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最弱の弟子

アナスタシアが目覚めると、そこには炎があった。

正確には焚火なのだが。

焚火に照らされたブラッディフッドの衣服は、普段にもまして血色に染まっていた。

「ブ、ブラッディフッド・・・。」

「目覚めたか?」

「ここは、天国ではなさそうね。」

「なんだい?お前は善人だったのか?」

「そ、そうね。何も悪いことはしてないし。」

「何も悪いことしてない奴が、何で傷だらけで死にかけていたんだ?」

「ヴィルドンゲン国の山道を転げ落ちたからよ。」

「・・・。」

「な、何か?」

「山道ってあの国境付近のやつか?」

「ええ。」

「お前よく生きてるな。」

「そんな事、私に言われても。」

「まあ、これも何かの縁だ。私がヴィルドンゲン国まで送っていってやろう。」

「い、嫌よ!せっかく逃げ出したのにっ!」

「は?お前、まさか足を踏み外したんじゃなくて?」

「ええ、そうよ。自分で飛び降りたのよ。」

「死にたかったのか?」

「そんなわけあるわけないでしょ。私は、ただ逃げたかっただけ。」

「何も悪いことをしてないのに?」

「ええ、そうよ。」

「変わった奴だな。その恰好からして侍女だろ?」

「ええ、そうね。」

「何処かで会ったことは?」

「い、妹の結婚式で・・・。」

ブラッディフッドが、ここ最近、出席した結婚式は、一つだけ。

「お前あれか?エラの義理の姉の。」

「そ、そうよ・・・。」

「わかった。仕方ないな少し遠いが、サンドリヨン王国まで送ってやろう。」

「そ、それこそお断りよっ!」

「・・・、じゃあどうしろと?」

「放っておいて構わないわ。」

「お前みたいな世間知らずを放っておいたら、直ぐに死ぬぞ?」

「それなら、それが私の人生だったって事よ。」

「まあ、いいか。これが運命という奴なのかもな。」

「そうね。私の人生なんて・・・。」

「お前を弟子にしてやる。」

「は?何を言ってるの?」

「光栄に思え、このブラッディフッドの弟子なんて、なろうと思ってもなれないぞ?」

「な、何で私があなたの弟子にならなきゃならないのよ。」

「だって、お前を放っておいたら野垂れ死にするだろうが。」

「そんなの私の勝手でしょ?」

「お前を弟子にするのも私の勝手だな。」

「・・・。」

「ちょうど、弟子志望が一人居たんだが事情があってな。うん、これが運命という奴だな。」

「わ、私をあなたの事情に巻き込まないでくれる?」

「仕方ないだろう?お前を拾ったのは私だ。私が拾わなかったら、モンスター達の餌となってたんだぞ?」

「・・・。」

「私がお前を一人でも、この地で生きていけるようにしてやるから安心しろ。」

こうして、強引にもアナスタシアは、ブラッディフッドの弟子となってしまった。


「ほら、これを持ってみろ。」

そう言ってブラッディフッドは、背中に背負っていた大きな魔斧をアナスタシアの前に放り投げた。

「ちょ、ちょっとこれ・・・。」

両手で持ち上げようとしてもビクともしなかった。

「やっぱり斧は駄目か・・・。」

じゃあ他の武器だな。

焚火をしていた場所からは、移動し、今は森の中に建っている小屋に移動していた。

小屋の倉庫から、武器をあさり、ようやく見つけたショートソードをアナスタシアに渡した。

「お、重い・・・。」

ショートソードすら、まともに持てないアナスタシアを見てブラッディフッドは呆れてしまった。

「お前、そんなのでよく、この国無き地に逃げ出そうと思ったな。どうするつもりだったんだ?」

