102:心の整理
モモが目を覚ましてから、さらに三日が経過した。
ロックはシトゥム街へ下り、王都から送られてきたモモ宛ての手紙を受け取ってきた。そう言えば彼がシンにも時々貸していた移動用の魔道具、直接見てみれば中に緑の羽が入っていた。村にいた頃いつの間にか手にしていた、不思議な力を秘めた羽だそうで、隣国へ養子入りした後に特注で魔道具にしてもらったらしい。間違いなく、モモが聖鳥召喚の媒介にしていた、あの羽だった。
モモへの信頼が失われると同時に、その効力も消えていた羽たち。ロックが今も使えるのであれば、つまりはそう言う事なのだろう。男として、格の違いを見せ付けられたような気がした。
(だが、それなら――クロエの気持ちは)
数枚の板から新しくドアを製作中のダイの脇をすり抜け、教会のレリーフの前に跪くセイ、食堂で昼間から飲んでいるダークを横目に、レッドリオの足は宿の二階へ向かう。モモの部屋の前では、相変わらずシンが通せんぼするように立っていた。という事は、そこにクロエがいる。
「またドアを壊す気ですか。女将にあれだけこってり絞られたのに、懲りない御方だ」
「今はまだないだろう。……様子を見に来ただけだ」
「あら、レッドリオ殿下」
その時、退出しようとしたクロエと目が合った。急に近付かれたので動揺が隠せなかったが、それに構わずクロエは部屋の中を振り返る。ベッドの上でモモは、学園の寮から持ってきてもらった故郷からの手紙を読んでいた。一枚一枚丁寧に、読み終わってもまた同じ手紙を繰り返し。
「あんなにゆっくり読んでいたら、日が暮れてしまうだろう」
「どうりで休日が潰れるはずですよね……でも、それでこそモモですよ。本当は故郷や家族を何より大切にする、そんな女の子なんです」
穏やかな笑みを湛えたクロエの眼差しは、恋敵に向けるものではなかった。慈愛に満ちた横顔に、何故か鼓動がうるさく感じる。何か話さねば、と口を開きかけるレッドリオだが、その前にクロエが話しかけてきた。
「そう言えば、殿下はもうモモと話はされました? 何故かあれから、お兄様たちの様子がおかしいんですよ」
「い、いや……まだだが」
あんなにいい子なのに、と首を傾げるクロエには、曖昧にはぐらかすしかできない。一応、あれからモモと言葉を交わそうとはした。だが王族を前にしてすっかり恐縮したモモは、錯乱したようにひたすら謝っていた……例の口調で。
(まあ、従来の平民とはそんなものかもしれんが……)
モモが口を利く度に、ゾンビのような顔色で距離を取る側近たち。勝手なもので、騙されても思い出は思い出として美しく残しておきたいらしい。とっくに吹っ切っていたダイは「友達としてなら、結構好きだけどなー」と苦笑いし、シンは一瞬でも引いてしまった自分に罪悪感でもあるのか、逆に進んで会話するようになった。
レッドリオは……実は彼らほどショックを受けていない自分に驚いている。田舎者丸出しで喋るモモには頭痛を覚えるし、僅かに残った未練も綺麗さっぱりなくなったのだが、自分が恋したあのモモは本当に消えたのだと分かっても、思ったより胸の痛みはなかったのだ。
(真実の愛ではなかったと言う事か……そもそも、真実とは何だ? モモもクロエも隠し事をしていて、しかも前世だのゲームだの、意味の分からないものが真実だとか言い出すし……最早何が真実なのかも分からん)
全てが疑わしいのであれば、いちいち気にしても仕方がないのかもしれない。それでもレッドリオは、気になってしまうのだ。どうして今更、知ったところで……と自身の不可解な胸の内に戸惑っていると。
「お嬢様、イエラオ殿下がご到着です。お嬢様と二人きりで、話がしたいと」
廊下に出ていたシンが呼びに来た。
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