57.自己紹介
オラオラァ!さっさと話を進めるんだよぉ!
「このクラスを担当する事になったデニス・チェンバレンだ。基本的にこのクラスは異なる学科の者同士の交流を促す事で偏見をなくし、卒業後もスムーズに連携が取れる様に設けられている」
そう一息に自己紹介と簡単な説明を終えたのは、今僕らの目の前の教壇に立つ一人の男性教師だ。
彼自身はどうやら魔術科の担当らしいが、それとは別に僕達のクラス担任も兼任する様で、魔術科のマントを羽織っているクラスメイト達に対しても二、三言ほど何かを伝えている。
「さて、このクラスでは他学科の者たちと積極的に交流を持つべきだという事は話したが、年に一回は本当に連携が出来るのかどうかを試験する学祭がある。そこではクラス対抗で総合力を競う事になるので、真面目に学科による差別などはしない様に」
ここまで執拗に釘を刺すという事は、やはり何かしらの差別という物は根強いのだろう……特にほぼ全ての生徒が貴族出身の中で平民の僕はよく目立つ。
そんな平民である僕も一緒に受け持つ事になったから、特別気を遣っているのかも知れないけれど、上手くやれるだろうか。
「さぁ、仲良くなるにはまずを相手を知らなければならない。番号、名前、学科、得意な事や好きな事……出席番号順に自己紹介をしなさい」
自己紹介、と言われても何を言えば良いのか……あれ? ちょっと待てよ? もしかして僕って村以外で能動的に誰かと繋がりを持とうとした事がない?
おじさんも、カインさんも、カメリア侯爵も……みんな厚意で向こうから僕の手を取ってくれたけど、僕が自分から他人と仲良くしようとした経験がない事に今さらながらに気付いてしまった。
「カメリア侯爵家のセシルと申します。出席番号は1番、学科は領主科、得意な事は防衛魔術になります」
まぁ、最初はこの中で身分が一番高くて領主科を首席で合格したセシルか……となると、平民の僕は最後らへんになるだろうから、その間になんて言うのか考えないと。
隣でテラが『こういう時は最初が肝心なんです! ここで外すとこの先の学校生活が辛いですよ!』なんて脅して来るものだから気が抜けない。
……というか、テラは自称大地の精霊なんだから学校に行った事なんてないだろうに。
「出席番号5番! 騎士科のエルヴィン・ブランデンブルグ! このクラスの、ひいては世界のトップに立つ男だ! 俺と一緒に魔王を倒し、覇を唱えたい者はついて来い!」
うわっ、なんか凄い人が居る……普通に考えたらこのクラスはセシルを中心として纏まるべきなんだろうけど、これはちょっと荒れそうな予感がする。
いや、こんなジャジャ馬も躾ける事でセシルの領主としての腕も鍛えられるのかな?
「はい、徒に序列を乱さない様に」
「いずれ覆る!」
「次どうぞ」
「仕方あるまい! 許す!」
とか思ってたら普通に先生が窘めたな……まぁ、そうか、カメリア侯爵家に忖度して僕らを同じクラスに纏めたのが事実だとしたら当たり前の対応か。
エルヴィンと名乗った者も、次の自己紹介が始まってしまってはそれ以上抵抗するのは分が悪いと感じたのか、それとも素であれなのかは分からないけど大人しくする様だ。
そのまま何事もなく、ウィルクやロジーナも無事に自己紹介を終える。
「29番、騎士科のサラです。得意な事は何処からともなくゴシップネタを仕入れること……みんなも秘密を暴露されたくなかったら私に逆らわない事だね〜?」
……あっ、入学試験の時に話し掛けてきた糸目の女の子だ。
彼女も同じクラスで、僕の一つ前だったのか……って、どうしよう、特に何も思い付いてないのにここまで来てしまった。
もうこうなったら腹を括って自己紹介するしかない。
「30番のステラ・テネブラエ、騎士科。今はセシルお嬢様の護衛をしております」
僕が立つと同時に侮蔑や見下す様な、嫌な視線がいくつか突き刺さっていたけれど、自己紹介をした途端にその視線が慌てた様に消える。
恐らくだけど、僕が平民でもカメリア侯爵家の関係者だと示したからだろうか……セシルの実家を利用する気は全くなかったのだけれど、結果としては良いのかな。
「はい、全員の自己紹介が終わったところで暫く自由時間とします。入学早々に問題を起こさない様に」
そう言って先生が退室のを合図に各々が余暇を過ごすべく席から立ちあがる。
『な、名前を覚え切れませんでした……』
さて、勝手に落ち込んでいるテラは放っておいて僕もみんなと合流しようかな――
「――おい、そこな平民!」
大きな呼び声に顔を上げると、そこには真っ直ぐに僕に向かってくるエルヴィンが居て……なんだか面倒そうだな。
「入学試験の時は凄かったな! どうだ? 今から俺の配下にならないか?」
「……今はカメリア侯爵家に仕えている身ですので」
「むむっ、そういえばそうだった! お前を勧誘しようとばかり考えておったので忘れておったわ!」
うん、まぁ、嫌な奴ではなさそう……多分だけど。
「セシル嬢よ! 彼を俺にくれないか!」
「嫌よ、ステラは私のよ」
「にべもないな!」
なんだこれ、教室を出ようとした者たちも含めてクラス中が注目しているしどうしたらいいんだろう。
「貴方、隣国のヒースコート家の者よね?」
「如何にも! 俺は栄えあるレガリア王国ブランデンブルグ辺境伯嫡子である!」
「世界に覇を唱えるだとか、貴族としてその発言がどういう意味なのか分かっているのかしら……はぁ、ここは何とかするからステラは先に行ってて良いわよ、調べたいものがあるんでしょ?」
「いや、でも……」
これ、話の中心は僕だよね? あくまでも表向きは主従となっているのに主人に全部丸投げして良いのだろうか。
「ステラ、ここは退いた方が良い。主人がわざわざ庇ってくれるっていうのに、配下がそれを信用できないと表す方が問題になる」
「ウィルク……分かった、後は頼む」
「任せとけ」
眼帯が似合う様になったウィルクにそう言われては仕方がない……ここは素直に引き下がろう。
『ちゃんと下の者を庇護する素晴らしい貴族に育っていますね』
「テラは何目線なの?」
『お姉ちゃん、もしくはお母さんです!』
「……そう」
『なんですかその目は!』
可哀想な人を見る目でテラを見やった後に、ひとまず闘気について調べる為に図書館へと向かう。
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テラママ可愛いよ




