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コミカライズ記念番外編「ロミオとジュエリット」(後編)

 ロックとは、クロエが断罪後に追放された道中で留まっていた宿屋以来の仲だった。『真の聖女』モモと同じパレット村出身で、幼馴染みでもあるという。


 シンは出会った当初から、ロックを目障りに思っていた。レッドリオから命じられた、クロエを自分に依存させる作戦が上手く行かなかったせいではない。

 以前のクロエにとって、男の価値には見目の良さは不可欠であり、美しい男は自身を飾り立てるアクセサリーだった。本来ならばロックのようなどこにでもいるさえない男は、道端の石ころと同様だっただろう。しかし対等に言葉を交わし接していく内に、クロエはロックを理解し、その内面に惹かれていった。


 彼女を変えるなど、婚約者にも専属執事である自分にも不可能だった。復讐が頓挫した事よりも、それがとてつもなく悔しい。シンは、ロックに嫉妬していた――その感情がどこから生まれてくるのかは考えないようにしているが。

 現在、クロエは傲慢な貴族令嬢だった過去など感じさせないほどに、ロックに対して素直にアプローチしている。償いも兼ねてクロエの事は生涯支えていくつもりではいるが、その恋を応援するかどうかは別問題だ。そんな思いでシンは憮然としつつも成り行きを見守っていた。


「久しぶりねぇ、ロック。貴方なら元気してるって信じてたけど、しばらく会えなかったのは寂しかったわ。まあ寛いでいってちょうだい。すぐにお茶を用意させるから」

「わっ、た……分かったから腕引っ張るなって!」


 目をキラキラ輝かせながら捲し立て、ぐいぐい引き込もうとするクロエに、ロックはされるがままになっている。彼がモモを誰よりも大切にしている、というのはクロエもよく分かっているのだが、チャンスがある限り想いを受け入れられる事を諦めたりしない。その辺りは昔と変わりはないようだ。


「わざわざこんな時間に押しかけて悪かったな」

「ロックならいつでも大歓迎よ。何なら直接私の部屋でも……」

「お嬢様?」


 自分の家のように振る舞うクロエに、家主として釘を刺させてもらう。自由に使ってもらっていいとは言っておいたが、さすがに夜這いの場所にされるのは勘弁してもらいたい。


「冗談よ」

「目が本気でしたよ」

「ハハハ、相変わらずだな……まあ用件を先に言うと、ジュエリット王女の婚約問題の早期決着。そのための要請を伝えるよう依頼された。これがリクーム公爵令嬢からの手紙だ」


 差し出された手紙には、まだこちらに来て日が浅い自分を気遣ってか、カラフレア語が書かれていた。内容はサフィール王太子から言われた事と似たり寄ったりだが、それに加えてロミオの化けの皮を剥がすための策がいくつか書かれている。


「二枚目は……何と書かれてあるのか、私には読めません。コランダム語とも違うようですし」

「どれどれ? ふーん、ナンソニア修道院でモモが習っていた文字に似ているな。確か古代カラフレア語だったか」


 シンの手紙を覗き込んだロックの言葉に、クロエは「貸して」と手を伸ばす。そこに書かれた内容を読み、苦笑いしながら顔を上げた。


「これ、私宛てだわ。他の人に読まれないよう、ニホン語で書かれてあるもの。前世は異世界の一般人だったから、その記憶をジュエリット王女の説得に活かせないかって」

「リクーム公爵令嬢がですか? 確かあの御方もそうなのでは……」

「記憶はあっても、カナリア様は貴族の生まれだから。もう既に何度も説得はされても、聞き入れてもらえなかったんでしょう? まあそれを言ったら私もそうなんだけど、だからこそ知恵だけ貸して欲しいって事かしらね」


 異世界の記憶――クロエとカナリア、そしてモモにはこの世界をゲームの舞台として見る事のできる、外側の人間としての記憶があった。しかし実際には箱庭ではなく、カラフレア王国の外にも果てしなく世界は広がっているし、物語に使われた時間軸から既に外れてしまっている。

