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クローヴィス3

「…う、うわあああ。わ、忘れろ忘れろ…。あんな事はなかった、なかったんだ…。」


クローヴィスは五年前の黒歴史を思い出し、一人自室で身悶えた。五年前、王子という立場に甘んじて、散々悪さをしてきた。それを咎めるものもおらず、世界は自分を中心に回っていると信じていた。しかしローゼリアに会って、彼の考えは徐々に変わっていった。最初は彼女が何を言っているのか分からず、ただ勉強を勧めてくるローゼリアを拒絶した。しかしその時のローゼリアの呆れた表情が忘れられず、それ以来少しずつ勉強に手を付け始めた。この国の事が分かってくると、次第にローゼリアが何を言っていたのか理解できる様になった。王族のクローヴィスは、例え王にならなくとも、この国の為に働く義務がある。国の為に働くにはこの国の事、政治の事、経済の事、色々な事を知っていなければ始まらない。そして勉強というのは、それが必要になってから始めるのでは遅いのだ。子供の頃からコツコツと学び、それが自分の中で常識になった時に初めて知識を実際に利用する事ができるのだから。

ローゼリアは何も間違った事を言っていなかった。それに気がついてもすでに時は遅く、彼女はクローヴィスにすっかり興味をなくし、お互いの誕生日にしか会うことがなくなっていた。季節の折々に届けられる手紙も、まるで手本の様に完璧で、しかしそれだけに何の気持ちもこもっていなかった。クローヴィスもローゼリアにひどい事を言った手前自分から会いたいとは言えず、彼女が再び興味を持ってくれるまで待った。ちゃんと勉強して王族として相応しくなれば、いつかまたローゼリアが自分を見てくれると信じて。

そして何も変わる事なく五年が経過した。


「僕は一体どこで間違えたんだ…。ああ、最初か。なんで芋虫素手で触れる自慢なんてしたんだ、僕。あー、あの頃に戻りたい。そして自分を殴る。」


クローヴィスの悶々とした夜は過ぎていった。



ーーーーーーーーー



お茶会当日。クローヴィスは緊張でガチガチになっていた。


「落ち着け、ローゼリアに会っても、憎まれ口は叩かない、優しくするんだ、紳士に…。」


初対面以来、自分を映してくれないローゼリアの紅い瞳に苛立ち、つい憎まれ口を叩いてしまっていた。その度にローゼリアは愛想笑いを浮かべ適当な相槌をうち、早々に彼の元を離れてしまうのだ。でも今日からはそんな事はしない。優しく紳士に話しかけるんだ。例えローゼリアが自分を見てくれなくても。クローヴィスは己に言い聞かせ、深呼吸をした。


「ローゼリア=シュバルツ公爵令嬢がお着きになりました。」

「通せ。」


クローヴィスの声の後サロンへの扉が開き、美しく成長した少女が入室した。王城のドレスコードに合わせたピンクのフォーマルドレスに、少女らしくハーフアップに結い上げた艶やかな銀髪。ローゼリアは彼女に見惚れているクローヴィスの存在に気づくと、美しいカーテシーを披露した。


「本日はお茶会にお招き頂きありがとうございます。お久しぶりでございます、クローヴィス殿下。」

「あ、ああ。久しぶりだな。まあ座れ。」

「失礼します。」


会うたびに美しく成長するローゼリアに一向に慣れる気配がないクローヴィスは、目を泳がせながらもローゼリアに着席を促した。


「えっと…甘い菓子が好きと聞いているからな、今日のお茶会では色々な種類のものを少しずつ用意したんだ。僕に遠慮せず、好きなだけ食べてくれ。」

「まあ!ありがとうございます。甘いものには目がないんですの。嬉しいですわ。」


ローゼリアはにっこりと笑った。出会ってから五年、クローヴィスが初めて見る本物の笑顔であった。


(なんだ、こんなちょっとした事で笑いかけてくれるのか…。)


クローヴィスは感動したと同時に、こんな事で喜んでもらえるなら、今までの自分はどれだけ酷かったのだと自己嫌悪に陥った。しかし美味しそうにお菓子を頬張るローゼリアを見て、何もかもどうでもよくなった。しばらくはお互い無言で過ごし、クローヴィスはローゼリアの年相応に可愛らしい姿を心ゆくまで眺めた。

やがて用意された菓子が半分程になると、クローヴィスはようやく口を開いた。


「えーっと、僕、ずっとローゼリアに謝りたくて…」

「謝る、ですか?謝られる様な事をされた覚えはありませんが。」

「初めて会った五年前から、僕は君に酷い事ばかり言っていただろう?だからそれを謝りたいんだ。」

「まあ、気にしなくとも良いのですよ。私は全く気にしておりませんもの。」

「そ、そういう訳にはいかない。それに、初めて会った時に言われた言葉は僕を変えてくれたんだ。今まで誰にも叱られることのなかった僕を、否定してくれた。それがなかったら、僕は今でもまだどうしようもない悪童だったと思う。」

「まあ、それでは今は悪童ではないんですの?」

「う、ち、違う、と思う。君の前ではどうだったかは自信ないけど。」

「それは素晴らしい事ですわねえ。」

「あ、あの。だから、ローゼリア…」

「はい?」

「ローゼリア、どうか僕と友達になって欲しいんだ。君の体のことは父上から聞いた。婚約はいずれ破棄しなくてはならなくなることもわかっている。でも僕は君との関係がそれで終わってしまうことが寂しいんだ。もう二度と君に酷い事を言わないと約束する。だから、もう少し僕を見て欲しいんだ。」

「…分かりましたわ。では今日から私達はお友達ですわね。」

「!ほ、本当?」

「殿下ほどの方のお願い事など、叶わないものはございませんでしょう?」

「そ、そういうことじゃない!僕は、命令なんかじゃなく本当の友達になってもらいたくて…。」

「ではいずれそうなれると良いですわねえ。」


ローゼリアから帰ってきたのは遠回しな拒絶。クローヴィスはショックを受けたと同時に怒りを覚えた。王子の自分が、これだけ言っているのに、と。しかし今まで自分がしてきた事を思い出し、なんとかその怒りを抑えると、真っ直ぐにローゼリアを見つめた。


「今じゃなくていいんだ。こうやって毎月お茶会をして、僕の事を知ってもらいたい。」

「…分かりましたわ。」

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