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侍従カスパー1

「侍従、ですか?」

「そうだ。シュバルツ家の者は、10歳になると侍従を付ける習わしがある。女性も例外ではない。身の回りの世話は侍女がやってくれるであろうが、将来的に政務のサポート等をしてもらう為だな。護衛の意味もある。」

「成る程。それで私にも侍従、ですか。正直何も困ってはいませんけれどねえ。」

「まあそう言うな、習わしなんだ。お前にだけ付けないというのも不自然であろう?」

「まあそうですわね。ならばあまり出しゃばらない方が良いですわ。」

「ローゼリアの侍従はもう既に募集を掛けているんだが、何せ応募が多くてな、選考に手間取っているのだ。何人か選別したから、そこから自分で決めてくれ。」

「分かりましたわ。」


ローゼリアはアルドリックから履歴書を何枚か受け取ると、それを読んだ。履歴書には出身地、家柄、学歴、経歴などが書かれている。公爵家の侍従ともなれば、応募するのも殆どが下位貴族の次男以降の者であったが、ローゼリアはその例外となる人物の履歴書を見て書類を捲る手を止めた。


「平民出身、カスパー=サリード…」

「やはり気になったか。本来ならば平民と言うだけで選考から外れるのだが、ローゼリアが気に入りそうだと思って残しておいた。それに苗字持ちと言うことはそれなりに良い家柄だろうからな。」

「同じ名前ですわね、かの研究者と。」

「そうだな。しかし新属性説をサリードが提唱したのは25年も前の事だ。18歳の彼はまだ生まれてもいない。親族という可能性もあるが。」

「彼に会ってみたいわ。」

「そう言うと思った。カスパーは平民だが、使用人専門学校を主席で卒業しているから優秀だろう。それにローゼリアの場合は一生仕えるという訳にもいかないからな、平民の方が後腐れもなかろう。」



ーーーーーーーーー



「お目にかかれて光栄に御座います、ローゼリアお嬢様。カスパー=サリードと申します。」


恭しく礼をしたのは黒髪黒目の青年。細くつり上がった目は常に笑っているようにも見え、口角の上がった口元と相まってその表情を読み取る事は出来ない。艶やかな黒髪は仕事の邪魔にならないようにか短く切り揃えられていた。ローゼリアは一目見た瞬間に、彼を側に仕えさせる事を決めた。


「お父様、この方に決めましたわ。」

「お前がそう言うのなら私に異論はないが…その様に早急に決めなくとも良いのだぞ?他の者にも会ってからでも…」

「いいえ、彼にしますわ。それに彼を側に置けば、退屈する事もなさそうですし。そうでしょう、悠久の時を生きるレヴィアタン。いつから人間の名を名乗るようになったの?」

「…」

「お父様の事は気にしなくても良いですわよ、彼は私の事も知っていますもの。一つや二つ、言えない秘密が増えたって変わりませんわ。」

「…左様で御座いますか。今は人間の世界でカスパー=サリードと名乗っております。破滅と死の女神様、一目お会いしたく思っておりました。貴方様のお側に置いていただけるなど、感激の極み。」


レヴィアタン。遥か昔、一柱の神に愛されすぎたが故に、不老不死となった男がいた。彼は神の寵愛から逃げる為、人間をやめ龍となった。しかし姿を変えてもなおその加護が消えることはなかった。死ぬ事を許されず、彼はいくつもの文明を渡り歩いた。時に文明を滅ぼし、時に新たな知識を授け発展を促した。古代の人々は、畏怖を込めて彼をゲシュペンストと呼び、神の次に崇めた。生に飽いたレヴィアタンは深海にて数千年の眠りにつき、現代ではその名すら忘れ去られた存在であった。


「ゲシュペンスト…申し訳ないが、聞いたことがない。」

「そうでしょうね。遥か昔の人々が名付けたのですもの。私も本人を目にするのは初めてですわ。まだ生まれて間もない私を、よくご存知でしたわね?」

「眠りについたと言っても、私には全てを見通す魔眼が御座います故。貴方様の誕生の瞬間、目覚めまして。その後は度々人里に降りては人間の真似事をして過ごしておりました。」

「成る程、貴方はウーツァの次に神に近い生物。この地上で、出来ぬことはないのでしょう。」

「と言うことは、25年前に失踪した研究者も同一人物か?」

「左様で御座います。本来であれば再び人里に降りる際は名を変えるのですが、貴方様の目に止まる様、前回と同じ名を使いました。」

「ふうん。ではあなたの思惑通りに行ったというわけね。」

「申し訳ありません。」

「良いわ。それよりあなた、何の目的で私に会いに来たのかしら?神族となど、二度と関わり合いにはなりたくないでしょう?」

「…死を許されぬ私に永遠の眠りを。」

「成る程ね。確かに破滅と死を司る私ならば、あなたを死に誘う事も可能でしょう。」

「っ!な、ならば…」

「でも申し訳ないのですけれど、私今はまだこの様な子供の姿でしょう?今の私では、その呪いにも似た神の執着をあなたから剥がす事は出来ませんわ。私が大人になるまで待つ事ね。」

「…それでは貴方様が成人する八年後まで、お側に仕えさせてください。誠心誠意、貴方様に尽くす事を誓いましょう。私の奉仕にご満足して頂けた暁には、この命を刈り取って頂きたい。」

「…良いでしょう。ゲシュペンストが側使いだなんて、これ程贅沢な事はありませんわね。私、消し炭にする以外にできる事は少ないんですの。万能のあなたがいれば心強いわ。」

「ありがとうございます。これより私カスパー=サリードはローゼリアお嬢様に絶対の忠誠を誓いましょう。」


「話はまとまったようだな。それでは今日よりカスパー=サリードをローゼリアの侍従に任命する。励むように。お前の事は普通の人間として扱わせてもらう。ローゼリアにもそうしているからな。それとこの事は誰にも言わないと約束しよう。」

「ありがとうございます。」

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