手のひらの上で
レオースの修行も佳境に入ったころ、チーズの町は活気づき、今まではあまり見かける事がなかったドワーフ達まで姿を見かけるようになってきた。
元々、皆無という訳ではなかったが、今では、常連のドワーフ以外も町を訪れるようになっていた。
その日の夕食時、フレイはじっとアナスタシアを見つめていた。
「何?」
アナスタシアが聞いた。
「アナスタシアが持ってる扇を見せて。」
「いいわよ。」
そう言って、アナスタシアは扇を手渡した。
「お、重い・・・。」
思っていた以上に重くて、フレイはビックリした。
「当たり前でしょ、武器なんだから。」
「ぶ、武器?」
「何だと思ってたのよ。」
「こうやって口元を隠して高笑いする道具かと・・・。」
「あのねえ、冒険者がそんな物を持ち歩くわけないでしょ。」
「フールの弟子っていうくらいだ、舞踏術か?」
リスキーが聞いた。
「まあ、そんなのも使えるわ。」
「なるほどな。レオースは見たことあるのか?」
「はい、一度。」
「随分と精巧な作りがされている扇だが、ドワーフ作か?」
リスキーの問いに答えたのは、アナスタシア達のいるテーブルに近づいてきた人物だった。
「ドワーフはドワーフでも、職長が作った最高傑作だ。」
近づいてきたドワーフが、そう説明した。
「あら、ハッピーじゃない?」
アナスタシアが言った。
「グランピーだっ!まったく、お前は毎度毎度、ドワーフ違いをしてからに。」
「ドワーフの見分けなんてつかないわよっ!」
「職長はわかるくせにな。」
「ドクは何となくわかるのよ。」
「そういうのを贔屓というんだ。」
グランピーは憤慨した。
「ちょうどよかったわ。フレイ、扇を返してくれる?」
そう言って扇を返して貰い。
「グランピー、これ整備してちょうだい。」
「相変わらずドワーフ使いの荒いやつめ。」
そう言って文句を言いながらも、扇の整備を始めた。
「ドワーフの職長の最高傑作とか言ったな?」
リスキーがグランピーに聞いた。
「ああ、そうだ。」
アナスタシア達がいるテーブルで扇を整備しながら、グランピーが答えた。
「何で、最高傑作が扇なんだ?」
「言っとくがな、アナスタシアが着ている派手な服も職長作だからな。」
「・・・。」
そうかドクはセンスが悪いのかと、内心で納得した。
「ほれ、大事に扱えよ。」
整備が終わった扇をアナスタシアに返却した。
「ねえ、グランピー、扇は持ってないの?」
フレイが聞いた。
「持ってる訳ないだろ。需要がないのに。」
「フレイが欲しいみたいよ。」
アナスタシアが言った。
「フレイ、お前さん元に戻ったら、扇なんて持てないだろう?」
グランピーが忠告した。
「べ、別に欲しいわけじゃあ・・・。」
随分と欲しそうだった。
「火の神殿には帰るのか?」
「ええ、そのうち。」
「じゃあ、他のドワーフに言っておく。」
ドワーフの行商人は、あちこちを旅しているので火の神殿に行く者もいる。
「ちなみにアナスタシア、チーズを復興させたのはお前か?」
「復興って大げさな。」
「チーズを生成するレンネットはどうした?」
「この辺に自生してる植物から生成したわ。」
「ほう。自分で考えたのか?」
「なわけないでしょ、古い文献に載ってたのよ。」
「なるほどな。」
「何か知ってるの?」
「大した事じゃあない。レンネットの植物からの生成は、大昔にフールが人に教えたものだ。」
「は?」
「ちょっと待て、グランピー。フールは人嫌いだろう?」
リスキーが言った。
「まあ人間は、碌な奴がおらんからな。それでもたまにはフールと気が合う人間も居る。」
「くっ、この私とした事が・・・。」
まさかフールが教えた物を復活させたなんて。
なんだか手のひらの上で転がされたような気がして、屈辱だった。
「まあ、さすがフールの弟子という所かの。」
「私のお師匠様は、一人だけよ!」
「相変わらずだな・・・。贅沢なんだぞ?あの二人の弟子というのはな。」
「確かにな。」
リスキーが賛同した。




