王都へ向かう
「ねぇ、王都までどれくらいかかるの?」
何処までも続く一本の街道をひたすら歩く。遠くの方に町のようなものが見えるが、それが王都のようには見えない。
「あそこに見えるのが王都から数えて二つ目の町、ラインだ。あの町から凡そ半日かかるから、今日はあの町で休もう。」
「王都って遠いのね。」
「ヒュールは王都から三番目の町だから、まだ近い方だよ。一番遠い町だと二ヶ月ははかかるからね。・・・あ、ヒュールっていうのはさっきの町の名前だよ。」
リリウム王国は相当広大な国なんだ、ということが分かった。魔物が出現することを考えると、移動するにも相当のリスクがあるようね。
「車とか、鉄道とか、そういった交通手段はないの?」
異世界からの転生者が多く居る世界なら、そういった技術が持ち込まれていてもおかしくない。でも、さっきの町は見たところ、映像作品で見るような中世の街並みのように見えた。あまり技術が発達していないのかもしれない。
「あー、前もそんなこと言ってる転生者が居たんだけど、この世界にはそういったものは無いね。俺の前世の世界にもそれはなかったから、どういう物なのかよくわかんないんだ。色んな人に聞いてみたけど、知ってる人はあまりいなかった。」
驚いた。まさか、交通手段の発達した世界の方が少数派だったとは。でも、知ってる人が来てても実現していないということは、なにか要因があるのかもしれない。
「・・・マリー、下がって。」
咄嗟にモールが剣を構えて前に出る。すると、前方の草むらから五人ほど、いかにも悪そうな顔をした男が出てきた。
「チッ、バレてたか。仕方ねぇ、やれ。」
盗賊、といったところかしら。あまり強く無さそうな見た目をしている。首領とおぼしき人物が取り巻きに命令すると、三人が武器を構え此方に向かって走り出す。
モールはどうするのかな、なんて呑気に眺めていると、モールが構えた剣が謎のオーラを纏って光り出す。
「風魔法『エア・ソード』!!」
うわっ。
あまりのダサさに思わず絶句してしまう。なんて酷いネーミングセンスなんでしょう。聞いてるこっちが恥ずかしくなる。ただ、威力はそれなりにあったようだ。三人の盗賊は吹き飛ばされ地面に叩きつけられた。
「土魔法『岩石砲』!!」
後方に立つ男が何かを唱えると同時に、空中に、昔アニメで見たような所謂‘魔方陣’と思われる紋様が浮かび上がり、そこからそれなりに大きな石の塊が複数個、高速で発射さる。
「ウグッ・・・!」
その内の一つがモールの腹部に命中する。あぁ、あれは痛そうね。でも、モールは怯まない。再びモールの剣にオーラが纏う。その時だった。
「!?」
何者かに後ろから取り押さえられる。
「オラッ、動くな!!」
どうやら、仲間がもう一人いたみたいだ。
「ハハハ!よくやった!おい、お前、変な真似すんじゃねぇぞ?」
「マリー!くそ、やめろ!!」
・・・ハァ、面倒臭いことになったわ。なんだか茶番劇を見ている気分になってきた。今までのは自分が関わってなかったから見てられた。でも、自分も関わるとなると話は別。こういう展開は私、好きじゃないの。・・・面倒だから、全部呑み込んでしまおうかしら。
「!?マ、マリー、やめろ!俺が助けるから!!」
「・・・?何言ってんだあいt・・・う、うわぁ!?」
まず一人。後ろの男を呑み込む。
「ヒッ・・・が、『岩石砲』!!」
私目掛けてさっきの石を飛ばしてくるが、それすらも闇の中に消えていく。・・・おや、首領とおぼしき人物が、仲間を置いて逃げ出したね。
「逃がさないよ?」
残りの二人の足元にも闇を広げ、二人の男も呑み込む。
「うわぁ、た、助けてぇ!!」
首領とおぼしき人物が情けない声で助けを請うが、今さら止める気はない。・・・念のため、さっきの三人も呑み込んでおこう。
そして、漸く静かな元の街道に戻る。
「さて、行きましょう?」
モールは微妙な表情を浮かべていた。
・・・
「マリー、さっきの盗賊はこの辺で出しておいて。」
モールが曇った表情をしている。
「どうして?あの町には牢屋とかはないの?」
「いや、そういう訳では無いんだけど・・・。」
モールが言いにくそうに口を開く。
「あのね、闇属性っていうのは珍しい属性って前言ったけど、あまり一般市民は闇属性の力を知らないんだ。それに、固定観念として『闇=悪』と捉える人が非常に多くて、町中で能力を見せたら君を恐れて追い出そうとする人も出てくるかもしれない。無用なトラブルはなるべく避けた方がいい。」
言われてみれば、納得こそしないものの言いたい事は分かる。光と闇では、闇は負の側面として捉えられ、闇を悪と捉えるのも頷ける。ただ、そんなことで追い出されるのは嫌だ。
「しょうがないわね。その辺の草むらにでも捨てておきましょう。」
少し道から外れ背の高い草の生い茂った場所に盗賊を吐き出す。
「うわぁ、廃人みたいになってる。」
皆一様に発狂しながらのたうち回る。見るに堪えない。
「うん・・・そりゃ、あんなところに五分くらい閉じ込められたらこうなるよ。」
「人って脆いのね。」
モールが引き気味に私を見る。そんなに変なこと言ったかしら。
「・・・取り敢えず、町に行こうか。能力は見せないようにね。」
気付けば日が沈みかけている。急いで町に向かおう。
・・・
辿り着いた町も周りを塀で囲まれている。ただ、ヒュールよりも大きな町だ。
「大きな町ね。」
「ラインは二つの街道が交差する場所にある町だからね。必然的に、人も多く集まるのさ。」
賑わう道を抜け宿に入る。流石に、部屋は別々にしてくれていた。
「明日の朝は早く出発するけど大丈夫?」
「ええ、問題ないわ。」
明日の行程を確認する。順調にいけば、明日の昼前には王都に着くらしい。
近くのレストランで食事をした後、各々の部屋に戻る。起きていてもすることは無い。灯りを消して、ベッドに寝ころび瞼を閉じる。
・・・思った以上に、私は異世界転生という状況をすんなりと受け入れられた。前世では死んでしまう程に追い詰められていたが、一度死んだことで少し冷静になれているのかもしれない。闇、という力も、私にはまだわからない。ただ、この力は確実に私の役に立つ。上手く扱えるようにしよう。この世界のことについても気になる。私のいた世界とは大きく違う世界。少し、この世界について知りたいと思った。