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侍従カスパー2

「…へえ、君がローゼリアの侍従?」

「はい。カスパー=サリードと申します。精一杯努めさせて頂きます。」

「ふうん。護衛としては優秀そうだね。」

「カスパーは使用人の専門学校を首席で卒業したそうよ。」

「へえ、それはすごいね。それよりローゼリア、このマカロンすごく美味しかったよ。食べてみてよ。」

「わあ、いただきます!」


ローゼリアがマカロンに注意を引かれているのを確認すると、クラウスは彼の侍従であるコーエンに目配せした。コーエンはその意を読み取り、カスパーの隙を狙った。カスパーがローゼリアに紅茶を注ぎ足した直後、コーエンは暗器の代用としてよく使われる魔法であるシャドウニードルを無詠唱でカスパーに向け放った。カスパーはそれを無詠唱のシールドで防ぐと、一瞬のうちにコーエンの懐に潜り込み、彼を取り押さえた。


「…合格だよ。勝手に試して悪かった。だから僕の侍従を離してくれないかな。」

「…」

「カスパー?離しなさい。」

「畏まりました。」


ローゼリアの声でカスパーはコーエンを開放した。コーエンは少しの間咳き込んだ後、素早くクラウスの背後に移動した。


「シュバルツ家ではなく、ローゼリアに忠誠を誓っているようだね。家の使用人としては頂けないけど、ローゼリアの侍従としては理想的かな。」

「もう、クラウス兄様?勝手に私の侍従を試さないでください。」

「ごめんごめん、でも必要な事だからさ。彼がどれだけ君を守れる実力があるか、試してみたかったんだ。結果は予想以上だったけど。コーエンも家の影の中ではオスカーに次いで実力があるんだよ?」

「私が選んだ侍従ですもの、当然よ!」

「でも真面目な話、ローゼリアは今まで殆ど家にいたから安全だったけど、これからは毎月クローヴィス殿下とのお茶会のために登城するだろう?外出すればそれだけ隙が出る。ローゼリアが心配なんだ。」


ローゼリアの美しさと膨大な魔力は今や貴族界だけでなく市井でも有名であり、国外からもローゼリアを欲しがる声が上がるほどだ。公爵令嬢という立場が彼女を守っているとはいえ、皆が正攻法でローゼリアを求めているわけではない。中には闇ギルドに誘拐の依頼を出す者も出ており、シュバルツ邸の警備は今や王城に次いで厳重なものとなっている。そのような経緯もあり、闇社会でもローゼリアの事は話題になっており、攫って奴隷にすれば破格の値段で売れると皆こぞって邸に侵入し、返り討ちにあっているのが現状である。


「カスパー、大袈裟に言っている訳ではなく、移動中は何が起きるか分からない。常に警戒を怠るな。僕はそこまでして城に行かなくても良いと思うんだけど、父様が決めた事だからね。」

「この命に変えましてもローゼリアお嬢様をお守りいたします。」

「うん、頼もしいね。…ところで、君はかの研究者の血縁者か何かかい?同姓同名だよね。」

「いえ、名前がたまたま同じだっただけで、縁も所縁もございません。五年前の騒動では、多くの研究者が我が家を訪れては子供の私を見て肩を落として帰って行きました。」

「それは災難だったね。」

「はい。しかしこの名のお陰でローゼリアお嬢様の目に留まったのですから今は感謝しかありません。」

「まあ。ふふふ。」

「ローゼリアを崇めるのは構わないけど、不埒な事を考えたらただでは済まされないよ?」

「勿論でございます。忠誠を誓った身です、そのような事は無いと断言いたしましょう。」


クラウスの表情もその後は穏やかになり、ローゼリアと二人のお茶会を楽しんだ。



ーーーーーーーーー



「それでは行ってまいりますわ、クラウス兄様。」

「今日も芸術的なまでの可愛さだね。気をつけて行ってくるんだよ。」

「はい。」


ローゼリアはカスパーのエスコートで馬車に乗り、向かい合わせに座った。馬車がゆっくり動き出すと、彼女から話し出した。


「あなたはお茶会に同行するのは初めてね。クローヴィス殿下がどのような方かご存知?」

「いえ、殿下は25年前にはまだお生まれになっておりませんでしたから、詳しくは。あまり市井にも話は上がって来ませんでした。」

「そう。元々はとんでもない悪童でしたけど、最近はましになって普通の子供位には成長しましたの。可もなく不可もなくな王子ですから、話題に上がることもないのでしょう。でも彼は頑張り屋さんだから、その内優秀な王子として話題になる筈よ。」

「随分と買っておられるのですね。」

「初めは蟻以下の存在でしたけど、私頑張る子は嫌いではないの。応援しているわ。」

「左様で御座いますか。」

「お茶会の時は少し離れた位置で待機していてね。殿下は二人きりでお話になるのが好きだから。それに王城のサロンならば滅多なことも起きないでしょうし。」

「畏まりました。」



ーーーーーーーーー



クローヴィスとのお茶会もつつがなく終わり、二人は馬車にて家路についていた。閑散とした道を馬車が進む中、和やかに会話をしていた二人はふと同時に顔を上げた。


「何か来ますわねえ。あなたの腕試しと行きましょうか?」

「お任せください。全て消し炭にして見せましょう。」

「まあ。私の台詞を取らないで頂戴。ふふふ。」


二人は襲撃を予想しているとは思えない雰囲気で作戦会議とも言えぬ確認を済ませると、何事もなかったかのように澄まして座り直した。しばらく進むと、馬車が突然止まったが、ローゼリアはカスパーに支えられ席から落ちる事はなかった。その直後、剣を交える金属音が響き、戦闘が始まったことが伺えた。


「女を出せ!」

「馬車に近づかせるな!」


襲撃者と護衛のやり合う声と激しい戦闘音が響いた。今日ローゼリアが連れている護衛は五人。その実力も折り紙付きで、普段ならば間も無く鎮圧する頃であったが、今回は部が悪かった。襲撃者の数は総勢20。街中の襲撃には考えられない数であった。


「護衛が死んでしまっては困るわ。そろそろ行きなさい、カスパー。」

「畏まりました。」


カスパーは一礼すると、今から戦闘に行くとは思えない優雅さで馬車の扉を開いた。

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