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精霊ノーム

精霊ノームに会うべく、ブラッディフッドとアナスタシアは東へと向かった。

途中、ヘナレス火山に寄り、予定通り火ネズミを狩ることにした。

「いいか、アナ。この先に火ネズミの巣があるから10匹くらい狩ってこい。」

「は?お師匠様は?」

「私はここで待っておく。」

「え?」

「私が行ったとして、火ネズミが巣から出てくると思うか?」

「・・・。」

ヘナレス火山には凶悪なモンスター達が住み着いている。その中腹に、火ネズミの巣があるわけだが、中腹に来るまでにモンスターとは1匹たりとも遭遇していない。

仕方なく、アナスタシアは火ネズミの巣の前まで一人で進んだ。

私だって、ブラッディフッドの弟子なのよ。火ネズミたちも、きっと怖がって出てこないでしょう。

そんな事を考えていたら、巣から火ネズミたちが姿を現した。

1匹、2匹どころか、数十匹が。

「ひ、ひいいい。」

正直アナスタシアは、ネズミが苦手だった。

火ネズミの皮で作られた服を着てはいるが。

巣に近づくものは全力で排除する。

これは、どんな生物でも共通な事であり、数十匹の火ネズミたちは、一斉にアナスタシアに襲い掛かった。


どんな時も目は絶対つぶるな。


これがブラッディフッドの教えであり、アナスタシアは、忠実にそれを守っていた。

「きゃ、きゃあ、こ、こないで。」

そう言いながら的確に扇を振る。

10匹撃ち落とした頃、火ネズミたちが巣へと引いていった。

自分たちが勝てない相手だと理解したのだろう。

アナスタシアは、いやいやながら、撃ち落とした火ネズミたちの尻尾を持って、ずるずると引きずりながら、ブラッディフッドの元へと戻って行った。

「よし、上出来だ。」

ブラッディウッドは、そう言うと、火ネズミを一体ずつ解体し皮を剥いだ。

残念ながら火ネズミの肉は人には食べられず、皮以外は、森の中へ投げ捨てた。

1体投げ捨てると、かさかさと音がする。何かが火ネズミの死体を持って行っているのだろう。

10匹全て解体が終わると。

「よし、道中、町で売りながら行くか。」

そうして、アナとブラッディフッドは、再び東へと向かった。


道中の街へ着くと邪な考えをもつ男たちが、アナスタシアを見る。しかし、視界に一緒にいるブラッディフッドの姿が入ると、一目散に街から逃げ出していった。

冒険者にしろ、国無き地に住むものなら必ずと言ってもいいくらいに脛に傷がある。

ブラッディフッドがその気になれば、街の一つや二つ消滅させるなんて簡単な事で、この世界でブラッディフッドを知らない者は居ない。

そんなわけで、街に入ったからと言っても、変な連中に絡まれることは無い。

「さすがブラッディフッド。綺麗に鞣してあるな。1枚3万ゴールドってところかな。」

街の道具屋がブラッディフッドに言った。

「何枚買い取れる?」

「まあ3枚というところだな。申し訳ないな。」

「いや、構わんよ。」

こうして、道中の街へ寄っては、火ネズミの皮を売って行ったので、30万ゴールドの儲けになった。

「綺麗に解体すれば、高額で買い取って貰えるんだからな。お前も覚えておけよ。」

「う・・・。」

まだ身を守る事が精一杯のアナスタシアは、料理も教えて貰っておらず、まだ一人でやって行くには、不安があった。


精霊ノームが住む洞くつの前に来た時、アナスタシアが聞いた。

「ノームって人の名前じゃないんですか?」

「精霊ノームだ。名前くらい聞いたことあるだろ?」

「げっ、精霊・・・。」

アナスタシアの今までの人生で精霊とネズミには、碌な思い出がない。

精霊の加護を受け、ネズミたちを使役していた妹のエラ。その事は、シンダーエラの物語にも描かれている。アナスタシアに無理難題を命令する精霊、そして何を考えているかわからないネズミたち。アナスタシアにとっては苦手のツートップだった。

