Reいざ、旅立ちの時
前回の旅立ちの時と違い、今回は、町総出での見送りとなった。
「先生、お元気で。」
「先生、いつでも戻ってきてください。」
先生、先生と呼ばれ、さすがに鬱陶しいとアナスタシアは思っていたが、とりあえず愛想笑いをしていた。
レオースには、荷受けの仕事をしている親方たちが、見送りに来ていた。
「いつでも、戻って来いよ。」
そんな言葉が掛けられる。
「レオース、家の方は、あのままにしておくから。」
家主が言ってくれた。
「暫くは、リスキーさんが使うと思うので。」
レオースが言った。
「レダも帰って来るだろうしな。」
家主が言った。
「ちょっと待て、レダって誰だ?」
リスキーが聞いた。
「僕の幼馴染で、今、田舎に魔法の修行に帰ってます。」
「可愛いのか?」
「ちょっと、リスキー。レダに手を出したら、ぶっ殺すわよ。」
アナスタシアが言った。
「何でお前が、そんなことを言うんだ?」
「私にとって妹のようなものよ。私に、恩を売りたいなら手は出さない事ね。」
アナスタシアは、リスキーに忠告した。
「いや、待て、もう恩は売っただろ?」
「そんなもの一瞬で吹き飛ぶわよ。気を付けなさい。」
「わ、わかった。しかしまあ、俺も長居はする気はないからな。会うこともないだろう。」
「リスキー、毎日ピッツア・フレイを食べるのよ。」
フレイが言った。
「毎日食える訳なかろうがっ!」
フレイにも見送りが居た。
「フレイさん、元気でね。」
パン屋の女将さんだった。
「フレイさん、お元気で。」
ピザ屋が言った。
「ピッツア・フレイが世界一のピザになることを期待しておくわ。」
「・・・。」
目指すところが遥か遠すぎてピザ屋は何も言えなかった。
「まあ、私とレオースは、フレイを送り届けたら、一度戻ってくるから、そもそもこんな見送りは不要なのよ。」
アナスタシアが言った。
「この町には若者が少ないからな、皆、一度はこういう見送りをしたかったんだと。」
酒場のオヤジがぶっちゃけた。
「私は、何度も見送りはしてるがね。あんたが帰ってきた時には、私はもう居ない可能性もあるからね。」
この町最高齢のヨネさんが言った。
「帰って来るまでに、何か料理を考えておくわ。」
アナスタシアがヨネさんに言った。
「ほう、そりゃあ、まだまだ死ねないね。」
「ええ、楽しみにしていて。」
そうして、若者たちは旅立っていった。
「いい町だったわ。」
フレイが町から離れてから言った。
「まあ、居心地はいいわね。」
「ヨネさんに食べさせる料理って新作のピザ?」
「なんで、ピザなのよ・・・。安心して私はピザにはもう口出ししないから。」
「そ、そう。別にいいんだけどね。」
「レオース、気を張りすぎよ?今からそんなじゃあ、火の神殿になんて着けないわよ。」
緊張しすぎで、ガチガチに力が入って、周囲を警戒しまくりのレオースに、アナスタシアが言った。
「す、すみません。」
言葉まで硬かった。
「遍く風よ、迸る稲妻を蓄えし黒き雲を呼び集め、今ここに災禍の嵐を巻き起こさんっ!テンペストっ!」
魔力の感知もゼロ、そよ風すら拭かない。
ウィンドストームより上位の魔法は、全てこんな感じだった。
「よしっ、これで魔法は全て覚えましたね。」
「微風、一つ巻き起こらないのに、ドヤ顔してんじゃないよっ!」
レダは師匠に突っ込まれた。
「もう師匠に教わることもなく、なんだか寂しいですね。」
感慨深く言うレダ。
「あのねえ・・・。今のあんたの状態を言うとだな、本読んで満足した引き籠りと変わらんわっ!」
「い、言わないでくださいっ!」
耳を塞ぐレダ。
「それにだ、テンペストが最後の魔法だなんて、誰が言ったんだい?」
「へ?」
「まだ一つだけ残ってるんだよ。」
「風系にまだ、魔法が?」
「風系じゃないね。いいかよく見ときな。」
そう言って、レダの師匠は、呪文を唱えるべく身構えた。
「闇に眠りし三つ首の犬よ、尖鋭の牙をもって、相手の魂を噛み砕かん ダークネスファングっ!」
レダの時とは違い、師匠の周りには膨大な魔力が感知された。
「あ・・・、暗黒魔法。」
「と言っても、私では発動できないけどね。」
「何で、そんな魔法を?」
「知るかいっ!代々伝わってるんだよ。誰も使えてはないけどね。あんたも覚えておきな。どうせ風の魔法だって碌に使えないんだ。1つ余分に覚えてても問題ないだろ。」
「まるで、私が使えない魔術師みたいじゃないですか。」
「お前・・・、自覚してないのかい?お前は・・・。」
「き、聞きたくないです。」
レダは両耳を塞いだ。
ウィンドストームが使えるようになって、魔術師気取りだったレダだったが、新たな魔法を覚えるたびに、使えない魔法が増えていき。自信は、今や一欠けらも残っていなかった。
「レダ、私がいつも言ってる事は、忘れるんじゃないよ。」
「はい、魔法を使うのは大事な仲間や人たちを守る時だけ。」
「そうだ。それさえ忘れないでくれたら、テンペストなんて一生使えなくてもいいさ。」
「ひ、ひどっ!いつか使いますから、見ていてください。」
「はいはい、私の寿命が尽きる前だといいね。」
そう言って、レダの師匠は笑った。




