呪われしもの
「そんな事が気になってたのか?」
ブラッディフッドは、アナスタシアに聞いた。
「ええ、まあ。」
気になっていることは、それだけではない。
「私に直接聞けば良かっただろう?」
アナスタシアが気になっているのは勇者フランチェスカだけの事ではなく、師匠のブラッディフッドの事もだった。さすがに本人には聞くことが出来ず、今日に至っている。
フールは気を利かせ、お茶と共にお茶菓子まで用意してきた。
「気が利くじゃないか?」
「どうせ、お茶菓子がなかったら文句いうんだろ?」
「当たり前だろ。」
ブラッディフッドはそう言ってお茶を口に運んだ。
「勇者フランフェスカの事だったよな?」
「あ、はい。」
お茶とお茶菓子を3人分テーブルに置き終わると、フールもテーブルについて、話の続きを始めた。
「大罪の話をしたよな?」
「はい。」
「フランチェスカは大罪を犯した。それ故、名もなき勇者になってしまった。」
「え?お師匠様のお師匠が大罪を?」
「ああ。勇者フランチェスカが犯した禁忌は2つ。聖剣を汚したこと、そして、神を傷つけた事だな。」
「か、神を?」
「ああ。」
アナスタシアは首を傾げた。勇者フランチェスカが神を傷つけた話なんて、この世の何処にもなかったからだ。
「大神フェンリルは知ってるよな?」
「もちろん。狼でしょ?」
「俺が言ってる大神と、お前が思ってる狼は違う。」
「は?」
「大いなる神とかいて大神。それがフェンリルだ。」
「は?魔王なのに?」
「言ったよな?魔王と言うのは役職だと。」
「え、ええ。」
「魔王と言うのは、勇者に倒させる為の役割をもったもの。神が作った抜け道に過ぎない。」
「え?じゃあ魔王フールは?」
「それは誰かが勝手に言ってるだけだ。ああ、それを言ったらフェンリルも同じだな。」
「なっ・・・。ではフェンリルも魔王じゃなかったんで?」
ようやく自分の師匠が呪われた理由がわかってしまった。
「そうだな。」
「あ、あのう。お師匠様。知っていて、滅ぼしたんですか?」
「ああ。私のは私怨だからな。家族も殺され村人も殺された。単なる私怨で、本来なら物語になるような美談でもない。」
「神というわりには、フェンリルの評判は良くないですよね?」
「狼の神でもあるからな、人には何の関係もない。」
ブラッディフッドが説明した。
「え?」
「所詮、神っていうのは、人間よりも上位の存在だからな。人がどうなろうと知った事ではないんだろう。」
「・・・。」
「嬢ちゃん、疑問は晴れたか?」
「ええ。」
「本来なら俺は人嫌いなんだが、嬢ちゃんは、何かしら邪悪な感じして人っぽくない。」
「失礼な。私の何処が邪悪なので?」
「いや・・・。」
自らが偶に発する黒いオーラには気付いてないようで。
「まあ、いい。滞在を認めてやろう。」
「なんでお前の許可がいるんだ?」
ブラッディフッドが言った。
「いやいや、俺ん家だし!」
「知った事か!」
「くっ。そうだ嬢ちゃん。俺が呪われた話も聞きたくないか?」
「いえ、特に。」
「・・・。」
「・・・。」
「あれはだな。」
沈黙のあと勝手に話し始めるフール。
「すみません。手短にお願いしてもらえます?」
「くっ、ざっくり言うとだな。俺が黒龍を倒してだな。」
「え?」
「って、いきなり話の腰をおるんかいっ!」
「いや、だって黒龍をフール如きが?」
「てめえ、さっきまで俺の事、魔王とか言ってたろ!」
「そうでしたっけ?」
「いいから話を聞け!俺が黒龍を倒し、女神の祝福を受けた時に、俺と女神が恋に落ちた。種族が違い許される恋ではなく、結果、俺が呪われる事になったのさ。」
「へー・・・。」
