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第六十七話 奢られる理由?

 夏祭りと花火大会はリア充の定番イベントなのだろうか。

 どこまで一般的なことなのか、一介のモブキャラにすぎない僕にとって真偽のほどは定かでないが、今年の夏休みはそんなビッグイベントがモブ野郎の僕の身にも降って湧いた。

 それというのも羽深さんが誘ってくれたからなわけで、相変わらず流されがちな僕としては断る理由もないし吝かじゃない。

 まあそれはよかったのだが、問題は羅門の野郎だ。

 奴は断り続ける羽深さんをしつこく祭に誘い、祭開催の当日、あろうことか羽深さんを会場で待ち伏せていたのだ。人でごった返す待ち合わせ場所で羽深さんを見つけたとき、羅門が僕より先に羽深さんに声を掛けているのを見て思わず固まってしまった。


「お待たせ」


 さらに困ったことに、肩越しにすごく近い距離から顔を覗かせてそう僕に声を掛けてきたのが、曜ちゃんだということだ。


 いや待ってないし。なんて冷たい言葉は掛けられない。だからと言ってここで流されるわけには流石にいかない。

 僕は羽深さんと約束しているわけだし、今宿敵羅門にちょっかいをかけられている羽深さんを助けに行かねばならない状況だ。

 ここはやはりハッキリしないとダメな場面だろう。曜ちゃんを傷つけたくはないけど、結局僕のハッキリしない態度の方が曜ちゃんを深く傷つけることになるんだ。


「会うの久しぶりだね、タクミ君」


「え、あぁ。久しぶりだね」


 とは言ってみたものの、毎日Threadでのやり取り自体は続いているので感覚的にはそんなに久しぶりって気はしない。


「ねぇ、大分待った?」


 え? 何を言ってるんだ、曜ちゃんは。


「あのぉ……特に約束とかしてないよね?」


 って思わず確認を取ってしまった。いや、ごく自然に言われたけど、約束どころか祭の話題すら出たことはなかったはずだ。

 そこはかとなくサイコパス的な怖さを感じるんだけど、大丈夫かこれ?


「あえて祭についてわたしからは触れないようにしてたら、タクミ君全然触れないし誘ってくれないんだもん。あ、これは羽深さんに先を越されたかなって思って現場対応することにしたんだ」


 したんだって屈託なく言われてもねぇ……。正直怖い。ていうか全部お見通しだったってわけか。曜ちゃんがあれ以来大人しくしてくれてるから、正直何となくこのまま有耶無耶にフェイドアウトする感じかなぁ、とか思っていたんだけどそうじゃなかった。


 ってそうか。また僕は流されるままにハッキリしない態度を取り続けていたってことなんだ。サイコパスとか言ってる場合じゃない。僕が悪いのだ。


「だけどその心配はいらなかったみたいだね。羽深さん、例の彼とうまく続いてるみたいじゃない。よかった」


 なんてちょっと意地悪く言ってるけど、決してそうではないぞ。羽深さんは羅門のしつこい誘いを断り続けていたんだ。そして僕のことを誘ってくれた。

 その意味するところは……正直確信は持てないけど、もしかして羽深さんって、僕のことちょっとは好きだったりしないか? なんて超希望的観測をしたってバチは当たらないだろう? それともやっぱりダメなのか? いや、どうであろうとここは腹を括って自分の態度はハッキリさせるべきだろう。


「ごめんね、曜ちゃん。今日は羽深さんと約束してるんだ。羅門がしつこく言い寄って困ってるみたいだから僕、行くね。ごめん」


 もう一度断って、僕は羽深さんの元に向かった。

 今曜ちゃんがどんな顔をしているんだろう。考えると胸が締め付けられるけど、これでいいんだと自分に言い聞かせながら僕は小走りに羽深さんの元に向かった。後ろ髪を引かれちゃいけないんだよね。


