アメリーの悪意6
「若様。ローゼリアお嬢様の魔力残渣がこちらの方角に続いています。」
「わかった。クラウス、索敵魔法をこの方角に放射状に伸ばせるか?その方が距離が稼げる。」
「うん、やってみるよ。」
戦闘服にそれぞれ身を包んだ一行は森の奥地へと進んでいた。
「みんなシャドウウルフに警戒して。夜になると浅層にも出るのだけど索敵魔法には引っかからないわ。気が急くのは分かるけど、これ以上のスピードを出すのは危険よ。」
「クラウス様、周囲の警戒はお任せを。闇属性の者はシャドウ系の魔獣の索敵に優れております。」
「じゃあ僕はローゼリアを探すのに専念するね、ありがとうオスカー。」
四人はオスカー、レイモンド、クラウス、ラウレンティアの順で走り出した。襲いくる魔獣をオスカーが感知し、前方はレイモンドが、後方はラウレンティアが守り、クラウスは索敵魔法に集中した。
間もなくして奥地へと続く道に到達した。
「この辺はゴブリンの生息区域と言われている筈だが…一匹も見なかったな。何か生態系の変化があったのだろうか。それにローゼリアが通った筈なのに戦闘の痕跡が全くなかった。」
「考えるのは後よ、ローゼリアがゴブリンに遭遇していないのならそれに越したことはないわ。ローゼリアは感覚に優れているから魔物を察知して気配を殺しながら進んだのかもしれないわ。」
ローゼリアに集団で襲いかかってきたゴブリン達は彼女が一瞥するだけで消し炭となっていた事を彼らは知らない。
「…いた!ローゼリアだ!止まってる。周りに敵はいないみたいだ。こっち!」
「急ごう。」
逸る気持ちを抑え、一行は慎重に歩みを進めた。すると一本の大木の根元から小さな鳴き声が聞こえてきた。暗闇の中皆が目を凝らすと、せり出した木の根から銀色の髪がキラキラと輝いているのが見えた。
「ローゼリア!」
クラウスが小声でローゼリアの名前を呼び、小さな影に駆け寄った。
「クラウス兄様…?ほんとに?どうしてここが…」
涙で顔をぐちゃぐちゃにしたローゼリアに怪我がない事を確認して、クラウスはホッと息を吐いた。
「ローゼリア、無事で本当に良かった。君の魔力残渣を追ってここまで来たんだ。さあ帰ろう、ここは危ないよ。」
「で、でもまだペンダントが…」
「全部アメリーの嘘だったんだ。形見のペンダントなど存在しない。全ては君を陥れるための虚言だ。君がいなくなったと聞いた時心臓が止まるかと思った…本当に無事で良かった、ローゼリア。」
クラウスとレイモンドに抱きしめられ、ローゼリアの涙はやっと止まった。ひと塊りになった子供達の前にラウレンティアが歩み寄った。
「ローゼリア、無事で本当に良かったわ。勝手に抜け出した事へのお説教はまた今度にするとして…無事な顔をお母様にも見せて。」
「お母様、ごめんなさい、ごめんなさい。」
ローゼリアが落ち着くのを待ち、彼らは森を抜け出すため出発した。しかし彼らが動き出した直後、地響きと共に右側方の木々がなぎ倒され、巨大な猪が現れた。
「こんな時に。超大型の、グレートボアだわ。みんないけるかしら?」
「いけるよ!」
「いけます。ローゼリアは疲れているだろうから下がっているんだ。」
「ううん、私も戦う!みんな私のためにここまで来てくれたんだもん。」
「分かったわ、ではクラウスと私が後方支援、レイモンドとローゼリアは攻撃を仕掛けて。オスカーは防御魔法が使えないローゼリアの盾を。
グレートボアは分厚い毛皮と内側の皮膚とで弱点属性が違う厄介な魔物よ。毛皮の弱点属性は火、内側は水よ。二人で役割分担して攻撃なさい。」
「じゃあ私が毛皮を焼くね!」
作戦会議をしている間に魔獣は彼らのすぐ側まで来ており、前足を打ち鳴らしこちらに突進しようとしていた。
「『チェーンバインド』」
ラウレンティアは周辺の地面から光の鎖を出現させ、それを魔獣に巻きつけた。突進攻撃を防がれた魔獣は怒り狂い、雄叫びを上げながら鎖から逃げ出そうと暴れた。光の鎖に徐々にヒビが入りラウレンティアの額から汗が流れた時、ローゼリアが魔法を放った。
「『ヴォルケーノ』!」
ローゼリアの声と共に、魔獣の足元がひび割れ、勢いよく火柱が吹き上がった。
「『トルネード』!」
炎に包まれた魔獣に、さらに追い討ちをかけるようにクラウスが竜巻を放った。風の援護を受け、ローゼリアの炎は魔獣の毛皮を焼き尽くした。しかし一度に毛皮を焼きつくすほどの火力を持ってしてもなお、魔獣本体にダメージは通っていなかった。魔獣は己の毛皮を焼いたローゼリアに敵意をむき出しにし、ラウレンティアの鎖を引きちぎって突進攻撃を繰り出した。オスカーはすかさず魔獣とローゼリアの間に入り、防御魔法を発動した。超大型魔獣の全体重を乗せた攻撃に、オスカーの盾は耐え切った。魔獣が後退すると共に魔法の盾はひび割れ、砕け散った。
「『ウォーターボール』!」
「『フリージングフィールド』」
ローゼリアの呪文のすぐ後にレイモンドが続き、彼の声を合図に残りの者は急いでレイモンドに駆け寄った。魔獣の周辺の気温がぐんと下がり、パキパキと音を立ててウォーターボールでずぶ濡れになった身体が凍りついていく。寒さで動きが鈍くなった隙を逃さず、レイモンドはアイスランスを唱えた。すると魔獣の周囲に無数の氷の槍が出現したと同時に魔獣に襲いかかった。視界が開けると、そこには無数の槍で串刺しになり息絶える魔獣の姿があった。
「やった、のか?」
「す、すごい!僕たち超大型魔獣倒しちゃったよ!」
「怖かったけど、倒せて良かった!」
子供達が血溜まりの前ではしゃぐ姿は側から見れば異様であったが、この場にいる者が違和感を感じる事はなかった。
「良くやったわね、三人とも。今回は私達も手伝ったけど、もっと連携を練習すれば三人だけで倒せるようになるわ。頑張ってね。」
「「「はい!」」」
「では戻りましょうか。皆首を長くして待っている筈よ。」
和やかな雰囲気の下、一行は不気味に生い茂る森の奥地を歩き出した。




