とある侍女2
「なんて浅慮なのかしら。ああ愚かしいわ。」
ヨハナの徳の低い魂など、ローゼリアがちらりと盗み見するだけで覗くことができた。その結果視えたのは嫉妬、焦燥、憎悪。
「お母様の娘の座を賭けて戦うだなんて、あの子は娘でもなんでもない、一使用人だというのに。可笑しいわ。」
愚かにも女神に悪意を向ける矮小な人間など、ローゼリアが瞬きするだけでその魂ごと消し炭にできる。しかし、ローゼリアはこの茶番につきあうことを選んだ。せっかく見つけた娯楽だ、女神の力で直ぐに消してしまっては勿体ない。ここは5歳児の出来る範囲で反撃をするというハンデ戦を行うべきだろう。
レイモンドの氷属性覚醒にヨハナの社会的抹殺。今後の楽しみが増え、ご機嫌なローゼリアはヨハナの淹れた香り高い紅茶をストレートで味わった。
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「あなたをローゼリアに付けてしばらく経ったけど、あの子はどうしてるかしら?親元を離れて、寂しがってはいない?」
「はい、ローゼリアお嬢様は少々気難しい所があるようで、私も彼女の要望に全て答える事が出来ず、癇癪を起こされることもしばしばございます。恐らく慣れない環境で敏感になってしまわれているのかと。」
「まあ、ローゼリアが?気難しいところなど、私は見たことがないわ。いつもニコニコと楽しそうにしているのですもの。」
「健気にも奥様に心配を掛けまいとしておられるのでしょう。」
「そうなのね…。ヨハナ、子供の我儘に付き合うのは大変だとは思いますが、しばらく辛抱してやってちょうだい。時間が経てば、きっと落ち着くわ。あの子は良い子ですもの。私もあの子と一緒にいる時間を増やすわ。ローゼリアをよろしくね、ヨハナ。信頼しているわ。」
「はい、奥様。」
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「痛っ!ヨハナもっと優しく梳かして。」
「恐れながらお嬢様の御髪は大変絡まりやすくいらっしゃいます。これくらいしなければ、公爵令嬢に相応しい艶のある髪にはなりません。ご辛抱を。」
「…」
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「ねえヨハナ、一人じゃ眠れないの。寝るまで側にいて?」
「公爵令嬢ともあろうお方が情けないことを仰らないでくださいませ。眠れなければ母親と寝るような下級貴族の家と一緒にしてもらっては困りますわ。嫌ならどこぞの男爵家にどうぞお帰りくださいませ。」
「ごめんなさい、ごめんなさい…」
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「ヨハナ、ローゼリアの調子はどう?」
「はい、大分この邸にも慣れた様子で御座います。」
「癇癪は相変わらずかしら?」
「はい、奥様…。この間は御用意させて頂いたドレスが気に入らないと、私に紅茶を…」
「まあ!怪我はなくって?ヨハナ。」
「はい。子供の身体で暴れたところで、大きな被害はありませんから…」
「それにしても困ったわね…あまり品位にかけるような行動が多いと、公爵家の名に傷がつきますもの…私の前ではとても良い子なので今まで触れては来ませんでしたが、今度あの子とお茶をする時にきちんとお話ししてみますわ。」
「それがよろしいかと思います。」
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「ローゼリア、この家には慣れたかしら?」
「はい!みんなにとても良くしてもらってます。お勉強も新しいことが覚えられて、とても楽しいです!」
「そう、よかったわね。
…ヨハナの事なんだけれど、」
「は、はい。ヨハナにも良くしてもらっています。私が公爵令嬢として至らない点を指摘してくれて、厳しいけどもっと頑張ろうって思います。」
「あら、そうなの…?
ローゼリア、慣れない環境で大変だとは思うけれど、あまりヨハナを困らせてはダメよ。何かあればまずお母様に言いなさい。私が良くしてあげるから。ね?私の可愛い子。」
「は、はい、ごめんなさいお母様。」
(ヨハナの話をした時のあの子は顔を強張らせていたわね。彼女の話をする時はまるで台詞を言う様だったわ。瞳の中の色は…怯え?会って話してみても、やはり我儘を言うような子ではないと思うわ。…ヨハナ…)
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「なんだか頭が痛い…クラクラする。」
「まあ、それは大変ですわ!今日の予定は全て取り止めて安静にしていてください。レイモンド様やクラウス様に移しては困りますからね、彼らは誰とも血の繋がってないあなたと違って、シュバルツ家の直系なのですから。」
「ごめんなさい…」
「では今日は特別に、ヨハナが寝物語をお話ししてあげましょうね。」
「ほんと!?ありがとうヨハナ!」
「それでは…お嬢様は悪魔の使いをご存知ですか?」
…今から百年程前までは、白髪に紅眼の色を持つ者は悪魔の使いとされ、産まれたその時に処分されておりました。しかし、我が子可愛さに子を隠し育てる親もおりました。その家は決まって不幸になり、悪魔の色を持つ子供は火炙りにて処刑されました。現代では悪魔の使いなどは迷信であると、あのような残虐な風習は廃止されましたが、未だこの色を不幸を呼ぶ色として忌避する者も多いのだとか。
…あら?そういえばお嬢様も、悪魔の色ですわね。お嬢様はなぜシュバルツ家に引き取られたのです?優秀だから?まだ、魔力測定もしていないのに?あなたの色は一男爵家の手には余るとして、慈悲深い公爵家が厄介事を引き受けたのではなくって?その見目で旦那様を、奥様を、御子息を惑わし、この家に不幸を呼ぶのかしら。
…まあ、これはあくまで御伽噺。本当の事は、分かりませんけれど…




