ブラッディフッド
世界中を旅していた一人の老婆が居た。老婆というには背筋が真っすぐ伸びていて、背中には大きな大剣を背負っていた。
そんな彼女は、一人の白い頭巾を被っていた少女に出会った。少女は決死の表情をしていて、大きな斧を引きずっていた。
「お嬢ちゃん、血相を変えて何処へ行くんだい?」
「放っておいて、私は、親の仇を打ちに行くのよ。」
「そうかい。そりゃあ難儀だねえ。私はこの先にある小さな村へ行こうと思ってるんだが。」
「もう無いわ。」
「無い?」
「狼たちに食い殺されたわ。」
「そうかい・・・。もしかして狼たちを?」
「いくら狼たちを殺したって、きりがないでしょう?だから私が狼たちの王を倒しに行くの。」
「はっはっははは・・・。」
老婆は大笑いした。
「何がおかしいの?」
「いやね。お嬢ちゃんじゃあ魔王フェンリルは、おろか狼一匹すら、倒せりゃしないさ。」
「そう思うなら、放っておいて。」
「いや、放っておけないね。」
「何なの、あなたは?」
「おや、私を知らないのかい?私は勇者だよ。」
「ゆ、勇者・・・。あなたが勇者フランチェスカ?」
「ああ、そうだよ、お嬢ちゃん。」
こうして、白頭巾は勇者フランチェスカに弟子入りすることになった。
厳しい修行に耐え、大きい斧も軽々と振り回せるようになった頃。
「白頭巾、私はしばらく出かけるから、あんたは好きにしな。」
「はあ?好きにしなって、そんな事言ったら、狼たちを狩りに行くぞ?」
すっかり逞しくなった白頭巾。
口調も幼い少女の頃とは違い、ふてぶてしくなっていた。
「構わないさ。ただね、あんたには魔王は、まだ早いからね。それだけはやめときな。」
「自分の実力位わかってるさ。」
魔王フェンリル討伐こそが、白頭巾の最終目標だった。
「それならいいがね。」
勇者フランチェスカは、そう言い残すと何処かへと行ってしまった。
「やあ、フェンリル。ご機嫌かい?」
人の6倍強はあろうかという黒い狼に勇者フランチェスカは話しかけた。
ここは迷いの森の中の最深部。
そうたやすく人が踏み入れることは出来ない場所。
「フランチェスカか?何の用だ?まさか余を討伐しにきたとかいう笑い話ではないよな?」
「まさか。私では、あんたは倒せないだろ?」
「そりゃあ、そうだ。貴様が持っている聖剣では、余に傷一つつけることは出来ないからな。」
「へえ。傷一つねえ。」
フランチェスカは不敵に笑った。
「貴様、何を考えている?まさか余に歯向かおうというのか?」
「私は勇者だからねえ。」
「正気か貴様。」
グルルルルル・・・。
魔王フェンリルは唸り声をあげた。
勇者フランチェスカが大剣をいくら振ろうとも魔王フェンリルには傷一つつけることは出来なかった。
魔王フェンリルは、前足で勇者フランフェスカの体を串刺しにした。
「貴様何がしたかったのだ?」
口から血を流しながらも勇者フランフェスカは笑っていた。
「い、いずれ、私の弟子があんたを倒しにくる。」
「人が余に勝てる訳がないだろう?勇者の貴様ですらこの始末だ。」
「弟子の為に、あんたの片目を貰っていく。」
「何を馬鹿な。聖剣では余に・・・。」
勇者フランフェスカは最後の力を振り絞り、地に落ちていた聖剣に力を与えた。
聖剣はゆっくりと浮き上がり、そして・・・。
グサッ・・・。
フェンリルの右目へと深く突き刺さった。
「ぐ、ぐおおおおおお・・・。じ、自身の命を使いおったな。」
フェンリルは串刺しになった勇者の死体を投げ捨てた。そして、死体にあたるように、食い散らかした。
「ゆ、許さんぞ・・・。貴様の弟子も同じようにしてやる。」
その頃、白頭巾は、大きな斧を担ぎ上げ世界中を旅していた。
結果、世界中の狼が絶滅することになった。
白頭巾が迷いの森の最深部を訪れた時、魔王フェンリルは力を失い、弱っていた。
右目には聖剣が突き刺さっていた。
「き、貴様がフランチェスカの弟子か。余の子らをどうした?」
「喜べ、絶滅してやった。」
白頭巾はにやりと笑った。
「お、おのれ・・・。」
「どうした?魔王。顔色が悪いぞ?といっても真っ黒で顔色なんてわからんがな。」
上から目線で笑う白頭巾。
「わ、わかっているのか?余は・・・。」
「知ってるさ。お前を殺せば私が呪われるんだろう?」
「し、知っていて余を・・・。」
「お前は殺りすぎた。」
白頭巾は、躊躇することなく大きな斧を振り上げて、魔王フェンリルを真っ二つにした。
右目にささった聖剣、そして世界中に散らばっていた子らを全て失っては、フェンリルに抵抗する力は一切残っていなかった。
全身に返り血をあびた白頭巾の衣服は、血色に染まり、それ以降、彼女を白頭巾と呼ぶものは誰一人として居なくなった。




