雨の日の四月一日堂・蛇足
蛇足です。
雨の日の四月一日堂・蛇足
「ああ、ここですか。藤宮冬華さんが生まれる病院は」
私は夜の病院を見上げて呟く。呟くのは癖だ。自分の考え、行動を一々口にしないと自分が何をしていたのかすぐ忘れそうになるのでついつい呟いてしまうのです。
「さてさて、ささっと一仕事終えて、暖かい珈琲でも飲みに帰るとしますか」
コツコツと音を立てながら人気のない病院内を歩く。ああ、とても良い雰囲気だ。見たこともない怪異が潜んでいないかとワクワクしながら歩みを進めて行く。
こんな時間に慌てている医師がいますね。どうやら手術に立ち会うようです。余計なものを手術室に持ち込まないように気を効かせてあげましょう。正面から足早に進んでくる医師とすれ違いざま、ポケットに忍ばせていた余計なものを抜き取ってあげる。
手の中で弄んでみましたが特に興味もないのでぽいしちゃいましょう。
「本当に大丈夫なのか?」
裕福そうな男性が医師に詰め寄っているのが見えます。医師や看護師たちは宥めようとしていますが、あの興奮状態ではなかなかうまくいきそうもないですね。仕方ない。
「どうされました?病院内で大きな声なんて出されて?」
私がそう声をかけると、男はばつの悪そうな顔をして黙り込んだ。こういう時は第三者に窘められるのが効くんですよね。特に彼のような身なりの良い人間は。
「なにかトラブルが?」
「それが……私の妻が出産中なのですが……」
事情を聞くとすらすらと話してくれました。心の弱っている人間は割と緩くなってしまいますね。個人的なお話まで筒抜けです。
「なるほど。間に合って良かったです」
適当なことを口から吐き出す。こういう時は突拍子もない言葉の方が良い。その方が相手は興味を引かれるので。
「実は私、占い師などやっておりまして、今日ここで藤宮冬華さんという方が生まれると聞いてきたのですが」
瞬間、男の目が見開かれた。それはそうでしょうね。まだ生まれても居ない娘の名前を私の口から聞いたのだから。これでこの人は完全に私のことを信じ込んだことでしょう。
「そ、それは娘の名前です。私達以外誰も知らないはずなのに……あなたは本当に?」
「ええ。占いの結果、藤宮冬華さんがとても危険な状態にあると出ましたので、こうして解決策を持って参上しました」
溺れる者は、というやつでしょうか。私の言葉になんの疑いもなく飛びついて来てくれます。ありがたいですねぇ。
「冬華さんは生まれながらに死にやすい体質のようです。それで、私はこちらを持ってきました。弾鬼。取り憑いた宿主の死を周りに肩代わりさせる鬼です」
瓶に入った鬼を見せると一瞬ぎょっとしたが、こちらの手を取って来る。
「そ、それがあれば娘は助かるのか?」
「ええ。これがあれば助けられますよ。ただし……」
「それを譲ってくれ!対価はなんでも支払う!」
まったく、こちらの話を聞かないのは遺伝なのですかね。まぁ私は商売ができればどうでもいいんですが。快くこの誰もありがたがらないモノを譲るとしましょう。
「お代など結構ですよ。今後とも私をご贔屓にしていただければ。それでは」
ささっと弾鬼を取り憑かせてその場を去る。あんなものに巻き込まれたらたまったものじゃないですからね。後ろでものすごい感謝している声が聞こえますが、ちゃんと私のお話聞いていましたかね?まぁそこまでは面倒見切れないのでほっときますが。
「どけぇ!」
おっと、先程の医師がなにやら慌てていますねぇ。なにか大事なものでも無くされたんでしょうか?
コワイコワイ。素早くこの場を去らせていただきますよっと。
どうも、バーチャルYouTuberやってます月立白兎です。一応物書きです。
自分の活動の一環として始めたこの作品ですが長い間放置してしまいました。楽しみにしてくださった方申し訳ございません。
これからは定期的に執筆出来たらなと考えておりますので続きをお楽しみに。
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