 つまり事前に得た知識で破滅を先読みして回避するのは、もう不可能なはずなのだ。今更その記憶が、何の役に立つのだろうか。


 ここでクロエは、ロックに問いかけた。


「貴方はどう思う? ジュエリット王女の結婚の事」

「と言っても、俺も元は平民だからなあ。貴族としての教育も一応は受けたから、安易に好いた惚れたで決めていい問題じゃないのは分かるが」

「私も二つの人生を生きる事で、貴族と一般人の両方の立場を体験したわ。前世の()()()であれば……きっと大半の国民と同じように、賛同したでしょうね。同じ人間なのだからって。

まあ、何のために権威が必要か、なんて一般大衆は知らなくてもいいのだけれど、人の上に立つ者がそれでは困るわ」


 お嬢様、貴女がそれを言いますか。


 シンの物言いたげな視線に気付いたのか、クロエは咳払いした。王妃教育を受けていた頃の彼女が、貴族としての自覚を持ち、理解していたとは到底思えない。恐らく自嘲の意味も込めたのだろう。

 話を聞いていたロックは、頭を掻きながら首を傾げる。


「とにかく、ジュエリット殿下は数年前まで平民やってたような人なんでしょう? 難しい話で言い聞かせようとしても、ますます頑なになるだけ。

いっそ実際に痛い目見てもらった方が手っ取り早いんでしょうけど、彼女一人のダメージでは済まないでしょうしね。どうすれば、目を覚まさせる事ができるのか……」


 お姫様にも困ったものね、と笑うクロエ。ジュエリットは彼女より年齢も身分も上なのだが、すっかり子供扱いされている。シンとて本音を言えば、こんな面倒事には巻き込まれたくはなかった。しかし対応を間違えて王女が駆け落ちなどした日には、シンのみならずカラフレア王国にも責任が及ぶ。迂闊な言動を取る訳にもいかず、困り果てていた。


「試練……」


 ぼそりと、クロエの後ろに控えていたネスが呟く。


「どうしたの、ネス?」

「王女は恐らく、結婚を許されない今の状況を愛の試練と捉えているはず。だから周囲の反対は逆効果になっているのかと」

「それは、経験談?」

「……」

「ま、いいわ。なるほど、愛の試練ね……」


 カナリアからの手紙を読みながら、クロエはニヤリと口端をつり上げた。その表情は、シンにとっては見覚えがあり過ぎるもので。


(お嬢様が悪巧みしている時の顔だ)


「シン、貴方このままお姉様が不幸になってもいいと思う?」

「それは……まだ親交は深めておりませんが、血族ですからそれなりに寝覚めは悪いでしょうね」

「よろしい。お兄様が困っているとなれば、妹としては力になってあげないとね」


 一瞬、後ろに視線を送ってからシンに笑いかけるクロエ。そこにロックも割り込んでくる。


「なんか、イーリス山のクエストを思い出すよな。俺にもできる事があれば言ってくれよ?」

「懐かしいわね。もちろん、そのつもりよ」


 盛り上がる二人に一抹の不安を覚えつつも、シンは流れに身を任せるしかなかった。

 


 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆  


 後日、シンは再びジュエリット主催のお茶会に招かれていた。ロミオとの婚約の件について、もう一度話がしたいと手紙を出したのだ。数日ぶりにあったジュエリットは、大層喜んでいた。


「味方になってくれてありがとう、アメジスタ。貴方がついていてくれれば百人力よ」

「どこまでお力になれるかは分かりませんが……とりあえず今の時点で姉上がどうしたいのかを確認させてください」


 クロエからのアドバイスで、極力相手は否定するなと言われている。またも『アメジスタ』と呼ばれているが、それを含めてシンはスルーした。


「ええ……ロミオの実家がどうなっているのか、どう言われているのかは知っているの。だけどそれでも、やっと会えた家族にはわたしたちを認めて欲しいのよ。家の事だって、一緒に解決していきたいと思っているわ」

「問題があるのが分かっているのであれば、説得するよりもいっそ身分を捨ててみては? お二人は元々平民として知り合ったのでしょう」


 王家としては駆け落ちは避けたいと知りつつも、一応探りを入れてみる。身に覚えがある事だが、こういうのは障害が大きいほど燃え上がってしまうものだ。その辺を突くと、ジュエリットは言いにくそうに俯いた。


