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若き戦闘姫ラウレンティア2


ラウレンティアを先頭に再び歩き出した一行は、木々が薙ぎ倒される轟音に足を止めた。音の先では、成長しきった木々の上から巨大な魔獣が顔を覗かせ咆哮を上げた。


「な、なんだあの大きさは!」

「あら…超大型魔獣ですわね。私が数年ここを離れている間に、随分と魔獣が幅を利かせている様ですわ。」

「何を悠長な…災害級だぞ!この人数で挑めば一瞬にして奴の腹の中だ。逃げられるか?」

「あなた方は下がっていて、命が惜しければね。大型魔獣の討伐は、魔境の森の守り手の仕事ですわ。」

「閣下、こちらへ!」

「しかし彼女を置いて行くなど…!」

「勘違いなさらないで、あなた方は足手纏いなのですわ。さっさと消えてくださいまし!」


アルドリック達はラウレンティアと魔獣から距離を取り、気配を消してその戦いの行く末を見守った。

ラウレンティアを標的に選んだ魔獣は、その巨大な腕を彼女に向け振り下ろした。凄まじい風圧で周囲の木々が薙ぎ倒される中、ラウレンティアは振り下ろされた腕に飛び乗り、そのまま駆け上がった。


「『ホーリーランス』!」


彼女の詠唱と共に無数の光の槍が出現し、魔獣の顔面を襲った。右眼を潰された魔獣は怒り狂い、ラウレンティアの乗った自らの肩にもう一方の腕を叩きつけた。直撃は避けたものの、吹き飛ばされたラウレンティアは地面に激突した。


「ラウレンティア嬢!!」


瀕死の怪我を負った様に見えたラウレンティアは、しかし次の瞬間には何事もなかったかの様に続け様に襲い来る攻撃を交わした。


「一体何が…」

「彼女、光属性魔法の使い手の様です。恐らくですが、あの一瞬で自身を癒したのかと…」

「あれ程の怪我をあの一瞬で?」


『グオオオォ!!』


思うように攻撃が当たらない魔獣は、苛立ち無茶苦茶に腕を振り回した。ラウレンティアは距離を取り様子を伺っていたが、突如として彼女の頭上に現れた石つぶてが彼女の頭部を襲い、意識を刈り取られ地面に倒れ伏した。


「あの魔獣、魔法まで使えるのか!」

「ラウレンティア嬢が危ない。」

「閣下、なりません!あなたに何ができるというのです!」


騎士達の制止を振り切り、アルドリックは走り出した。魔獣が放ったかまいたちがラウレンティアの命を刈り取る寸前、彼女の元に辿り着いたアルドリックは彼女を抱え最小限の動きで攻撃を躱した。彼女を守り、自身への致命傷を避ける最小限の動き。防御魔法を持たないアルドリックはそれだけで精一杯であった。彼女を抱えていない方の腕が、脚が、刈り取られようと、ラウレンティアが無事であれば勝機はある。


「ぐっ…」

「公爵様!!」


意識を取り戻したラウレンティアは瀕死のアルドリックの姿に一瞬動揺を見せたが、直ぐに魔獣に視線を向けた。


「『ヒート』」


アルドリックが魔法を唱えると、途端に魔獣の動きが緩慢になった。その隙を逃さず、ラウレンティアは再び魔獣の腕に飛び乗ると肩まで一気に駆け上がった。


「『ホーリキャノン』!!」


魔獣の頭部の直ぐそばで放たれた魔法は、見事魔獣の頭を貫通した。地響きと共に地面に倒れた魔獣からひらりと降り立つと、ラウレンティアは右腕と脚を失ったアルドリックに駆け寄った。


「公爵様、何という無茶を…!『リザレクション』」


ラウレンティアが魔法を唱えると、失われたはずのアルドリックの手足が光と共に復活した。


「私は身代わりの宝玉を身につけております。即死攻撃を一度だけ防いでくれる物です。死にさえしなければ、自分の回復魔法で何度でも復活出来ます。あなたが無茶をしなくても私一人で勝てたわ!」

「それはすまない…だが、攻撃を受けても死なないとはいえ痛いものは痛いはずだ。あなたの様に可憐な女性の、苦痛に歪む顔が見たくなかった。私の自己満足だ。」

「な、なにを…」


ラウレンティアの血濡れて戦う姿を見てもなお彼女を可憐と表現する者など今までいなかった。赤く染まる頬を誤魔化すように彼女は口を開いた。


「そういえば公爵様、先ほどの魔法は何ですの?一瞬にして魔獣の動きが悪くなりましたわ。魔法は使えないのではなかったの?」

「ああ、あれは私が使える数少ない生活魔法の一つ、ヒートだ。」

「え?」

「小脳をヒートで加熱させて運動失調を引き起こしたんだ。あの魔獣の脳が、人間と同じで助かったよ。」

「生活魔法でそんな事…」

「人体に向けて使うことを想定して開発したんだ。これは私の切り札だから、人に言わないでくれよ。」

「わ、分かりましたわ。」


ヒートは冷めた料理を温め直す時などに使われる、ライトやクリーンに次いで一般的な生活魔法である。それを人体に向けて使うなど、一体誰が想像できようか。魔力の少ないアルドリックがヒートで加熱できる範囲などたかが知れている。人体の構造を正確に把握し、かつ精密な魔力操作が必要なはずだ。アルドリックは間違いなく天才であった。だが無情な事に、それを発揮できるだけの魔力が備わっていなかったのだ。


「閣下!ご無事で何よりです。何故あんな無茶を…肝が冷えましたよ。」

「すまなかった、身体が勝手に動いたんだ。見ての通り無傷だ、安心してくれ。」

「…」


新しく生えたアルドリックの手足は以前と変わらないものの、身に付けていたはずの鎧は何処かに消え素肌が露出しており、残った鎧部分には血飛沫が多数残っていた。駆け寄った騎士はあからさまな嘘に呆れを隠せないでいたが、本人が無傷だというのならもうそれで良いと諦めた。


「あら、丁度こちらが隣国との国境ですわ。ここがこの国の保有する魔境の森の最深部です。大型魔獣がこの周囲を徘徊するのはよくある話ですし、特に異変はありませんでしたわね。そらそろお戻りになりますか?皆さまお疲れのようですわよ。」

「あれで異変なしなのか…。そうだな、そろそろ戻るとしよう。」

「ご案内いたしますわ。」

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