113:吐露
「ロック……」
呆然と、屋根伝いにこちらへ近付いてくるロックを見上げる。何故、彼がここに? ……そう言えば、他人の魔力が見えるんだったわね。
月明かりに照らされたわたくしの顔を見たロックは、僅かに眉根を寄せた。
「泣いていたのか」
ハッとして袖で顔を拭う。はしたないけど、泣き顔を見られるよりマシだった。
「やっぱり悪趣味よ、魔力で相手の事が分かるなんて」
「屋根の上にいるのが誰かまでは、俺も実際見てみるまで分からないんだよな。指紋と一緒だよ、それだけ見せられても特定できねぇだろ?」
ドラゴンなら全部分かるんだけどな、と役に立つんだか立たないんだか分からない特技を披露し、ロックはわたくしの隣に腰を下ろす。
「あっち行ってよ、レディーの泣き顔をジロジロ見るなんて紳士のする事じゃないでしょ!」
「じゃあ、見ねーよ。あんたも俺の事なんて気にしなきゃいいだろ」
何なの、こいつ。
背中を向けたものの、動こうとしない彼の意図が読めない。ひょっとして、慰めに来たのかしら?
わたくしは悪役令嬢なのよ。隠しキャラのロックとは殺し合う仲……いえ、それはゲームだけど、現実でもモモをいじめた張本人なんだから。
「人前で、泣く訳にはいかないわ。わたく……私に、そんな資格ないもの」
「シンと喧嘩でもしたか?」
本当、デリカシーがないわね! ジロッと睨み付けてやるが、宣言通り、ロックはこちらを振り返りもしない。仕方なく、抱えた膝に顔を埋める。
「喧嘩なんてものじゃないわ。私が一方的に悪くて……自分がどれだけ救いようのないバカなのか、今更思い知っただけ。今までずっと寄り添って、孤独から救ってくれたのに、どれほど傷付けてきたのか考えると、申し訳なくて申し訳なくて」
シンに謝りたい……だけど、それすらただの自己満足で。どうすれば許してもらえるのかって、結局は自分の事ばかりだ。
こんな事、ロックにぶつけたって仕方ないのに。ただ黙って聞いてくれている空気が心地よくて、感情が言葉に、涙になるのを止められない。うっかり正体を明かしてしまわないように、詳細をぼかすのが大変だった。
「よく分かんねーけど」
ロックはそう前置きし、改めてわたくしの方に体ごと向き直った。
「悪い事したって気付けたんなら、今からでも直せばいいんじゃないのか?」
「ロックは知らないから、そんな事言えるのよ。本当の私を知れば、きっと貴方も……」
その先を言いかけて、唇を噛む。言ったらそれが、現実になりそうで。
(嫌……ロックにだけは、知られたくない!)
自業自得だと分かっているけれど、そんな未来が恐ろしくて、わたくしは慄いた。
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