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29:実習終了

 イエラオが何を言っているのか、すぐに理解できる者はいなかった。だが確かに、クロエが初めて成功させた手料理を受け取ったのはロックだ。レッドリオでもシンでもない。


「あいつが惚れているのはモモだろう。クロエだってそれは理解している」

「そうだね、でもクロエ嬢はモモ嬢が兄上と結ばれると予想しているし、そうなればロックはフリーだ。そもそも彼女が誰を好きになるかなんて、こっちの思い通りにできるの?」

「依存と言う形であれば、それが可能な立ち位置にいるのがシンだ。好意があるように見せかけていれば、あいつしか頼れる相手のいないクロエはその内…」

「上手く行ってないようだけど?」


 レッドリオとイエラオが応酬している間にも、数日間の出来事が流れている。ロックは朝にクロエの弁当を受け取り、夕食時には仲間と共に酒場を訪れる。帰って来ない日などはクロエが心配そうな表情で扉を見つめ、怪我を負っていれば即座に駆け寄り神聖魔法を施した。そんな彼女を周りは微笑ましげに見守り、すっかりロックの恋人のような扱いを受けていた。

 一方シンのアプローチには全く反応を見せず、事あるごとに甘い言葉を囁いても「もう私にそんな気を使わなくていいのよ」と躱される。そもそも一日中目が回るような忙しさで、なかなか二人きりにはなれないし、仕事が終わればクロエはぐったりと疲れ切ってベッドに倒れ込んでしまう。これでは惚れた腫れたどころではない。


 そうこうする内に、女将と約束した一週間が過ぎた。結果は採用、クロエたちは無事グレースの宿屋の正式な従業員になったのだ。


『チャコ、あんたは働き者だし宿泊客の評判もいい。それに、優しい子だ。どんな事情があるにせよ、好きなだけいてくれて構わない……いや、あたしらがここに居て欲しいんだ』

『女将さん、ありがとう』


「あの我儘娘が一週間も猫を被っていられたのは驚きだな」

「素直じゃないね、ダークは。可愛い妹が頑張っているんだから、認めてあげたら?」

「私の可愛い妹は、モモだけですよ。イエラオ殿下」


 憎まれ口を叩くダークに、イエラオはにやりと笑みを浮かべる。


「あれー? それじゃダークはモモ嬢に恋愛感情はないんだ。もし彼女がダークをそう言う意味で好きでも、妹としか見れないって断るし、男女として交際や結婚なんてあり得ないって言うんだね?」

「そ、それは……」

「キース、意地が悪いぞ」


 レッドリオが窘めるが、ダークとモモの関係が宙ぶらりんなのは、聖女とは言え平民であるモモが今のままではレッドリオとの婚姻が不可能なためにセレナイト公爵の養女になる案が出てきた事に始まる。しかしセレナイト公爵はクロエの実父、娘が追放されるきっかけになったモモを引き取るのは複雑なのか、話は上手く進んでいるとは聞かない。まずはモモが誰と結ばれるのか、それによって各自の対応も全く変わってくると言えた。



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― 新着の感想 ―
[一言] いくら気持ちがないとはいえ、口説いている女が他の男といい感じになっていて自分は全く相手にされていない…… なんて状態、シンのプライドが傷つけられまくっている気がして怖い。
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