「そ、そんなの考えてないわよ。」

アナスタシアは、ただヴィルドンゲン国から逃げ出したいだけだった。

「呆れた奴だな・・・。これならどうだ?」

今度は、ナイフを差し出した。

「包丁ぐらいの大きさのこれなら、なんとかなるわ。」

「へえ、お前、包丁使えるのか?」

「使えないけど?」

「・・・。」

「な、何?」

「女なんだろ?侍女なんだろ?何が出来るんだよ。」

「私は貴族の出身なのよ。料理なんて出来る訳ないでしょ。」

「マルガリータの所で、侍女をやってたんだろ?何してたんだよ。」

「主に掃除よ、後は雑用とか。」

「使えねえ女だな。」

「別にいいでしょ?料理なんて必要なの?」

「必要だろ?国無き地で料理が出来ないと話にならない。」

「私だって国無き地の事は知っているのよ?小さな村や町が多数存在して、宿屋や料理屋なんて無数に存在するんでしょ?」

「ほう、よく知ってるな?」

「昔、妹に聞いたのよ。」

「なるほどな。でもな、毎度毎度、外食なんてしてたら路銀なんて幾らあっても足りないだろう?」

「そ、そうね・・・。」

「まあいいか。料理は後回しだ。まずは自分の身くらい守れなければ話にならないからな。」

こうして、ブラッディフッドの厳しい修行が始まった。


いつまでたってもショートソードすら持てないアナスタシアを見て、仕方ない、ナイフ使いにするしかないと決めて、来る日も来る日も、ナイフの修行にあけくれた。

「いいか、アナ。絶対に目はつぶるなよ!」

いつしか、ブラッディフッドは、アナスタシアの事をアナと呼ぶようになった。

「わ、わかってますわ。お師匠様。」

そして、アナスタシアは、ブラッディフッドの事をお師匠様と呼ぶようになった。


そこそこの動きが出来るようになった頃、ブラッディフッドは、アナスタシアの服を買うために、馴染みの武器屋を探した。

馴染みの武器屋は、旅の武器屋で、常に旅をしていて、中々見つけることが出来ない。

旅をしながら、アナスタシアの修行をして武器屋を探した。


「こんな所にいやがったのか、ドク。」

ようやく馴染みの武器屋の馬車を見つけたブラッディフッドは、武器屋に話しかけた。

「なんだブラッディフッド、わしに何か用か?」

髭を生やしたドワーフが言った。

「こいつの服がボロボロになってな、服を売ってくれ。」

「わしは武器屋じゃぞ?」

「知ってるが?」

「・・・。」

仕方なくドクは、荷台の中を探し始めた。

あれこれ引っ掻き回すうちに、荷台から武器が落ちる。

「これなんです?」

落ちた扇をアナスタシアが拾った。

それは、鳥の羽のようなものを使った華やかな扇だった。

「見てわからんのか?武器じゃ。」

「わからんわっ!」

ブラッディフッドが突っ込んだ。

「それはな、あの伝説のモンスター、フェニックスの羽で作った一品よ。高級品だからな。丁寧に扱ってくれ。」

「これが武器・・・。」

アナスタシアは扇を開いたり閉じたり、扇いだりした。

「かっこいい。」

「ほう、中々お目が高いじゃないか。師匠として買ってやったらどうだ?」

「本当にあんなのが武器になるんだろうな?」

「当然じゃ。ワシは武器屋だぞ?」

「アナ、気に入ったのか?それ。」

「え、ええ。でも、とても武器にはなりそうには。」

「まあ無料だから。貰っておけ。」

「お、おいっ!何で無料なんだ。」

ドクが抗議した。

「私は長い事生きているが、フェニックスには会ったことが無い。」

「そりゃあ、そうじゃろう。伝説中の伝説だからな。」

「だがな、ヘルコンドルには何度か出会ってるし、狩ったこともある。」

ギ、ギクっ!

