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王位継承2

「え?ベンジャミン殿下と、ですか?」

「そうなんだ。父上が、この後ローゼリアに話があるって。」

「ふうん、そうですか。分かりましたわ。この後、ベンジャミン殿下の執務室に伺えばよろしいのですわね?」

「ああ、よろしく頼む。…多分、ローゼリアにとってはあまり良い話ではない気がする。僕ができる事は限られてるけど、何かあったら相談して欲しい。僕は君の味方でいたい。」

「…ありがとうございます。でもまだ悪い話と決まったわけではありませんわ。兎に角、話を聞いてまいりますわね。」


侍従と共に去っていくローゼリアを見送り、クローヴィスは小さく溜息を吐いた。今の自分は立場が弱すぎる。もう間も無くベンジャミンは国王となりクローヴィスは第二王子になる。臣下降格がほぼ確定しているクローヴィスは、ベンジャミンやアダルヘルムに比べると周りの貴族からは軽んじられている。もっと勉強し、有能にならなくては。自分の価値を、周囲に知らしめるのだ。そうすれば、いつか自分の言葉に耳を傾ける貴族も出てくるはずだ。自分の価値が少しでも上がれば、ローゼリアを守りやすくなる。それには、努力あるのみだ。

クローヴィスは決意を新たに、席を立った。



ーーーーーーーーー



「良く来たな、ローゼリア嬢。」

「御機嫌よう、ベンジャミン殿下。私に何か用があるとか。」

「そうだ。君と少し二人で話がしたいんだ。おい、人払いを。」


ベンジャミンの一声で王城の使用人は彼の護衛を含め皆退室した。たった10歳の少女に特にできることもないであろうと、皆特に警戒してはいなかった。


「…二人きりで話したいと言っているんだが?」

「…」


ベンジャミンの声に応えず、カスパーは薄い笑みを浮かべローゼリアの背後から動かなかった。ベンジャミンはその反抗的な態度に露骨に不快感を顕にした。


「二人きりという事は、女神の件かしら。カスパーは事情を知っていてよ、同席しても構わないでしょう?」

「いや、私は君から話が聞きたいんだ。他の者から入知恵されては困るんでね。彼にも退室してもらう。君が女神と言うのなら、侍従が一人いなくなったところで何も困らない筈だ。そうだろう?」

「成る程ね。カスパー、退室なさい。」

「畏まりました。」


カスパーが一礼し執務室を後にすると、部屋にはソファに向かい合わせで座ったベンジャミンとローゼリアだけが残った。予め用意されていた紅茶を一口飲むと、ベンジャミンが口を開いた。


「君の侍従は随分と忠義に厚い様だね。それとも彼がいなくては君が困るのかな?」

「カスパーは最近付いたばかりの侍従ですの。シュバルツ家でなく、私に忠誠を誓っていますわ。」

「では君のお仲間という事か。」

「当たらずとも遠からず、ですわね。それで話とは?」

「ああ。父上から君の話を聞いたよ、破壊と死の女神、ローゼリア嬢。だけど私は信仰心が薄くてね、神の存在など、初めから信じてはいないんだ。」

「まあ信仰心は人それぞれですからね。」

「そう言ってもらえてよかったよ。それで、私は君が女神だなんて、とても信じられなくて。君が父上とシュバルツ公爵を禁術の類で謀っている可能性だってある。君が女神であるという証拠を見せて欲しいんだ。」

「疑り深いんですのね。どういった証明をお望みなのかしら。」

「魂を覗くのはなしだ。個人情報など簡単に手に入るからね。催眠術の可能性もある。もっと人間には到底不可能な大きな事をして見せて欲しい。」

「ふうん。例えばどのような?」

「我が国の雨の少ない地域に定期的に雨を降らせてみてくれないか。そこの収穫量が昨年より大幅に増えたならば、人智を超えた力を信じよう。」

「お忘れになって?私は破壊と死の女神。私が雨を降らせば、災害となりますわ。雨に降られた地は死の土地となるでしょう。」

「女神ともあろうお方が、豊穣の雨も降らせられないと?」

「それは豊穣の女神のお仕事ですわよ。女神にだって、できない事はたくさんありますわ。」

「成る程な。では、ここから遠い土地に災害を起こす事は可能か?」

「できますわ。まだ力を制御しきれておりませんので、細かな範囲の指定まではできませんけれど。」

「ふむ…ではこの大陸の端ならどうだ。かなり距離があるが。」

「できますわ。距離は問題ではありませんから。」

「ではこの大陸の北端。そこに災害を起こしてみてくれ。」

「そこは国がありますわ、殿下。」

「神にとって人間など蟻も同然であろう?見知らぬ蟻が何匹か潰されようが、君は構わない筈だ。」

「…」


ベンジャミンは黙ってしまったローゼリアを見て、自分の企みが成功すると確信してほくそ笑んだ。

最近異常なまでの発展を見せる大陸北端に位置する帝国。周辺国を次々と属国にし、その土地を更に広げんと南下してきている。彼の国の軍事力を思えば、後数年でアレンタール王国にまでその触手は伸びる事だろう。そうすれば、ベンジャミンの代でこの国は終わる。帝国は属国の自治権を認めてはいるが、属国となればベンジャミンは絶対の王ではなくなってしまう。

脅威となりうる帝国の存在。それをローゼリアの力で破滅に追いやることができれば万々歳。できなくとも、王族を謀ったとしてローゼリアをこの国に縛り付け、膨大な魔力を生涯利用する。どちらに転んでも、美味しい結果となる筈であった。


「どうだ、できないのか?できないのであれば、君を女神と信じる事はできない。そうなれば我々王族を謀った罪、償ってもらうぞ。」


所詮は子供。大人の助言がなければ何もできない。ベンジャミンは勝ち誇った笑みを浮かべてローゼリアを見下ろした。

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