魔力開発4
「さあいざ魔境の森へ!…と言いたいところですけど、まずは防御魔法の練習からしましょうね。クラウスは出来るけど、一緒に確認してちょうだい。」
「「「はい!」」」
ローゼリア達四人は兵士の訓練場の一つに足を運んでいた。人払いがされた訓練場の中で、子供達はラウレンティアに向かい合い元気よく返事をした。
防御魔法はシールドといい、各属性に存在しその属性を司った盾を出す魔法である。支援や回復を得意とする光属性のシールドが最も耐久性に優れる為、汎用型魔力を持つ者は光属性魔法であるライトシールドを使うものが多い。
「クラウスとローゼリアはライトシールド、レイモンドは…アイスシールド、かしら?それぞれ目の前に盾を作るイメージで唱えてみて。あなた達の身を守る大切な盾よ、きちんとイメージしてね。
まずはお手本にクラウスから。」
「はい、『ライトシールド』」
クラウスが唱えると、目の前に半透明に薄く光る丸い盾が出現した。ラウレンティアはそれをコツコツと叩き強度を確認すると、合格を出した。
「良い強度だわ。合格ね。次はレイモンド、やってみなさい。」
「はい。…『アイスシールド』」
次にレイモンドが唱えると、わずかな時間を置いてクラウスが出した盾より二回りは大きな氷の盾が出現した。
「もう少し魔力をしぼって瞬時に出せるように練習しましょう、この時間差は命取りだわ。強度は十分あるようね。」
「はい母様。」
「さあ、次はローゼリアの番よ。あなたは初めて魔法を使うのだったわね。失敗しても良いからやってみなさい。」
「はい!『ライトシールド』」
ローゼリアが呪文を唱えるも、何も起きなかった。
「あら?全く発動しなかったわね…。ローゼリア、もっと良くイメージして、クラウスを真似てやってみるのよ。」
「は、はい…『ライトシールド』!」
「…何も起きないわね。魔力の動きも感じなかったわ。」
「うう、ごめんなさい…ぐすっ」
「泣かないで、ローゼリア!いきなりシールドは難しかったのかも!ねえ母さん、僕が初めて成功した魔法はウォーターボール、ローゼリアにもそれから練習させたら?」
「そうねえ、魔力量がすごいと言っても、まだ5歳の初心者ですものね。ごめんなさいローゼリア、もっと簡単なものから始めましょう。
クラウス、手本を。」
「はい!『ウォーターボール』」
クラウスの掌から拳大の球体の水が飛び出し、その場で浮かんだ。
「魔力量が多いと小さくするの結構難しいんだよ。手の平で浮かぶようにイメージしてね。飛んでいくと危ないから。」
「うん!『ウォーターボール』」
ローゼリアが呪文を唱えると、クラウスの時と同様に拳大の水が出現した。
「あら?こっちは良くできているわ。魔力操作も全く問題ないように見えるわね…」
「すごいよローゼリア!いきなりこの大きさは難しいんだよ?」
「ここで使える他の魔法もいくつか試してみましょうか。」
その結果、ローゼリアが使えた魔法はボール系のみであった。
「おかしいわね…あれだけ魔力があってどうして使えないのかしら…」
「まさか生活魔法も全滅とは…」
「ゔぅっぐすっ」
「…もしかしたらローゼリアは攻撃魔法にしか適性がないのかもしれない。本で読んだことがある。特定の魔法にしか適性がない者もいると…実際に見たことはないが。」
「それならここで試しても意味がないね…攻撃魔法はボール系以外はここでは危険すぎる。」
「うう、でもシールド使えないから森に入れないよ…」
「そうねえ…ローゼリア、お母様があなたを絶対に守るから、明日は森に入って他の攻撃魔法を試してみましょうか。今日一日でレイモンドのシールドも上達したし、後はお兄様達に同行を頼んでみるわ。」
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その日の晩餐には再び家族全員が揃った。
「ラウレンティア、どうだ子供達の魔法の練習は。」
「今日は森に入るためのシールドを練習しましたわ。レイモンドとクラウスは合格点に達しましたけどローゼリアが…」
「ボール系しか使えなかったの、魔法…」
「おや…」
「ぷぷ!なによそれ、魔力量が多いって言っても使う才能がないんじゃ意味ないわね!訓練してない私だってシールドくらいできるわよ。」
「こらっやめないかアメリー。ローゼリアはまだ5歳なんだ。今日初めて魔法を使ったそうじゃないか。最初はお前だって苦労してただろ?笑うんじゃない。」
「ふん!天才とか言われてる割に大したことないって言ってるだけよ!」
「うう、ぐすっ」
ローゼリアが涙を浮かべた瞬間、彼女の両隣から殺気が溢れた。アメリーは顔を青ざめさせ短い悲鳴を上げ、大人達は感心したように二人の子供に目を向けた。
「…へえ。もうそんな事が出来るんだ。シュバルツの血は伊達じゃないのかな。」
フリードがそう呟くが、レイモンドとクラウスはそれに答えずにローゼリアに声をかけた。
「ローゼリア、あいつの事は気にしない方がいい。君はまだ5歳なんだ。焦らなくていい、僕なんて12歳でやっと魔法が使えるようになったんだからね。」
「うん!ありがとう、もうちょっと頑張ってみる。」
「そういえばレイモンドは魔力がないと聞いていたが…急に成長したのか?」
「ええ、そうなんですの。なのでまだ魔法を使い慣れていなくて。折角なので彼らの訓練も兼ねて森に入ろうかと思って帰省しましたの。」
ラウレンティアはキーランドの疑問に氷属性魔力のことは言及せずに答えた。
「付き添いが私だけでは不安なので、明日はお兄様のどちらかにご同行願いたいのですが…」
「じゃあ私が行くよ、午前中なら空いている。確かにラウレンティアだけでは不安だ、もう大丈夫だとは聞いたけど。」
「ではフリードお兄様にお願いしますわね。」
フリードの含みのある言葉を無視してラウレンティアは笑顔で答え、その日の晩餐は終わった。大人達は酒を飲むためにサロンに移動し、子供達はそれぞれの部屋に戻っていった。
他の者とは反対方向にある客間に向かう道中、クラウスが口を開いた。
「ローゼリア、アメリーの事は本当に気にしない方がいいよ。アイツ、今まで紅一点だったからお姫様扱いでさ、だからあんなにワガママなんだ。急に自分より小さくて可愛い従姉妹が出来たから焦って嫉妬してるんだよ。今後も色々突っかかって来るかもしれないけど、僕達が守るからね。」
「うん。兄様達がいるから大丈夫!ありがとう。」
三人はローゼリアを中心に、手を繋いで歩いた。