。そして、敢えてそこは否定しないでおく。
「いい線を突いてきますね。仰る通り、聖女の資格を持つ者はその反面、魔にも染まりやすいのです。とりわけ純粋であるほど……
『悪しき獣を生み出す風を鎮めんがため、神に選ばれし二人の乙女、祈りにて魔に立ち向かう。されど邪悪なる意思は清らかな心を蝕み、やがて乙女の片割れは誘惑に抗えず、闇に屈す。後の世は魔に魅入られしその者を魔女と呼び、片割れを封じた乙女を聖女と呼ぶ』
初代聖女と魔女の誕生についての書物にもそう記載されています」
「それは……聖教会にあった禁書の? 貴女も読まれていたのですか」
「まあ、腐っても『仮の聖女』でしたからね」
正確にはゲームからの知識だ。現世では古文は大の苦手で、翻訳するのも一苦労だった。当然、記述の意味など考えた事もない。まさか、私が将来的に魔女化する布石だなんて事は。
「では、貴女は『邪悪なる意思』がモモ嬢を操っていると、そう言いたいのですか? 私には、むしろ別人のようになった貴女の方が怪しいのですが」
禁書の内容を知っているあたり、どうやらセイ様はモモから聞かされていたようだ。なるほど、そうやって私が魔女に乗っ取られたと言って討伐まで誘導したのね……やってくれるじゃない。
「ええ、実際に私にも『魔女の囁き』はありましたよ。王都を追放した連中に復讐しろとね。……けれど、私はそれに抗った。自分を見つめ直し、悔い改める事で『邪悪なる意思』を跳ね除けたのです。
セイ様、貴方も見ていたのなら分かるはずでは?」
正確には魔女が囁いていたのではなく、わたくしの抑え切れない本音が駄々漏れていたのだけれど、そういう事にしておく。セイ様は信じられないという風に首を振った。
「貴女が『邪悪なる意思』を跳ね除けた? そんなバカな……それなら、それならモモ嬢は」
「言ったでしょう、聖女の資格を持つ者はその純真さ故に、魔にも染まりやすいと。
私はロックから、王都に来る前のモモ様の話を聞いています。明るくて誰にでも優しくて……初代聖女を思わせるほど懐の深い少女だったと。そんな彼女が、いくら私に恨みがあるからと言って倒すべき敵だと周りを焚き付けるでしょうか?
セイ様、貴方の恋心を否定する気はありません。だからこそ、『邪悪なる意思』に囚われているモモ様を解放してあげたいとは思いませんか? その愛が、本物であるのなら」
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※「がうがうモンスター」「マンガがうがう」にてコミカライズが連載中。
※書籍情報は活動報告にて随時更新していきます。





