魔力測定1
ローゼリアがシュバルツ家に養子に入って一ヶ月。ついに魔力測定を行う日が来た。
神殿に向かう馬車に乗っているのはローゼリア、クラウス、そして新たにローゼリア付きの侍女となったターシャとシェルマの四人。
ヨハナの事件を教訓に、ローゼリアには二人の侍女が付けられた。新人のターシャに、元ラウレンティア専属のシェルマ。ターシャはまだ16歳と年若く、茶髪の三つ編みに雀斑を隠さない素朴な少女。対してシェルマは、ラウレンティアの専属侍女を15年間勤め上げたという実績を持つ、色気を滲ませる30代。ターシャが一人前の侍女として認められるまで、シェルマがサポート役兼監視役として共に仕える事となった。
「いよいよですね!ローゼリアお嬢様の魔力は何色なんでしょうねえ。私までドキドキしちゃいます。」
「確か持っている魔力属性によって色が変わるんだったよね?」
「そうなんですよー。私なんて汎用型がちょこっとでしたから、なんか灰色でしたねえ。綺麗な色を夢見ていたので、ガッカリした覚えがあります。」
「クラウス兄様は何色だったの?」
「僕は虹色だね。」
「虹色!乙女の憧れの色ですねえ。クラウス様の魔力なら、きっとうんと綺麗なんでしょうね!」
「そっかあ。私は何色なんだろう…」
ターシャは使用人としてはいささか馴れ馴れしすぎるところもあるが、下に妹が二人いただけあって直ぐにローゼリアと打ち解けた。甲斐甲斐しく世話をする姿はまるで姉妹のようであった。対してシェルマは口数が少なく、そっと見守りつつも必要な時はさりげなく手助けをする母親のような存在であった。勿論ヨハナの事もあり主人と使用人の立場はお互いきちんと弁えてはいるが。
「緊張している?ローゼリア。僕も始めて魔力測定をした時は、楽しみと緊張ですごくドキドキしたんだ。父様は仕事で来られなかったけど、僕も年に一度の魔力測定をするからずっと一緒にいられるよ。」
「ありがとう、クラウス兄様!クラウス兄様がいれば安心ね。レイモンド兄様も来られれば良かったんだけど…」
「レイモンド兄様はもう魔力測定はしないって言ってたよ。魔法に頼らず生きていくって決めたんじゃないかな。ローゼリアと勉強をする様になってから兄さんは昔に戻ったみたいに明るくなったよ。ありがとうローゼリア。二人の仲が良すぎて少し妬けるけどね。最近も、二人で隠れて何かしているだろう?僕も仲間に入れてほしいな。」
「レイモンド兄様は今自分の周りを寒くする練習をしているの!元々やってた事だけど、それをコントロールするんだって!二人だけの秘密だったんだけど、クラウス兄様も入れてあげるね。」
「兄さんがそんな事を?今まで僕が指摘しても全然聞いてくれなかったのに。僕はね、兄さんは超越者なんじゃないかってずっと思ってたんだ。」
「超越者?」
「超越者というのは、魔力を持たない代わりに魔法では再現できない特別な力を持つ人の事だよ。時空を移動したり、真夏の空気を冬の寒さにするとかね。そういう人は、ありがたくも神様から特別な力を賜ったって事で超越者って呼ばれるんだ。僕はとある英雄の冒険譚が大好きでよく読んでるんだけど、そこに冷気を自在に操る超越者が出てくるんだ。だから僕は兄さんも訓練すれば同じ事が出来るんじゃないかって思ってたんだ。どうやって訓練すればいいのか全然分からなかったし根拠もなかったから、あまり強くは言えなかったけど。」
「そうなんだ!クラウス兄様も気付いていたのね、レイモンド兄様は無能なんかじゃないって。」
以前アルドリックがローゼリアは才能を見出す能力があるとレイモンドに伝えた事があった。確かにローゼリアは女神の力で魂を覗き、その者の本質を見抜くことができるため、それは決して嘘ではなかった。しかし、才能を見出す能力は実はクラウスにこそ備わっているのだとローゼリアは思った。無能を無能と笑わず、本質を見抜く才能をクラウスは持っていた。まだ子供故、上手く伝える事が出来ないだけで。
「兄さんはなんでも出来るんだ。なんでも知っているし、すでに優秀なのに努力を怠らない。魔法だって、実技こそ出来ないけど魔法倫理ならその辺の大人より詳しいし、僕にアドバイスだってくれるんだ。僕は兄さんを一生超えることはできない。尊敬してるんだ。だから兄さんが昔みたいに話しかけてくれるようになって、すごく嬉しいんだ。」
「仲直りできて良かったね!確かにレイモンド兄様の授業はすっごく分かりやすいよ!今度三人でお勉強しよう。」
「いいね、兄さんに聞いてみようか。」
「さあお二人とも、神殿に着きましたよ。ただ今足場を用意しておりますので、少々お待ちください。」
シェルマの一声でこの話はお開きとなった。馬車の出口で控えていた二人の侍女に、クラウスは降りる際にローゼリアに聞こえないよう呟いた。
「この事は他言無用だ。父様にも母様にもね。」
シェルマ達は目を伏せる事で了承の旨を伝えた。