表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/39

炎の魔術師

フレイが居る時間にわざわざ、姿を現すリスキー。

この日は堂々と頼んだ。

「ピッツア・フレイを頼む。」

と・・・。

「物好きなのか、人がいいのか、わざわざ、こんな時間に来なくてもいいでしょうに。レオースに養ってもらってるんだから、時間なんていくらでもあるでしょ?」

アナスタシアがリスキーにツッコんだ。

「人聞きの悪い事を言うな。そもそも、レオースに剣を教えてくれってのは、お前が頼んだ事だろ。」

「そ、そうね・・・。」

「それに今日は、フレイに用があってきたんだ。」

「何、告白?私は、どっか行ってようか?」

「やめてよ、アナスタシア。全然好みじゃないわ。」

告白もしていないのに振られる、哀れなリスキー。

「違うっ!それにフレイ、お前は人ではないんだろ?」

「そうね、でも男を魅了する美貌は持ってるわ。」

「ああ、それはよかったな・・・。」

リスキーは呆れながら言った。

「それでだ、今後の事なんだが、そろそろレオースの修行も終わる。その後は火の神殿に向かう訳だが、俺が必要か?」

「用でもあるの?」

「いや、特にない。ただなレオースのこれからの為には俺は居ない方がいい。」

「そう。構わないわ。」

「狙われているとか、そういうのは無いんだな?」

「ええ、安心していいわ。」

「別に私が居るんだから、心配無用よ。」

アナスタシアが言った。

「アナスタシアも居ない方がいいんだがな。」

「はあ?」

「お前が居ると自分が強くなったと勘違いするだろう?それに敵の動きも変わるからな。熟練の冒険者ならいざ知らず、底辺の冒険者なら勘違いしたり、戸惑ったりするだろう。」

「レオースは大丈夫でしょ?」

「まあ、そうだな。」

リスキーは運ばれてきたピッツア・フレイを旨そうに食った。ちなみに2日前もフレイを食べているのだが。


レオースは目下、前回りの特訓中だった。前方飛込前回り、剣を抜いたままの状態で行うので、難易度は高い。

「スカートは気にならないようだな。」

「はい、慣れました。」

最近になってようやく、衣服を流れにのせろという意味が体で理解できるようになった。

「これが出来る様になれば、ぐっと幅が広がるはずだ。というか、これが片手剣の持ち味とも言えるがな。」

「はい。」

剣を抜いたまま前回りをするのは、棒とかを持って挑戦したことはあったが、コツもわからず、危険なので、ずっと先延ばししていた。

「俺は火の神殿には行かない事にした。」

「そ、そうですか。」

元より、ここで1ヵ月教えてもらう約束だったのだが、子犬が寂しがるような哀愁を漂わせる。中性的な顔立ちで現在は女装中、思わず胸キュンしそうになるシチュエーションだ。

