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魔力測定4

その日、エドワードは一人の巫女と共にシュバルツ家の邸宅を訪れていた。


「ようこそおいで下さった、神官長殿。」

「いえいえ、ローゼリア様に関してのお話という事でしたので是非もありません。」

「神官長様、ご機嫌麗しゅう。」

「おお、ローゼリア様!相変わらず神々しいまでにお美しい。神官長など他人行儀な呼び方ではなく、是非エドワードとお呼びください、小さなお姫様。

今日は貴方様にお土産が御座いますぞ。こちらの菓子は王都でも有名な菓子職人に作らせた物でしてな、店頭では手に入らない貴重な菓子です。神殿に入ればこの様に貴重な甘い菓子もたくさん食べられますぞ。」

「まあ、ありがとうございます、神官長様。後で家族皆でいただきますわ。」


応接室に入り、アルドリックとローゼリアは隣り合わせに、エドワードは向かいのソファにそれぞれ腰を下ろした。巫女はエドワードの背後に控える様に立った。

アルドリックはこの会合にローゼリアを同席させるつもりはなかったが、エドワードが調べたいことがあるからどうしても、と譲らなかった。アルドリックは用が済み次第ローゼリアは即座に退席させると釘を刺し、同席を許した。


「早速本題に入ろう。ローゼリアを神殿入りさせるつもりはない。以上だ。何か質問はあるか?」


取りつく島もないアルドリックの頑なな態度に気後れしながらも、エドワードは口を開いた。


「それを決めるのはローゼリア様ご本人です。そして今回ローゼリア様に御同席願ったのは、少々調べたいことが御座いまして。」

「調べたいこととは。」

「はい。巫女長、加護の水晶を。」


巫女長と呼ばれたのは、白い布地に金の刺繍を入れたローブを纏った金髪金眼の20代の女性であった。女神の色とされる金の瞳を持ち、癒しの魔法の高い適性から若年ながらも巫女長に抜擢された。貧しい者にも分け隔てなく癒しを施すその姿から、一部では聖女と呼ばれている。

巫女長は放射状に無数の結晶が伸びている刺々しい水晶をエドワードに差し出した。


「これは?」

「これは加護の水晶。魔力水晶と同じ様な仕組みですが、こちらが調べるのは加護の有無。通常は神殿入りする際に加護を持つかどうかを調べさせます。加護を持っているものは極少数ですが、その加護により向いている仕事というのは違ってきますからな。因みに私は統治者の神の加護を、巫女長は癒しの女神の加護をそれぞれ持っております。」

「なるほど…。して、何故それを神殿入りしてもいないローゼリアに?」

「ローゼリア様は稀代の天才。恐らく何らかの神の加護を賜っていることでしょう。加護の種類によっては、神殿で保護をする必要もございましょう。なに、殆んどの者は加護など持っておられません。ローゼリア様が神殿向きの加護を賜っておられなければ、私どもも神殿入りは諦めましょう。」

「…」


ここで頑なに加護を調べるのを拒否すれば何かあると怪しまれるかもしれない。たとえ加護があったとしても、神殿向きでなければ神殿入りを断る良い口実にもなろう。なんせローゼリアは攻撃魔法以外は適性がない。そもそも女神の身体に他の神の加護が付くかは疑問だが、仮に付いていたとしても過激な神であろう。神殿向きではないはずだ。アルドリックはそう結論付けた。


「ローゼリア、お前はどうする。」

「お父様の言う通りにします。」


ローゼリアも異論はなさそうだ。アルドリックはローゼリアの加護を調べる事を許可した。


「それではローゼリア様、お手をこちらに。魔力測定の時と同じ様にして下されば良いのですよ。」


エドワードはローゼリアの前に加護の水晶を置き、彼女を促した。

ローゼリアが水晶に手をかざすと、魔力測定の時と同じ様に眩い光が部屋を照らした。アルドリックはその神々しいまでの光を見て、自分の判断は早計であったと早くも後悔していた。


「おお、流石はローゼリア様、どうやら加護をお持ちの様だ。この神々しい光は、果たして主神イーツェル様かはたまた創造の女神エレシュア様か…」


興奮した様子のエドワードは加護の水晶から情報を読み取ると、そのまま硬直した。


『神々の加護』


「これは…?」


アルドリックはローゼリアがまたやらかした事を確信しつつ、エドワードに問いかけた。


「このような加護は…聞いたことがありません。ですが、恐らく複数の神から加護を賜ったのではないかと…前代未聞ではありますが…」


通常、加護は一人一つ。複数の加護を持つ者など、歴史を遡っても存在しなかった。


「これは…益々神殿で保護すべき対象であると思いますが…俗世ではさぞ生き難い事でしょう。」

「くっ…」


アルドリックがちらりとローゼリアを見ると、彼女は不安げな顔をして彼を見返した。エドワード達の前では、あくまで非力な5歳児として振る舞う様だ。


「…近々、ベンジャミン殿下のご子息であるクローヴィス殿下との婚約が正式に決まる。婚姻を予定している者を神殿に入れることは出来ない。国に楯突く覚悟はお有りか、神官長殿。」

「それはそれは…。彼女の高い魔力を国が欲しましたかな。それはローゼリア様ご本人がお決めになった事ですかな?私どもはローゼリア様の意志を尊重いたします。彼女が神殿入りを望めば、喜んで受け入れましょう。」

「話は以上だ。そろそろお引き取り願おうか。」

「では、この話はまたの機会に。」



ーーーーーーーーー



「ローゼリア様、次は是非こちらの巫女長ともお話をして頂きたい。神殿の生活がどの様なものなのか、彼女が一番良く知っているでしょう。」

「ローゼリア様、次神殿にお越し頂いた際には是非私にご案内させてくださいませ。歴史ある神殿内を散策するだけでも充分楽しめますわ。」

「ええ、機会があれば。」

「それでは、これにて失礼致します。」


エドワード達の姿が見えなくなると、アルドリックは大きな溜息を吐いて項垂れた。ローゼリアは、慈愛に満ちた微笑みでそれを見守るのみであった。

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