「おい、羅門。よせよ。羽深さんは僕と約束してるんだって」


「はぁ? 拓実と? マジで?」


「うん。わたしから誘ったの。だから林君と一緒には回れないんだ。ごめんね」


「えぇ〜……」


 言葉を失う羅門。その気持ちは分からないではない。僕も正直に言うとどうしてこうなった? っていう気持ちだ。

 まぁ、羽深さんとは僕が彼女の独立支援担当官という職務的立場上、多分こういうことになったのだと思う。

 しかし僕だってこういうチャンスを今までみたいにただ流されるままにしている気はない。

 腹を括って曜ちゃんからの誘いも断ったのだ。

 ここで一歩踏み出して何としても羽深さんとの関係を変えていかないと。そう思うのだ。


「そういうわけだ、羅門。お呼びじゃないんだよ、悪いな」


 少々勝ち誇って珍しく上から言ってやった。手でしっしっとやりながら。性格悪くなったかな。

 後味は悪いがこれくらいのことはやってのけるさ。今日から変わるのだ。


「じゃ、行こっか。なんか食べる?」


 茫然自失といった様子の羅門を尻目に、僕は精一杯余裕ぶって羽深さんに声を掛ける。


「あ、うん。かき氷かな」


「おぉ、暑いしね。かき氷いいね。よし、かき氷食べよう」


 明るいうちは鬼灯(ほおずき)市が立っていた名残だろうか。鬼灯が並ぶ石畳の参道を少し進むと縁日の屋台が立ち並ぶ。


 羽深さんは紺地の浴衣姿に髪の毛をアップにしていて、屋台に灯った照明で黄金色に照らされたおくれ毛になんだかドギマギしてしまう。


「何味にする?」


 下から覗き込みながらそう訊ねられて、そのかわいさに思わず顔が熱くなる。くぅ……分かっちゃいるがやっぱりかわいいなぁ。


「あ、あぁ。何にしようかな……じゃあレモンにしようかな」


「おぉ〜、気が合うねぇ〜。わたしもそれ」


 くそぉ、ますますかわいいなチクショウめ。奢っちゃう。おいら奢っちゃうよ、コンチキショー。


「おじさん、レモン味二つ」


 かき氷の屋台のおじさんに二人分注文して代金を払うと、ニコッと微笑みで返された。

 余計な冷やかしとかないのはありがたい。変に煽られると益々照れるからな。


「ありがとう。これ、ご馳走になっていいのかな?」


 カップを受け取った羽深さんは、念のためか確認してくる。


「もちろん。こう見えて結構稼ぎはあるから遠慮しないでね」


「ふふふ。何だかカップルって感じするね、ふふっ」


「えぇ?」


 ちょっと羽深さん? 勘違いしそうになるから軽々しくそういうこと言うのやめてね!

 僕とカップルだとまるで嬉しいみたいに聞こえるよ?


「だってわたし、誰からでもご馳走になったりしないよ」


 誰からでも? どういう意味だろう。まさか僕は金蔓って意味? 結構稼ぎがあるとか言っちゃったから目を付けられちゃったのかな……。いや、カップルって感じするなんて言ってたくらいだからそんな意味じゃないよな。

 だとしたら……えっ? えぇっ!? いやいやいや。ないないない。それはないって。

 ほらぁ、羽深さんが変なこと言うから勘違いしそうになっちゃってるよぉ。


「林君も色々払ってくれるって言ってくれたんだけど、わたし全部断ってるからね」


「え、そうなの?」


「そうだよぉ〜。だって奢られる理由ないし」


「奢られる理由?」


「そ。理由がないじゃない?」


 ふむ、理由……。じゃあ僕には理由があるってことか……。

 あ、つまり貸しがあるって言ってる? マジかよぉ〜。あー、カーストトップが底辺の夏休みにに付き合ってやってるんだから貸しってことか。

 っていやいや、誘ってきたのそっちだし。こっちからお願いしたわけじゃないし。


「ぷっ。拓実君、絶対また変な誤解してるでしょ。大体分かってきたんだから」


「んぁっ?」


 ムムッ。違ったのか。

 じゃあどういうこと? んんっ? 分からんっ。


「ま、いいや。今日は楽しむって決めてるんだ。拓実君の多少の天然ボケは許してあげる」


「天然ボケ? 僕が? 初めて言われた」


 失礼な。そんなこと言われたことないぞ。

 とは思いながら、機嫌がすこぶる良さそうな羽深さんを見てたら本当はそんなことどうでもいいって気持ちになる。

 結局羽深さんが幸せそうならそれでいい。それなら僕も幸せな気分になれるから。

 朝の教室で羽深さんを眺めていたのも、結局それだったんだよな。幸せそうに音楽を聴いてる羽深さんから幸せを分けてもらってたんだ。


 そんな惚けている僕を見て、羽深さんは屈託なく笑っていた。

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