ドクが焦る。

「残念だったな、最初から正直に言ってたら、ちゃんと買ったものを。」

「くっ、だからブラッディフッドに関わるのは嫌なんだよ。商売あがったりだ。」

「まっとうに、商売しないからだろ?」

「くっ、くそっ。まあいいわい。どうせ売れ残りだったしな。」

「そりゃあ、そうだろ。あんなの気に入るとしたら貴族だけだ。」

「ふんっ。おっ、あった、あった。」

ドクはようやく服を見つけた。

荷台の中の一番奥にあった服。

いわゆる売れ残りという奴だが、武器屋だから仕方がないともいえた。

「ほれ、これじゃ。」

その服は、上下で一式となっており。

上着は、ひらひらのついた赤いドレス風の仕立てになっており、下は黒のズボンだった。

「なんだこれは?娼婦の服か?」

「ちゃ、ちゃんと見ろ。ズボンだろうがっ!」

一般的に娼婦はスカートを着る。ズボンを履いてる娼婦は、この世界には居ない。

「誰が着るんだよ、こんなのを。」

「う、うっさい。作ったときは会心の出来だと思ってたんだよ!まあ当時のわしは若かったんだろうな・・・。」

「どんだけ売れ残ってるんだよ・・・。」

「武器屋だからしょうがなかろう?」

「武器屋を言い訳にするんじゃねえよっ!」

「素敵ですわ・・・。」

「「えっ!」」

ブラッディフッドどころか、ドクまで驚いた。

「ま、まあ待てアナ。服なら街へ出て探そう。」

「そ、そうじゃ、お嬢ちゃん。わしは武器屋だからの。それにかなり前に作ったものじゃし、今風でないぞ、こんなの・・・。」

作った本人まで、辞めた方がいいと助言する始末。

「お師匠様、私これがいいです。だって、この色はお師匠様とお揃いでしょ?」

「そ、そうだな。」

何となく悪い気がしないブラッディフッド。

「お、おいっ。いいのか?」

ドクはブラッディフッドに最終確認をした。

「弟子がいいと言ってるんだ。構わん。」

「後で何か言ったって知らねえからな?」

「これ火ネズミの皮を使ってるんだろ?高いのはわかってるさ。」

「材料費だけで、ざっと15万ゴールドだ。」

「だろうな。」

「ということで、15万ゴールドになります。」

「は?」

「なんだ?びた一文まけねえからなっ!」

「いやそうじゃない。なんで材料費だけなんだよ?」

「そりゃあお前、相当、昔に、作った物だからに決まってんだろ?」

「いつ作ったんだよ?」

「そうだな。マルガリータと一緒に森で生活してた頃だな。」

「ということは、マルガリータ用に作ったのか?」

「まあ、そうともいう。」

「古着じゃねえかっ!」

「心配するな新品だ。赤はちょっとと言って、マルガリータは着なかったからな。」

そう言われ、火ネズミの皮で作った服を着たアナスタシアを見た。

どう見ても娼婦にしか見えない。

ズボンを履いてるから、娼婦ではないと言えないこともないが。

マルガリータの奴、色のせいにしやがって、気を使ったんだな。

とブラッディフッドは納得した。

「アナ、それでいいのか?」

「ええ、気に入りました。ほほほほ。」

扇を開いて口元を隠す。

うーん・・・高級娼婦にしか見えない。

ブラッディフッドは、素直にそう思ったが、口には出さなかった。

「で、お嬢ちゃんが着てた服はどうすんだ?」

「そっちで処分してくれ。」

「まあいいが・・・って、これマルガリータんとこの侍女の服じゃねえのか?」

「ああ、そうだが?」

「どこで拾った?」

「国境付近だな。」

「そうか・・・、で、亡骸はどうした?」

「何を言ってるんだ?」

「いや、マルガリータの奴からな。侍女の遺品を見かける事があったら、頼むって言われててな。」

「亡骸も何も、本人はそこで、くるくる回ってるだろ?」

まるで、ダンスでも踊るか如く、アホみたいにくるくる回っているアナスタシア。

「ま、まて。山道を踏み外したんだぞ?」

「らしいな。」

「ドワーフでもひとたまりもねえぞ?」

「そう言われてもな。見ろ、元気だ。」

「・・・。」

「本人は戻る気はさらさらないからな。それを届けてやってくれ。」

「ば、バカ野郎。わしがマルガリータに嘘をつけるわけないだろう?」

「ほう、私には平気で嘘をついてるのにか?」

「・・・。」

「別にお前が直接持っていかなければいいだろ?」

「ま、まあそうだな。他の行商人に渡しておくか。」

「おい、アナ。」

「なんです?」

「お前が胸に下げて、いつも大事にしてる指輪を出せ。」

「ど、どうするんです?」

「遺品としてマルガリータに届けるんだよ。」

「い、嫌です!」

「そんなに大した価値の物じゃないのを知ってるのか?」

「知ってます。これはエラのお母様が、初めての報酬で買った指輪とか。」

「それを、なんでお前が持ってんだよ。」

「私の誕生日祝いに、エラがくれたんです。大切な形見を私に・・・。」

そう言ってギュッと胸のあたりを掴む。

「だったら、尚更だな。それとボロボロの服を届ければ、お前は完全に死んだことになる。」

「死んでませんわ!」

「いいのか?エラはまだしも、マルガリータにまで生きてることがわかったら、追手が掛かるんじゃないのか?」

「うっ・・・。」

仕方なく首に下げていた指輪をドクに渡した。

「これは、本当に大事な物なんです。必ずエラの手に渡るようお願いします。」

「安心しな。マルガリータは遺品をサンドリヨン王国の王妃に渡すために探してるんだからな。」

その言葉を聞いて、アナスタシアは安堵した。

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