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王位継承1

「父上、お話が。」

「ベンジャミンか。どうした?」


ヨシュアが執務室で休憩を取っている頃合いを見計らい、ベンジャミンは父親の元を訪れた。


「父上。王位継承の意を撤回してからもう五年が経ちます。いつになったら、王位を譲るおつもりですか。父上ともあろうお方が、権力に固執するなど考え難い。何か理由がおありなのでしょう?それはまだ私には言えないことなのですか。」

「ふむ…。確かにそろそろ頃合いか。お前に余計な負担をかけさせないよう王を続けてきたが、私も限界が近い。見ろ、この頭を。心労ですっかり禿げ上がってしまった。この様な負担を、お前にも強いる事を許してほしい。」

「父上…。父上をその様にやつれさせる程の事情とは一体何なのです。私がきっと、乗り越えてみせます。」

「そうだな…。夢物語のように聞こえるかもしれぬが、今から言うことは全て真実だ。そしてこの事情を知っているのは、私とシュバルツ公爵だけだ。始まりは五年前…。」



ーーーーーーーーー



「そんな馬鹿な…そもそも、神が実在するなど…。」

「お前は本当に信仰心が薄いな。目に見えるものが全てではないのだ。」

「しかし本当なのですか?催眠術にかかっている可能性を考えた事は?他にも、人を騙す魔法は禁術ではあれど存在します。」

「もしローゼリア嬢が女神でないとすれば、私はかような幼子に騙されていたと言うのか?私もそこまで耄碌してはいないぞ、息子よ。五年もの間私とシュバルツ公爵を騙すなど不可能だ。」

「しかし…それが本当ならば、なぜ父上はその力を使い国を発展させないのです?神ならば、人間には不可能な事も容易く出来ましょうに。」

「ベンジャミン…神の力を利用しようなどとは思うな。利用すれば、必ずこの国は終わる。」

「ですが、考えてもみてください。豊穣の雨を降らせ飢饉をなくし、未知なる知識での文化の発展を促す。考えればきりがない程に有用です。何も馬鹿正直にこの国のために力を使ってくれと頼むわけではありません。結果としてその様な事が起きた、それだけです。どうです?」

「何度も言うが女神を利用するなどとは考えない事だ。騙すなど以ての外。人間の考える事など、あの方はすぐに見抜くぞ。」

「彼女はまだ子供ではないですか。耳心地の良い言葉を投げかければ、如何様にも利用できます。」

「ローゼリア嬢は見た目通りの年齢ではないと言っているだろう。」

「ですが見た目はまだ子供です。人の精神は、その外見に左右されます。エルフ族を考えてみてください、長寿の彼らは50になっても未だ子供の様な事を言う。」

「人がそうだからと言って女神もそうだとは思えんが…。」

「兎に角、この件は私にお任せください。必ずや良い方向に進めて見せましょう。」

「…近々、王位継承の儀を執り行う事とする。それまでにローゼリア嬢に会って話をしてみる事だ。さすればお前のその考えが、どれだけ愚かなものか理解するであろう。」


ベンジャミンは心の中で父親を嘲笑った。身近に強大な力があるのに、それを利用しないなんて。国民はこの国に尽くす義務がある。女神とて例外ではない。神の力を手にすれば、するつもりはないが天下統一すら容易いだろう。必ず、ローゼリアを手中に収めてみせる。

ヨシュアの忠告を無視し、ベンジャミンは執務室を後にした。



ーーーーーーーーー



「クローヴィス、ローゼリア嬢とのお茶会はどうだ。始めてしばらく経つだろう。彼女とは上手くやっているか?」

「な、なんですか、突然。まあ、前よりは僕を見てくれるようにはなった、とは、思います…。」

「もしあの子と本当に結婚できるならどうする?」

「え?でも、ローゼリアは子が…」

「子を産むより有益な事があるのだ。どうだ、結婚する気はあるか?」

「王族の血を残す事より大切な事ですか…?まあ、ローゼリアが望むのであれば、僕は…」

「成る程な。次のお茶会の後にローゼリア嬢と話がしたい。終わったら、彼女に私の元に来るよう伝えてくれ。」

「いきなりですか?父上程の方と会うならば事前に知らせておくべきでは…。」

「ふっ。抜き打ちで会いたいのだよ。私との問答の準備をされては困るのだ。彼女自身の意見が聞きたいからな。他の者の入知恵を排除したい。」

「そ、そうですか…。」


クローヴィスは困惑した。珍しくベンジャミンがクローヴィスに話しかけたと思ったら、今まで全く興味を持っていなかったローゼリアとの関係についての質問。そして婚姻の意思があるかとまで聞いてきた。ベンジャミンは、ローゼリアに関する何らかの情報を得たのだ。そして、彼女をこの国に縛り付けたいと思っている。王族に輿入れすれば、民のため、この国のために尽くさざるを得ない。王族の血のスペアを捨ててまで欲しい何かが、ローゼリアにはあると言うのか。

しかし、例え時期王になる父親の命令でも、クローヴィスはローゼリアの意に反する事をするつもりはなかった。それに、ローゼリアは国に縛られて大人しくしているような令嬢ではない。ベンジャミンがローゼリアをこの国に縛れば縛るほど、彼女の心は離れて行き、いずれは彼女自身もこの国を離れるだろう。根拠はないが、クローヴィスはそう直感した。

何か大きな思惑に巻き込まれているであろうローゼリア。ただの王子でしかないクローヴィスにできる事など高が知れているが、でき得る限りローゼリアの防波堤になって彼女を守ろう。そう心に決めたクローヴィスであった。

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