星の歌が聴こえない
「星の歌を聞いていたの」
夜空の下で盲目の少女が笑った。
星は何も言わないよと僕は言う。
星は光って照らすだけ。
歌うなんてあるはずないよと君へ言う。
いいえと少女は首を振る。
星はいつでも歌っているわ。
聴こえないのは聴こうとしてないからよ。
くすくすと笑ってくるりと一度回る。
白いスカートがふわりと揺れて、星の光を反射する。
「みんな見えるものが多すぎて、その光に溺れてしまってるのね」
何も映さない瞳で僕を見る。
笑って回ってころころと、鈴の音のような声をあげる。
「星はとっても綺麗な音を鳴らしているのよ」
真っ白な手を空へと伸ばす。
届かない星へ手を伸ばす。
あ、ほらまた星が歌っているわと少女が空へと指を向ける。
「あなたには聴こえないのが残念ね」
どれだけ耳をすましても、歌は一つも聴こえない。
きっとその歌は彼女に与えられた小さな贈り物。
光の無い世界に生きる少女への祝福。
「ああ、星の歌が聴こえるわ」
僕には星の歌が聴こえない。
僕は星の光しか見ることはできない。
だって僕も彼女も知ることのできる世界はそれぞれ違っているから。