魔力開発1
「本日のパウンドケーキはオレンジピール入りの新作です。」
「ありがとう、オスカー!」
勉強を終えた三人の子供はローゼリアのおやつも兼ねてお茶をしていた。レイモンドの授業は彼の部屋で行われている為、この場にいる使用人はオスカーのみである。
「ローゼリア、ちょっと良いかい?」
レイモンドがローゼリアのカップに手を伸ばすと、彼の指先から淡い青の光が放たれた。その小さな光の玉はローゼリアのカップの周りを数週するとすっと消えた。三人がカップの中を覗くと、湯気が出ていたはずの紅茶はすっかり凍っていたのだった。
「すごい!レイモンド兄様、魔法使える様になったの!?」
「まだ水を凍らせることしか出来ないけどね。空気中の分子に働きかけるって言うのは目に見えないものだし範囲指定も難しくって。部屋の温度を下げるのは、まだ出来てないんだ。液体以外のものを凍らすっていうのもイメージし難くて。」
「充分すごいよ兄さん!新しい魔法だよ!?」
「こんなの水属性魔法でも出来るからね。他人からしたら、違いは分からないさ。」
「うーん、水を凍らせることが出来たんなら、今度は湯気から氷を作ってみたら?」
「湯気から?」
「うん。湯気って小さい水が集まってできているでしょう?湯気を集めて氷の塊を作ってみたらどうかなって。ただの空気と違って湯気って目に見えるでしょ?空気に魔法をかける練習になるんじゃないかな。」
「湯気から氷を作ることができる様になったら、今度は空気中の水分を集めて何もないところから氷を作り出してみようよ。それを拳大の大きさに作れば、水魔法のアイスバレットになるんじゃないかな?」
「成る程…一般に言われる氷魔法とは真の氷属性魔法の模倣、ならばその模倣を元に本物の氷属性魔法を作り出すと言うことか。ありがとう二人とも、すごく参考になった。先ずは湯気で、それが出来たら空気中の水分で氷を作ってみるよ。
成功するまでは危険だから、出来る様になったらまた二人に見せる。」
「楽しみにしてるね!レイモンド兄様ならきっとすぐ出来る様になるよ。」
クラウスが言った空気中の水分から氷を作り出すという方法、それこそがローゼリアがアルドリックに見せた技のカラクリであった。ローゼリアが方針を指し示したとはいえ、あれだけの短期間で真実に辿り着くとは、やはりクラウスは物事の本質を見抜く力がある様だ。
クラウスが成長すれば、いつかローゼリアの正体にも気付くかも知れない。それはそれで楽しみだ、ローゼリアは思った。
「そういえばこの凍った紅茶どうするの?ローゼリアのなのに。」
「はっ。す、すまない…」
ローゼリアは凍った紅茶をカップからソーサーに移した。
「私紅茶のシャーベットが食べたい!クラウス兄様、削って!」
「お、良いね!『ウィンドカッター』」
クラウスが呪文を唱えると瞬く間に氷の塊が細かく切り刻まれ、シャーベット状になった。ローゼリアはスプーンを手に取りそれを口にした。
「美味しいー!砂糖もミルクも入ってるから、甘くて美味しいよ。ありがとうレイモンド兄様、クラウス兄様!」
レイモンドとクラウスは妹の愛らしい笑顔を幸せそうに眺めた。
ーーーーーーーーー
「オスカー、お前の闇魔法には見えない空間に作用するものはあるか。」
「は、空間に作用するかは分かりませんが、光の屈折を利用し姿を隠す隠密魔法は御座います。最初は目に入るもの全てが光であるという事が実感できず、苦労した覚えがございます。」
「どの様に練習したのだ?」
「まず志向性を持たせた光を屈折させることから始め、その後は自分の周囲にガラス板を置き、その屈折率を変化させることで姿を消す練習をしました。次にガラス板なしで元々板があった空間そのものの屈折率を操作しました。」
「ガラス板か…」
「現在は自分の周囲に膜を張る様なイメージで使っております。」
「隠密魔法は自分の周囲の狭い範囲にかけるものだからな…冷気を攻撃に転用するなら、広範囲の方が都合がいいんだが。」
「参考にならず申し訳ありません。」
「いや、充分参考になった。範囲を広げるのは後にし、先ずは範囲を可視化してその空間内にある水分から氷を作り出す練習をしよう。適当な大きさの箱を用意しておいてくれ。湯気から氷が出来る様になったら、そちらに取り掛かる。」
「畏まりました。」
ーーーーーーーーー
「ローゼリア、手を出してごらん。」
「こう?」
ローゼリアの手の上にレイモンドが手をかざすと、コロンとハートの形をした氷が何も持っていない筈の彼の手から落ちた。
「すごい、もう出来る様になったの!?やっぱり兄様は天才ね!」
「細かい形まで作れるようになったんなら、攻撃魔法も出来るようになった?もうアイスバレットとかアイスアローとかならできそうな気がするんだけど。」
「攻撃魔法を試すなら演習場を使わないといけないからね、目立つかと思って、まだやってないんだ。どれくらいの威力かもわからないし。」
「ここまでいくとやっぱりそろそろ父様と母様に相談するべきだね。別に悪い事をしているわけじゃないし、どうかな?母様は結界が張れるから、攻撃魔法の練習も安全に行えるんじゃないかな。」
「そうだな、今度相談してみるよ。それにもしかしたら、父様も氷属性魔法に適性があるかもしれない。」