「わたしもそう思ったのよ。どうしても賛成してくれないなら、お金も要らない。二人で逃げようって。

だけどロミオは、自分たちは何も悪い事はしてないんだから、堂々と信頼を勝ち取ろうって……」


 つまり第一王女としての地位と莫大な支度金は譲れないのか。愛のためならそれくらい捨ててみせろというアドバイスは、言われるまでもなく実践済みだった訳だ。

 どうやら自分でも上手く感情を整理できていないのが見て取れた。「祝福されたい」というのは、ロミオにそう言われたから。シンの前にも様々な人からアドバイスを受けてきたはずだ。それでも納得できないのは、彼女が本当に欲しい答えを誰もくれないから。


「ねえ、どうすればお兄様に、皆に受け入れてもらえるのかしら? わたしだって、好きな人を悪く言われ続けるのは辛いのよ。わたしの幸せはあの人以外に考えられない。だから……」

「では、それでいいではないですか」


 むきになって主張するジュエリットは、あっさり認めたシンに勢いを削がれて「え?」と気の抜けた声を上げてしまう。


()()()()()()、彼を信じてついていくのでしょう? それが姉上の幸せなら、好きにしてはどうですか」

「で、でも……彼との結婚は反対されてて」

「誰が見てもろくでなしの男を見捨てず、添い遂げようとする心意気はご立派だと思いますよ」


 相手をクズ呼ばわりすれば、当然ジュエリットは憤る。が、即座にジュエリットを持ち上げる事で反論を封じ、そのまま畳みかけた。


「私は姉上の存在を知ってからそれほど日は経っていないのですが、きっと誰かの力になる事に喜びを感じる、優しいお人柄なのでしょう。かつての私も、困ったり悩んだりしている人を放っておけない女性に心惹かれた事があります」


 目を閉じると思い浮かぶ、桃色の髪。自分の姉とやらは、驚くほど以前のモモに似ていた。無邪気で純粋で、あまり深く物事を考えない……モモの場合はそう振る舞っていただけだが、ジュエリットは天然だ。そして()()とはこれほど厄介なのだと、身をもって思い知らされた。


「王女の身でありながら、平民の手を取る貴女の優しさは、美徳なのでしょう。そんな心優しい貴女だからこそ、相手の本心はきっちり確かめるべきです。

姉上、ロミオ氏は絶対に貴女を裏切らないと誓えますか?」

「もちろんよ! あの人が愛してくれる限り、わたしも彼を裏切る訳にはいかないわ」

「でしたら……彼が王女の相手に相応しい人間である事を、国民の前で証明しなければなりません」


 縋るような目で断言するジュエリットからは、彼への疑いは一片も見られなかった。訴えれば分かってくれると思い込んでいるようだが、残念ながら彼女の立場はそんなに甘いものではない。

 そこに「こうすればみんなが納得してくれる」という餌をぶらさげればどうなるか。


「その、方法とは――」

「失礼します! 国王陛下から、お二人を玉座の間に案内するようにとのご命令が……」


 その時、ちょうどいいタイミングで護衛騎士の一人が駆け込んできた。


「お父様が? お体は平気なの?」

「はい。ですが、それどころではないご様子で……グリーンドラゴンが直々に陛下に神託を下されたとの事です」


 長らく病床についていた国王からの呼び出し。そして沈黙を保っていたこの国の守護神からの神託。さすがのジュエリットも言葉をなくし、結婚の事も頭から吹っ飛んだようだ。

 促されるまま、フラフラと出ていく彼女を、少し離れた位置から冷めた眼差しでシンは見送った。


「ジュエリット王女殿下。()()()()使()()()()、御武運をお祈りしていますよ」



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ 


【コランダム王国民の皆さん、ごきげんよう。わたくしは第一王女ジュエリット=コランダムです】


 その日は、快晴だった。コランダム王国民たちは、突如聞こえてきた女性の声に何事かと外に出て、仰天した。

 空一面に、正装に身を包んだ第一王女の姿が映し出されている。コランダム王国は魔道具(マジックアイテム)の開発に特化した国ではあるが、それでも国中どこでも映像を見せられるほどにはまだ発展していない。恐らく、何人もの強力な魔術師によるものだと思われた。


