2:断罪
カラフレア王国では、数十年に一度の割合で国内の瘴気が濃くなり、国家を危機に陥れる魔獣を生み出す。その都度、討伐が行われるのだが、際限なく生まれ続けるのできりがない。
だがある時、魔獣に呼応するかのように現れた一人の少女が、瘴気を全て浄化したのだ。
聖教会は彼女を聖女と認定した。以降瘴気が濃くなる兆しがあれば聖女を探し出し、見つからなければ育成すると言う決まり事が生まれた。
聖教会だけではなく、王家もまた聖女に関して決定を下す。それは、国を救う聖女を王家で囲い込む事だった。実際、後にその少女は王妃となっている。
レッドリオたちの世代がまさにその瘴気が立ち込める時期と重なったのだが、国を挙げて探し回っても、残念ながら聖女に該当する女児は発見できなかった。だからこそ聖教会は聖女の育成を掲げたのだし、政略のためにセレナイト公が娘のクロエを逸早く聖教会へ入れたのも無理からぬ事であった。
そして彼女が十歳になる頃、正式ではないものの仮の聖女として認定され、同時に第一王子との婚約も決定したのだ。
だがレッドリオは、クロエを到底聖女とは認められなかった。無論、将来の伴侶としてもだ。
何故なら彼女は傲慢で嫉妬深く、婚約者の王子の事すら自分を飾り立てるアクセサリーのようにしか考えていない。そしてお気に入りの『装飾品』が自分を愛さず、横から掻っ攫われるのが、とてもとても我慢ならない性分なのだ。
そんな彼女に婚約者面をされて隣に立たれる苦痛も、いい加減限界に達していた。地方から後天的に覚醒し、真の聖女として王立学園に通う事になった少女、モモ=パレットと出会ったのは、その頃だった。
素直で明るく、誰に対しても分け隔てなく優しい心の持ち主。そんなモモの姿を目で追い、気を抜けば彼女の事を考えてしまい、いつか自分だけを見てくれはしないかと望むようになったのは、いつからか。
激しく嫉妬し、モモへの嫌がらせを激化していくクロエを疎ましく思う一方で、モモへの想いは日に日に募るばかりだった。
そして真の聖女を見定めるべく聖教会にて行われた試練の最中、大勢の信徒たちが見守る中で断罪はなされた。
魔法のブローチで記憶させていた数々の証拠を突き出されたクロエは真っ青になり、背後に少女を庇うレッドリオに縋り付こうとした。
「違うのです、違うのです殿下! その女が、婚約者のいる高位の殿方とばかり親しくするから私は……」
「俺に触れるな! 貴様など、聖女を名乗るのも烏滸がましい……もう、貴様との婚約も考え直すよう父に提言するしかあるまい」
「そんなっ!」
項垂れて床に手を突くクロエ。そんな彼女を冷たく見下ろし、レッドリオはモモの肩を抱き寄せる。
「沙汰は追って公爵家に伝えておく。それまで大人しくしているんだな……では皆の者、これより真の聖女モモを認定するための儀式を――」
大広間からぞろぞろと信徒たちが出て行く。床に伏すクロエは、誰からも顧みられなかった。