どうでもいい感じで相槌をいれるアナスタシア。
「おい、お前の弟子どうなってんだ?」
「お前が嘘なんか言うからだ。」
「あっ、やっぱり嘘なんだ?」
「嘘じゃねえよ。何処が偽りなんだよ?」
「お前がでっかい黒い鼠を倒して、女神に祝福されたまでは本当の事だ。」
「ちょっ、龍が鼠になってんだろ?」
「大した違いじゃないだろ?」
「大違いだろ?なんで鼠駆除したら女神が祝福してくれるんだよ?」
「鼠が嫌いな女神だっているだろ?」
「私も鼠はちょっと。」
「ほらみろ。」
「ま、まていっ!こいつは女神じゃねえだろ、お前の弟子だろ?」
「まあ、細かい所はどうでもいいだろ?」
「よくねえわっ!」
「この男はな、あろうことか女神に欲情して夜這いを掛けたんだよ。」
「うわっ、最低・・・。」
アナスタシアはゴミを見るような目でフールを見た。
「ち、違うわっ!恋に落ちたんだ恋に。」
「一方的にだろ?」
「向こうだって慈しむような目で俺を見てたっちゅうに。」
「女神が慈しむような目で見るのは当たり前だろ。お前、バカなのか?」
「納得がいきませんね。なんでお師匠様とこの馬鹿が同じ呪いを?」
「ちょっ、何で魔王から馬鹿にまで急降下してんだよ?」
「こいつのは永遠の不能者だからな。私の不死の呪いとは意味合いが違う。」
「効果は変わんねえじゃねえかっ!」
「お師匠様、何で私たちは、こんな馬鹿の居る所に?」
「お前の料理の修行の為だ。」
「「はっ?」」
アナスタシアとフールの驚きの言葉が重なった。
「言ったろ?料理の修行もするって。」
「それは聞いてましたが。」
「よそでやれっ!何しに来てるんだっ!!」
「なんだ、フール。お前、味見も出来ないのか?まあ私たちは飯を食わなくても生きていけるからな。」
「おいおい、俺だってたまに口が寂しくなって料理することあるんだよっ!ちゃんとお茶菓子だって作ってんだろうがっ!」
「なるほど、これはフールお手製なのですね。なかなか。」
そう言ってアナスタシアは、もぐもぐとお茶菓子を食べた。
「なかなかって、何だ!旨いなら旨いと言えやっ!」
「まあ、ということで、味見役を頼むな。」
「待て待て待て、ブラッディフッド。マジで言ってんの?」
「マジだが?」
「いやいや、俺に修行をつけさす為とか、そう言うんじゃないのか?」
「何で私より弱そうなのに?」
アナスタシアがボソッと言った。
「おいおいおい、お嬢ちゃん。名前なんだっけか?」
「アナスタシアです。」
「そうか。いいかアナスタシア。俺は人類最強の男だぞ?」
「フフフ、私のお師匠様を前によくそんなことが言えますね?」
「ブラッディフッドは女だろ?」
「・・・、自称、人類最強なのでは?」
「ちゃんと男ってつけてるだろっ!」
「・・・。たかだか、ネズミを駆除したぐらいで、最初の英雄プロメティを超えた気ですか?」
「だからネズミじゃねえわっ!それにプロメティは女性だぞ?」
「・・・。」
「知らなかったのか三英雄が全員女性だったことを?」
「人類最強の男って、大したことないんでは?」
「くっ・・・、女ばっかり活躍してて、それに関しちゃあ反論らしい反論は出来ないが。それでもお前よりは、俺の方が遥かに強いわっ!」
「お師匠様、こいつこんな事言ってますが?」
「心配するなアナ。お前の方が強い。」
そう言われてにっこり喜ぶアナスタシア。
「ちょっ、おまっ・・・。どんだけ弟子に甘いんだよ?まともに弟子育ててんのか?」
「お前より強いようには育ててるさ。」
「おい、ブラッディフッド。ふざけるのも大概に。」
「試してみればいいだろ?」
そう言って、ブラッディフッドは不敵に笑った。