【数日前、国王陛下のもとに我らが守護神グリーンドラゴンが神託を下されたのです。その内容とは、わたくしジュエリット第一王女の配偶者となる者に愛の試練を与える。

見事その試練を乗り越えた暁には、守護神自らが祝福を与え、何者にも異を唱えさせないというものでした】


 その者の名は、映像のジュエリットは告げなかったが、今や時の人となっていたので、誰もが知っていた。固唾を飲んで見守る中、王女は後ろが見えるよう、体を少しずらす。


【具体的な内容ですが、現在わたくしのいる此方、試練の洞窟の最深部には、支度金として用意された巨大なエメラルドがあります。わたくしを妻にと望む者はここまで辿り着き、エメラルドを持ち帰る事。それが試練となります。ただし――】


 映像は眩いばかりのエメラルドの塊から、反対側へと視点が切り替わる。途端にあちこちからどよめきが起こった。

 それもそのはず、王女の隣にいたのは、神殿の像でしか見た事のない、巨大な緑のドラゴンだったのだ。コランダム王国の守護神グリーンドラゴン――その姿を見た者は、ここ数年ではドラゴン騎士団長の養子となったグリンダ伯爵子息くらいのものだろう。


 グリーンドラゴンはエメラルドに向かって、口からカッと閃光を吐き出す。たちまち木っ端微塵になるかと思いきや、エメラルドはキラキラ輝きながらその形態を変化させていき、なんと一匹のドラゴンに姿を変えたのだ。

 エメラルドだった幻獣はグオオッと咆哮を上げ、ジュエリットは怯えを隠しきれず身を強張らせる。しかし彼女に鼻を近付け匂いを嗅いでいたドラゴンは、やがて優しく頬を一嘗めして大人しくなった。


【み……皆様、ご覧になりましたでしょう? 愛の試練とは、三日以内にこのエメラルドドラゴンを倒す事。息の根を止めれば、この子は元の姿に戻ります。そうすれば……莫大な支度金が手に入ります。

と言っても、必要なものは本物のドラゴンを倒せるだけの戦力ではありません。どれだけ非力であろうとも、わたくしへの愛が真実であれば、ドラゴンは自ら頭を垂れる……と言っています。ただし嘘であった時は、その首は容赦なく食い千切られるとも。

宝石は、人の本性を暴き立てます。どんな身の上であれ、わたくしそのものを真っ直ぐに見てくれるその心があれば、ドラゴンは必ずや認めてくれるでしょう。


皆様、わたくしは信じています。わたくしの愛する御方は、誠実で誰よりもわたくし自身を愛してくれていると。そして必ずや愛の試練に打ち勝ってくれると。だからわたくしは今から三日間、ずっとここで待ち続けます。

国民の皆様も、どうか『彼』の誠意を、その目で見届けてあげてくださいませ。コランダム王家とグリーンドラゴンの名のもとに】



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 結論から言えば、ロミオは来なかった。それどころか親戚一同行方を眩ませてしまったのだ。目撃者によれば、王女の映像が空に映し出された日の深夜、帝国に向かう不審な馬車があったそうだ。


 ジュエリット王女は洞窟の中で五日間、期限を過ぎても待ち続け、最後には意識を失ったところで救助された。衰弱していたが、身体よりも精神的な要素が大きいとの事。

 自分勝手に王女と平民の恋を応援していた者たちは、「最初から怪しいと思っていた」「結婚できるに賭けていたが、占い師に聞いて止めて正解だった」「世間知らずな姫が詐欺師に逆上せ上がっただけだ」などと、これまた自分勝手に手の平を返していた。

 しかし大半の国民は王女のあまりの落ち込み様に同情的であり、また国王の命令によりエメラルドドラゴンのいる洞窟は挑戦者が現れるまで結界で封じられる事になったので、本当にジュエリットに相応しい相手が現れるまではと王女を引き続き応援する親衛隊が結成された。


