若き 戦闘姫ラウレンティア3
アルドリック達はラウレンティア案内の下、日暮れまでに無事バーナー邸に辿り着いた。相も変わらず血濡れの愛娘と、右の手足部分の鎧がなくなり素肌を露出したままのアルドリックの姿を見て、キーランドは頭を抱えたくなった。
「無事にお戻りで何よりです。…して閣下、そのお姿は、まさかラウレンティアが何かやらかしましたか?」
「いや、私達は彼女に助けられた。ラウレンティア嬢がいなければ、私達は皆死んでいただろう。」
「それはそれは…」
「ただいまお父様。超大型魔獣を討伐してきましたわよ。私がいない間に、随分と魔獣の数が増えたわね。」
「お帰りラウレンティア。森の守り手は皆お前のような戦闘狂なわけではないからね。」
「乙女に向かって戦闘狂だなんて失礼ですわ。」
「ならその血濡れの姿を何とかしてきなさい。公爵閣下の御前だぞ。」
「あら、忘れてましたわ。湯浴みしてまいりますね。」
「お見苦しい姿をお見せしまして申し訳ありません。娘は戦闘のこととなると周りが見えなくなりまして。何か無礼な事を申しませんでしたか。」
「問題ない。バーナー家の戦いを見られるなど貴重な体験だった。」
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アルドリックはその日バーナー家の晩餐に招待された。着飾ったラウレンティアは先程の血濡れの姿から一変し、髪を緩くハーフアップに結いアイスブルーの清楚なドレスを身に纏っていた。
「森にいた時の姿も目を奪われたが、少し着飾っただけで見違える様だ。そのドレスもとても良く似合っている。」
「ふふ、ありがとうございます。」
アルドリックはラウレンティアの眼を真っ直ぐ見つめた。彼女の戦う姿を見た後は、それまで言い寄ってきたどの男も目を合わせてくれることはなかった。自分を見つめてくれるアイスブルーの瞳に、ラウレンティアは頬が熱くなるのを感じた。
「…オホン。ではそろそろ料理を運ばせましょう。」
突然発された二人の甘い雰囲気に困惑を隠せないでいたキーランドは、はっと我に帰りそれを霧散させた。
その日の晩餐はバーナー領の名産である魔獣の肉が並んだ。魔獣の多いこの地域では狩って来た魔物を食することが多い。強い魔物ほど美味と言われており、今回食卓に並んだのは今日ラウレンティアがとどめを指した大型魔獣の肉であった。魔獣討伐後、ラウレンティアは腰に下げていたマジックバッグに魔獣を収納し邸に持ち帰っていたのだ。
「ほう、これは美味い。王都では家畜の肉が一般的だからあまり魔獣の肉は食べた事がなかった。」
「ありがとうございます。魔獣肉は鮮度が落ちると直ぐに獣臭くなってしまうので王都では出回っていないのでしょうね。産地でしか食べられない貴重な肉です。」
バーナー領でしか食べられない料理の数々に舌鼓を打ち、晩餐会は何事もなく終わった。
「閣下、少々よろしいでしょうか。二人きりでお話ししたい事がございます。」
「ああ、私も丁度あなたと話をしたいと思っていた所だ。」
「それでは応接室にて食後のお茶といたしましょう。」
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「娘から伺いました。あの子の命を助けてくれたと。御礼申し上げます。」
「例には及ばない。女性があの様に傷つくのを黙って見ていられる性分じゃなかっただけだ。勢いで飛び出したものの彼女の足手纏いにしかならなかったしな。彼女にも怒られたよ、自分一人で勝てたと。」
「それでも親としては娘が傷つくのは見たくないものです。ありがとうございました。」
「それにしても、彼女のあの傷付くのを厭わない戦い方…異常にも見えた。あれがバーナー家の戦い方とは言うまい?」
「…あの様な戦い方をするのは彼女だけです。なまじ回復魔法の適性が強いが為に、癒せば治ると言って誰が言っても聞かないのです。敵を見ると突っ込んで行くものですから、他の者と連携も取れずあの子はいつも単独で討伐しております。」
「あのままだと彼女はすぐに死ぬぞ。」
「治らぬのです、あれは。私達がどんなに自分を大切にしろと言っても。」
キーランドはしばし逡巡した後、ラウレンティアの過去をアルドリックに話そうと決めた。彼なら娘を何とかしてくれそうな予感がした。
「きっかけは彼女が12の頃でした。息子たちと共に戦闘訓練も兼ねて浅層で魔獣狩りをしていた時、滅多にない事なのですが大型魔獣が現れました。子供達だけでは到底敵わず、息子達はラウレンティアを庇って瀕死の傷を負いました。残されたあの子は一人魔獣に立ち向かい、傷を負えば自らをヒールで癒し地道に攻撃を続けました。少しずつ蓄積されたダメージが遂に魔獣を殺し、息子達がラウレンティアの回復魔法で意識を取り戻した時にはあの子の服はボロボロで全身血濡れだったのです。
それから彼女は自分が傷つく事も厭わず敵に突っ込んでいく様になってしまいました。死ななければ、傷は治ると、何度でも復活できると。あの子は防御魔法は魔力の無駄と言い一切使いません。
傷を負って痛みを感じるのは、死が近づいていることを伝えるための危険信号のはずです。ですが彼女の場合、あの事件をきっかけに痛みと死の恐怖が切り離されてしまった。私達が何を言っても、突き進むのをやめないのです。毎日あの子が無事に帰宅する度に私たち家族は内心安堵しているのです。例えどんなに血濡れであろうと、ああ今日も死なずに戻ってきた、と。
ラウレンティアは態と魔獣に腕を食べさせ至近距離で魔法を放つのです、近い方が威力があるからと。あの子の服を見ましたか?袖が千切れているのは、腕を生やした証拠です。今日は両足ともブーツを履いていましたな。珍しい事です、帰宅時に両脚とも無事なのは。
…あの子は異常です、もう我々の手には負えない。」
「彼女を魔境の森から離した方が良い。12の出来事で、心に深い傷を負った様に思う。トラウマだ。簡単に治ることはない。彼女は誰よりも戦う事を恐れている。ラウレンティア嬢を戦闘から遠ざけなさい。彼女の命が惜しければ。」
「そうしたいとは皆思っているのですが、あの子が貴重な戦力なのも事実でして…自分がいなくて森が守りきれるのかと言われてしまうと何も言い返せず…」
「確かに魔境の守り手は数が少ない、彼女が抜ければ大きな穴となろう。しかしその穴を埋めるやり方がないわけではない。決断するのはバーナー家当主であるあなただ。」




