表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
321/475

153:そんなんじゃない

「お嬢様、ちょっとよろしいですか。お聞きしたい事が……」


 浴室の洗面台を綺麗にして、厨房へ向かおうとしたところで、キサラに声をかけられた。聞かれたくない話なのか、廊下の周りを気にしていたので、中に招いて鍵をかけておく。


「なぁに、改まって」

「レッドリオ殿下との婚約を破棄されたと聞きましたが」

「ええ、そうよ」


 その辺も含めて色々あったから、今こうしているのだけれど。それがどうかした? と聞くと、キサラが複雑そうに目を細めている。彼女にはペディキュアなどの件でお世話になったから、ひょっとして教えた知識が無駄になったと言いたいのかしら。


「もう殿下に未練はないようですね」

「申し訳ないとは思っているのだけれど、引き摺るのも良くはないじゃない?」

「そうですか……いえ勘違いかもしれませんが、昨日からのお嬢様の態度を見て、あいつに惚れているんじゃないかと思いまして」


 キサラが口にした耳慣れない言葉に、一瞬私の思考は真っ白になった。

 惚れている……って何? 誰が? 誰に?


「あいつって」

「ロックですよ。さっきも顔を合わせようともせずに、モジモジと初恋に悩む乙女かって仕種で」

「は、初恋じゃないわよ!」

「知ってますよ!? ……で、どうなんですか?」


 詰め寄られて、うっと息が止まる。責められているようで……キサラにそんなつもりはなく、純粋に好奇心からなのかもしれないけど。私は――


「……そんなんじゃない」

「ですよね! お嬢様はクッソ面食いですから、ロックみたいな冴えない男は異性として眼中にないのは分かってました」


 キサラの遠慮のない物言いに、自分でも正体の分からないもやもやの中にいた私は、ついカチンときてしまった。


「言い過ぎじゃない!?」

「申し訳ありません、クソはさすがに品性に欠けましたね」


 そっちじゃなくて! それもあるけど! クソがつくほどだったの私!?


「いえ、今はどうでもいいわ……ロックはそこまで酷くはないわよ」

「そうでしょうか? お嬢様は殿下のような、見目麗しい貴公子がお好みだったじゃありませんか」

「そうよ! 確かにロックの顔立ち自体は、その辺の男と似たり寄ったりだわ。ずぼらで身嗜みも気にしないから、髪も肌もボッサボサのガッサガサだし! おまけにたまにおっさん臭いのよね」

「そ、そこまでは言いませんけど」


 自分から言い出したくせに、ロックへの不満を捲し立てる私に引いているキサラ。失礼な……


「だけどね、ロックって物凄く一途なの。大切なものを守るためなら死に物狂いで努力して、隣国の守護神にも認められるくらい。ちょっとやそっとの決意じゃできない事よ。

それにとびっきり優しくて……こんな私の事も信じてくれたの。とんでもないお人好しだと思うけど、受けた恩には報いなきゃね。それこそ彼を見習って、死に物狂いに」


 ふふ、と口元から笑みが零れる。誰かのために頑張りたいという気持ちなんて、王都にいた頃は持てなかった。キサラにはロックの仲間として、戦闘面で彼のサポートをしてもらわなきゃならない。私がそばにいられない分、いい印象を持ってほしくてそう伝えたのだけど……キサラの眼差しが生暖かく感じるのは気のせい?


「分かってもらえたかしら」

「はあ……よく分かりました。まあ平坦な道ではありませんが、ロックなら悪いようにはしないでしょう。あたしは応援しますよ」


 ……ん?


「でも短期間で面食いのお嬢様をここまでベタ惚れにさせるなんて、あいつなかなかやるわね……」

「!? 全然分かってないじゃない! 惚れたとかそんな……冴えない男なんかじゃないって話で!」


 焦って抗議の声を上げるが、キサラはうんうんと頷きながら浴室から出て行ってしまう。

 勝手に一人で納得しないでよ、もう!



※ツギクルブックス様より書籍版、電子版が発売中。

※「がうがうモンスター」「マンガがうがう」にてコミカライズが連載中。

※書籍情報は活動報告にて随時更新していきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

バナーイラスト
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