 連日王女を見舞っていたカナリアによれば、「あんな不誠実な男だとは思わなかった」と泣いてばかりいると言う。兄のサフィールも公務の間を縫って会いに行っているが、弟に無理を頼んだ事を謝りたいらしい。シンは断ったが。


「私の方こそ、他国の者だからと無責任な発言で後押しをしてしまいました。弟としての愛があるならば、相手を殺してでも止めていましたから」


 それだけ伝えてもらい、会おうとはしなかった。これは本心でもある。カラフレア王国民となったシンにとって、他人のジュエリットが男に騙されようが、その余波で国が混乱しようがどうでもいい。今のシンが守るべきは、ただ一人なのだ。


 その当の本人は、この作戦に協力してくれたロックに礼を言っていた。


「ごめんなさいね、ロック。グリーンドラゴンに頼めるのなんて、貴方しかいなかったのよ。説得が大変だったでしょう?」

「いやまあ、確かに後でお宝催促されるのは面倒だけどさ。大切な友達が困ってるんだ、これくらい何て事ないさ」


 高性能の魔導カメラに収めた映像を空一面に映し出せるだけの膨大な魔力も、支度金のエメラルドをドラゴンに変えたのも、もちろん国王に神託を下したのもグリーンドラゴンだった。気難しいと言われるこの国の守護神に唯一頼み事をできると考えると恐ろしい。幸いなのがロックに国をどうこうする気は全くなく、ただ困っている者を自分の判断で手助けするだけという事だ。


「ふふふ、それでこそロックよね……そういうとこ好き」

「か、からかうなよ!!」


 耳元で囁かれたロックは飛び上がり、真っ赤になって後退った。残されたクロエは悪戯が成功した子供のように人の悪い笑みを浮かべている。全く、我が義妹殿はいつも見込みのない相手ばかり追いかけている。それが何とも哀れで歯痒い。


(いや……本当にそうだろうか?)


 今のクロエは心の底から楽しそうにしている。愛の言葉はなくともロックの心には思いやりに溢れ、裏表がないと分かっているからだ。レッドリオ王子に篭絡しろと命じられた時は、いくらアプローチしても靡かなかったが、ひょっとしてクロエには最初から分かっていたのかもしれない。シンの愛が作り物である事に……


(あの時は、そうだった。だからこそ今は……)


「どうしたの、シン?」


 ロックと別れて戻ってきたクロエが、深刻な表情を気に留めて覗き込んでくる。こうして異変を感じ取って声をかけるなんて事も、彼女の変化の一つだ。


「ジュエリット殿下が心配よね……サフィール王太子はこれを機にお見合いを兼ねたパーティーを計画しているそうだけど、ちゃんと彼女の心に寄り添ってくれる相手じゃないと」


 こちらの心情など知りもしないクロエに一矢報いたくて、シンは身を屈めると、その憎らしい頬に接吻した。


「! っな……何??」


 頬を押さえて狼狽えるクロエ。このくらいなら挨拶程度なのだが、珍しく親しげな態度に驚いている。


「クロエ様、今回は私も頑張りました。大切な、貴女のためにですよ」

「え……あ、ありがとう。貴方にそう言ってもらえるなんて……()()()()、少しは許されたのかしら」


 嬉しそうにはにかみつつも、そう口にしたクロエに、苦い想いが沸き起こる。彼女がその身に刻み付けた罪の意識は、この先もずっと残り続けるのだろうか。心の奥底にまで触れる事ができない自分に寂しさを覚えるが、それでもシンはクロエの望むままにこれからも在り続ける。兄でも専属執事でもペットでも――彼女が幸せなら、どんな形であろうとも。



※ツギクルブックス様より書籍版、電子版が発売中。

※アプリ「マンガがうがう」にてコミカライズが連載中。

(自作PV→https://youtu.be/MH-fwoiSxfY)

※書籍情報は活動報告にて随時更新していきます。

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[一言] 冗談でも心の内だけでもペットはやめておけ。それをされて人格を疑われて憎み裏切りを決意した男の言葉だと寒気がするだけです
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