「そ、そんな顔をするな。俺が居たのでは、お前の成長の妨げになるからな。火の神殿まではお前が体をはって前衛を務めろ。」

「わかりました。」

素直で、まじめな教え子だったとリスキーは感慨深く思った。

ああ、女の子だったならなあ・・・。


その日の夕食、いつもの如く。

「もう直ぐ、レオースの修行も終わる。俺はここでお別れになるが、寂しくなるな。」

「別に。」

アナスタシアが。

「全然。」

フレアが。

「師匠、僕は寂しいです。」

くっ、可愛いやつめ。

他二人が、冷たい人間(?)の為、レオースの優しさが際立った。

「火の神殿は、俺たち人間にとっては馴染み深い場所だ。まあレオースは入れないだろうが、冒険者として入り口まで行っておくのは、いい経験になるだろう。」

この世界には、精霊が祭られている神殿が存在する。

中でも火の神殿は、火の民、人間にとって最も馴染み深い神殿と言える。

地の民、ドワーフ、獣人。風の民、エルフ。この世界ではこのように言われていた。

「僕は入れないのですか?」

「ああ、火の神殿に人間が入るには試練を受けなければならない。B級でも上位の者しか入れないだろうな。」

「多分、大丈夫よ。」

アナスタシアが言った。

「なんだ、アナスタシアは火の神殿に行った事があるのか?」

「ないわ。」

「無いなら、わからないだろうが、火の神殿は神官たちに厳重に守られている。人間はおいそれとは入れない場所だ。」

「行った事あるみたいな口ぶりね。」

「それはそうだろ?人間は火の民であるし、火の精霊は人間の導き手とも言われているからな。上級の冒険者になれば、誰でも訪れる場所だ。まあ肝心の精霊は居ないがな。」

精霊は勝手気ままに存在している為、風の精霊以外は神殿に居ない。酒好きで一人を好む地の精霊も、洞くつに一人籠っているのが現状だ。

「精霊は居ないのですか?」

レオースが聞いた。

「火の精霊は、英雄の素質を持った子供が、随分前に生まれたといって、加護を与えるために、神殿には不在だ。未だその英雄の名は鳴り響いてこないがな。」

「英雄ですか・・・。」

「あくまで、素質だ。精霊の加護を受けたからと言っても、英雄になれるわけではないしな。」

「そうなんですか?」

「かの三英雄も精霊の加護は受けてないわ。」

フレイが答えた。

「英雄の素質を持った者と火の精霊、一体何をしているんだか・・・。」

そう言って、リスキーはアナスタシアとフレイの二人の姿を不意に視界に入った。

「ちょ、ちょっと待て・・・。フレイ、お前は人ではないんだよな?」

「そうよ。」

「そう言うことかっ!アナスタシア、お前が加護を受けた者だったんだな!」

リスキーは、まるで犯人を突き止めた探偵の如く、閃いた。

「「ちがうわっ。」」

アナスタシアとフレイのシンクロ否定で、閃きは瞬時に葬り去られた。

「・・・。フレイは火の精霊フレイじゃないのか?」

「私が火の精霊フレイよ。」

「リスキー、私とあなたは、一緒にフレイと出会ったでしょ?」

アナスタシアに言われて、思い出した。

「そう言えばそうだったな・・・。」

アナスタシアが加護を受けているなら、フレイはずっと傍にいるはずだった。

「加護を受けていたのは私の妹よ。」

アナスタシアの言葉で、リスキーは理解できた。

「そうか、加護を失ったか。」

「残念だけど。」

フレイが言った。

「まあ、そんなものだよな。」

この世界には、不名誉な伝説がある。

精霊の加護を受けた者は大成しないという伝説が。

「妹さんは元気なのか?」

リスキーがアナスタシアに聞いた。

「ええ、結婚して幸せそうよ。」

「そういうものだよな。英雄になるわけでもなく、物語になるわけでもなく。まあ幸せなら何よりだ。」

「私が加護を授けていた人間よ?物語にならない訳ないでしょ?」

フレイが言った。

何の物語か気になったリスキーだったが、アナスタシアが睨んでいたので、それ以上は何も聞かなかった。


「おじさん。」

アナスタシアが酒場のオヤジに声を掛けた。

「な、なんだ?なんかまずったか?」

「私が声を掛けるたびに怯えるのはやめて・・・。」

「料理の事じゃあないのか?」

「違うわよ。」

「なんだ、そうか。」

酒場のオヤジはホッとした。

「この町って、最近、景気がいいようだけど?」

「お陰様で、ウハウハよ。これもアナスタシア先生様様だな。」

「他の町の人たちの出入りが増えたんでしょ?」

「ああ、そうだ。」

「あまり、目立つと狙われるわよ?」

国無き地では、法というか国自体が無い為、無法者が、ゴキブリのように存在している。まあ、こういう屑は法治国家であっても絶滅することはないのだが。

「何だ心配してくれるのか?」

「私たちは、もう少しで町から出ていくのよ。リスキーだって、ここに長居はしないんでしょ?」

「ああ、そうだな。」

リスキーが答えた。

「俺が元冒険者だってのは、前に言ったよな?」

「ええ、聞いてるわ。」

「俺と同じ様に、元冒険者はこの町に多く居てな。その辺の野盗くらい、訳ないさ。」

「アナスタシア、ピザ屋は魔術師よ。」

フレイが言った。

「は?」

「知らなかったの?ピザ窯には、魔法で火入れしてるのよ。」

「え?」

「なんだ、知ってて、ピザ屋を進めたんじゃなかったのか?」

呆れたように酒場のオヤジが言った。

「知るわけないでしょ!今まで存在すら知らなかったんだから。」

「そうですね。僕らは1回行ったきり、次は行こうとしませんでしたし、アナさんにはスパ屋の話は、してませんでした。」

レオースがボソッと言った。

「やけに、ピザ窯の温度を上げるのが速いと思ってたら・・・。」

通常、2時間くらいかかるのを、ピザ屋はものの5分足らずで、完了していた。

「まあ、炎の魔術師って言って、多少は名が知れていたみたいだしな。」

酒場のオヤジが説明した。

「何でスパ屋をやってたのよ・・・。」

「さ、さあな・・・。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