双剣の剣士
サンドリヨン王国のとある貴族の屋敷で、大規模な逮捕劇が行われていた。
王国の兵士たちが、貴族の関係者を次々と連行していく。そんな光景を見ながら、壁際にしゃがみ、葉巻をふかしている初老の男性が居た。
初老とは40歳を現す言葉であり、決して60歳を現す言葉ではない。60歳にはそもそも還暦という言葉があるから、わざわざ、違う言葉で言うのはおかしい。
ぼーっと葉巻を吸いながら眺めていたが。
「おい、大人しくしろっ!」
貴族の女性を乱暴に扱う兵士を見かけ。
「おい、ご婦人は、もっと優しく扱え。」
そう命令した。
兵士は大人しく初老の男性の言う通りにした。
初老の男性に一人の兵士が近寄る。
「どうせ、死刑は免れませんし。」
「どうせ、死ぬんだ。死ぬ前まで貴族で居させてやれ。」
「なるほど。」
サンドリヨン王国にしろ、ヴィルドンゲン国にしろ、当主が死罪となれば、一族全員が死罪となる。禍根を残さない為だ。
とある貴族の当主が連行される時、初老の男性を見かけた貴族は、兵士を押しのけて、初老の男性の前に跪いた。
「た、助けてくれ子爵。ほ、ほんの出来心だったんだ・・・。」
「安心しろ、お前の出来心のお陰で、俺もあの世行きだ。」
初老の男性の言葉に貴族は言葉を失い、項垂れた。そして兵士たちに大人しく連行されていった。
「これで全員か?」
「はっ。」
「よし、撤収っ!」
初老の男性の言葉で、兵士全員が撤収していった。とある貴族の屋敷には、誰一人として残らなかった。
王の前に跪き初老の男性は、報告を済ませた。
「子爵、こちらがリストになります。」
兵士がリストを初老の男性に渡した。
「ありがとう。」
そう言って処刑された貴族のリストを受け取った。
「ハゲール、何もお前が行くことは・・・。」
国王が心配して言った。
「40過ぎて、独身、子供もいない。それに爵位もち、生贄には最適でしょう?」
「なにも子爵が行かなくても・・・。」
エラ王妃も心配して言った。目線は頭部に向けられていたが。
「王妃様、俺の頭を気にしてらっしゃいますか?」
そう言って、つるっと禿げた天辺を撫でだ。
「そ、それは・・・。」
アナスタシアの婚約破棄以降、薄かった髪も全部抜け落ちて、見事なまでの禿げっぷりだった。今では残ってるのはサイドと後頭部に少し程。
「この禿げは年のせいです。王妃様の姉上の件とは関係ありませんよ。」
そう言って豪快に笑った。
「余は、そなたの事を剣の師であり、兄のように思っている。そんな、そなたを失うのは・・・。」
「陛下、若い奴らに、こんな任務は回したくはない。俺一人の命で済むなら安いものです。」
「し、しかし。」
「このリストと爵位もちの俺で、終わらせてきます。」
「ハゲール・・・。」
「いつか、お二人の子供が生まれて来たら、陛下が剣を教えてやってください。」
「必ず。王国最強の剣を教える事を約束しよう。」
「や、やめてください陛下、王国最強って、王妃様がいるのに・・・。」
ハゲール子爵、王国武闘大会にて2回戦で仮面を被ったエラに負けていた。
「では、私も武闘を教えますね。」
そう言ってエラ王妃は微笑んだ。
「そりゃあ、最強になるでしょうな。楽しみだ。」
そう言って、ハゲール子爵は笑った。
通常、貴族は一人で出歩いたりしない。それなのにハゲール子爵は一人で歩いていた。両腰にショートソードを携えて。しかも、たった一人で、王国を出て国無き地へ足を踏み入れた。
暫く歩くと、目的の人物に直ぐ会うことが出来た。
「動くな。動けば殺す。」
ハゲール子爵は両手を上げて、静止した。
「おい、ハゲ。その身なりは貴族か?」
「ああ、そうだ。」
「サンドリヨン王国の貴族か?」
「ああ。」
「貴族が一人で何処へ行く?」
「あんたに会いにだ。」
「俺に?」
「渡したいものがある、動いてもいいか?」
「ああ構わん。」
ハゲール子爵は、処刑された貴族のリストを手渡した。
「これは?」
「獣人を奴隷にしようとしてた貴族とその関係者のリストだ。全員、処刑した。」
「なるほど。」
「俺の用件はそれだけだ。最期に一服させて貰えるとありがたいが。」
ハゲール子爵はダメもとで聞いてみた。
「ああ、構わん。」
ハゲール子爵は、最期の葉巻に火をつけ、最期の一服を楽しんだ。
思えば好き勝手生きてきて、碌な人生を歩んでないなと自笑した。
「あんたは、この貴族の関係者か?」
フールが聞いた。
「いや。」
「何で、こんな役に選ばれた?」
「40過ぎて独身で子供も居なく爵位持ちだからな。」
「爵位もちか。」
「ああ。」
「ふっ、飛んだとばっちりだな。」
「貴族として、好き勝手生きて来たからなあ。死ぬ時ぐらい貴族の責任ってのを取らないと、世の中不公平すぎるだろ?」
「なるほどな。しかし40過ぎにしては、見事な禿げっぷりだな。」
ぷは~っ。
大きく煙を吐いて、ハゲール子爵は答えた。
「若い婚約者に逃げられてな。と言っても元々頭も薄かったが。」
そう言ってハゲールは笑った。
「ほう、で、逃げた婚約者は若い男の元へか?」
よくある定番パターンだ。
「いや、冒険者になったとか?詳しくは知らないが。」
「はっ?相手は一般人か?」
「いや、貴族だが?」
「まさか、王妃の姉とか言うんじゃないだろうな?」
「ああ、そうだ。人嫌いとかいう割には、人間の国の事に詳しいんだな。」
ハゲール子爵は素直な感想を述べた。
「そう言えば名を聞いてなかったな。」
「俺はハゲールだ。」
「何か頭を連想させる名前だな。」
「昔は何とも思わなかったが、30過ぎて、名前が効いてきた。」
「はははっ、本当かよ。」
フールが笑った。
「なあ、ハゲール。あんたの失恋話が聞きたくなった。屋敷に酒はあるか?」
フールの突然の申し出にハゲール子爵は驚いたが。
「こう見えても、貴族だからな。屋敷には最高級のワインがある。」
「そりゃあいい。」
こうして、ハゲール子爵は、命拾いした。