「お前、精霊が嫌いなのか?普通に生きてたら精霊に関わる事なんてないと思うがな?」

「妹が加護を受けてたので・・・。」

「あっ、そうだったな。でも、お前も一緒に行かないと意味ないからな。諦めろ。」

師匠にそう言われ、仕方なく洞くつの奥へと着いて行った。

「やあ、ブラッディフッド。君が来ることは判っていたよ。」

人の大きさの半分くらいのいかにも精霊っぽい土色の生物が宙に浮いていた。

「さすが精霊だな。じゃあ言わなくても私の目的はわかるんだろ?」

「ああ、もちろんさ。僕にお供えを持ってきたんだろ?」

道中、火ネズミの皮を売ったお金でお酒を買っていたブラッディフッド。

「よし、アナ。帰るか。」

「はい。」

精霊嫌いのアナスタシアは、喜んで返事をした。

「ま、待って・・・。せめてお酒は置いて行って・・・。」

「ふざけんな。こっちの用事が済んだらな。」

「その子の能力を調べればいいんだろ?」

「わかってんなら、さっさとしろ。」

「精霊遣いが荒いねえ。まあ君たちが思うとおりだよ。その子の言葉には力がある。」

「言葉に?」

アナスタシアが首を傾げた。

「伝説の歌姫の事は知ってるね?」

「アムールの事か?その者が歌えば力が漲り、敵の力は弱体化するという。」

ブラッディフッドが言った。

「そう、それだよ。いわばそれの縮小版かな。」

「わ、私の言葉が、伝説の歌姫と同じ・・・。」

同じとは言ってない、縮小版と言われただけなのだが、アナスタシアの耳には届いてなかった。

「なるほどねえ。」

「さあ、用事も済んだろう?お酒を・・・。」

「酒好きの精霊ってどうなんだ?」

と苦情を言いながら、酒を渡す。

「ブラッディフッド、少し話したいことが・・・。」

「アナ、先に外に出ていてくれ。」

「了解です。」

鼻歌を歌いながら洞くつを出ていくアナスタシア。

気分はもう伝説の歌姫の如く舞い上がっていた。

「言葉に力があるってのは嘘だよ。」

アナスタシアが居なくなり精霊が言った。

「だろうな。あいつには伝説の歌姫のような膨大な魔力が無いからな。」

「あの子は、存在だけで力を発揮する。」

「とんでもない力を持ったもんだな・・・。」

「それに、あの子は、ボソボソボソ・・・。」

「何となく、そんな気はしていたよ。」

「時が経てば、あの子自身も気が付くと思うけどね。」

「まあ、可愛い弟子だからな。折を見て私から告げるさ。」

「そうするといい。」

「じゃあ、世話になったな。」

「次からは、もっといい酒を頼むよ。こういうのは、毎回ステップしていくものだろ?」

「ふざけんなっ!それが最高級だ。ていうか二度と来ねえよ。」

「まあ、まって。ステップアップは取り下げるよ。これと同じのをお願いします。」

「い・や・だ!」

「まって、いや、マジで・・・。」

地の精霊の悲痛な叫びを無視してブラッディフッドは洞くつを後にした。


「さてお師匠様、次は何処へ?魔王でも倒しに行きますか?」

完全に調子に乗ってるアナスタシア。

「別にお前が居なくたって、魔王くらい倒せるがな。」

「そ、そりゃあ、お師匠様ならそうでしょうが・・・。」

「それに魔王なんてフェンリル以降、聞いたことがねえぞ?」

「そういえば・・・あっ、居ますよ魔王!」

「私とか言ったら、はたくぞ?」

「違いますよ。何でお師匠様が魔王なんですか?魔王を倒した英雄でしょうに。」

「じゃあ、誰なんだよ?」

「魔王フール。人類を裏切った男です。」

「・・・。」

「どうかしました?あれ、この魔王って倒されましたっけ?」

「い、いや、倒されてはいない。」

「何ででしょうね?」

「魔王って言われてるのは、人間が勝手に言ってるだけだからな。」

「そうなんですか?」

「ああ。それに人々に害をなしたわけでもないし。確かにあいつは、人類を憎んではいるがな。」

「お知り合いで?」

「ああ。」

「そうなんですか。」

「今から、行こうと思ってる場所だ。」

「退治しにですか?」

「何でだよ、お前の修行の為だよ。」

「・・・。魔王の居城で修行ですか・・・。」

何やら物騒な雲行きになってきた。

「見た目は普通の人だ。会えばわかる。」

「あまり、会いたいとは思わないんですが・・・。」

一抹の不安を覚えながら、アナスタシアとブラッディフッドは、魔王フールの元へと向かった。


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