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精霊フレイ

「おい、どうなってるんだお前らは、最初に見に来たっきり一度も来ないじゃないか?」

新いつもの4人で、酒場で夕食をとりながら、リスキーが言った。

「色々とこっちだって忙しいのよ。」

「何をやってるんだ一体?」

「スパ屋をピザ屋に変えたり、ピザ屋のメニューを考えたり。」

フレイが答えた。

「は?アナスタシア、お前は冒険者だろう?」

「そ、そうよ・・・。」

冒険者であると、なんだか胸張って言えない状況になってきていた。

「まあいい。それよりレオース、今度のジャイアントラットの討伐は、お前一人でやるんだ、いいな。」

「はいっ!」

相も変わらず、女装しているレオースが言った。

「へえ、ジャイアントラットがまた、来たのね。どれ程、腕を上げたか見に行ってみようかしら。」

「お前は来るな、アナスタシア。」

「何でよ?」

「レオースの純粋な力で、討伐させたいからだ。」

「わ、わかったわよ。」

こうして、レオースは、ただ一人でジャイアントラットを討伐することになった。

今回のジャイアントラットは普通サイズで、2匹。数も少なく手頃と言えた。

普通の冒険者であれば、一人でも難なくこなせるレベルの依頼内容だ。


ジャイアントラット討伐の当日、アナスタシアとフレイはいつものように働いた。

フレイは最初、見ているだけだったのだが。

パンとランチの店では、パンにスパを挟むのを担当し、ピザ屋では新レシピの考案に躍起になっていた。

当初、ピザ屋は、ピザを作ったことがなかった。元々スパ屋だったのでしょうがないが、その為、最初の一品はトマトソースをベースにしたオーソドックスな物を、アナスタシアが教えた。今では、それがアナスタシアと言う名前になっていて、1番人気メニューとなっている。

フレイはこれに対抗意識を燃やし、自分の名前のピザを作るべく、創意工夫を重ねていた。ピザ屋の主人より本気度が高いのはご愛敬で。

「美味しいですよ、これ。」

ピザ屋が言った。

「駄目よ、何かが足りないわ。これじゃあ、ピッツア・アナスタシアに勝てないわ。」

フレイは苦悩していた。

「人の名前を料理名で使うのはやめて・・・。」

アナスタシアは辟易としていた。

じーっとアナスタシアを見つめるフレイ。

「な、何よ?」

「何か言ってよ。」

ピッツア・フレイの感想を求めるフレイ。

「そうね、ホワイトソースとチーズ、それにジャガイモ、失敗しようがない組み合わせで、美味しいのだけど、フレイの言う通りよ。」

「何を加えればいいかわかったような口ぶりね。」

「まあね。」

「教えてよ!」

「私が言ってもいいの?」

「こ、この際、仕方がないわ。」

「そうね、パンチが効いたスパイスがいいわ。カレー粉とかね。」

「カレー粉?」

「それなら合いそうですね。」

ピザ屋が賛同した。

「トマトベースと被らないし、いいと思うわよ。」

アナスタシアの助言を受けて、ついにピッツア・フレイが完成した。



「いいか、レオース。俺はここにいるから、お前は一人で行ってこい。」

ジャイアントラットがいる場所からは結構離れたところでリスキーは言った。

ジャイアントラットは、所詮はネズミ。

臆病で慎重なモンスターだ。

リスキーのような高ランクの冒険者が近寄れば逃げ出してしまう。

「わ、わかりました。」

「ジャイアントラット2匹くらいなら、問題はないと思うが、万が一の時は、慎重にな。」

「万が一の時は逃げますから大丈夫です。」

「馬鹿か、背中を向けたら駄目だ。よく考えてみろ、お前はいつからジャイアントラットより早くなった?」

「あれ?」

スピードで言えば、4つ足動物の方が速いのは言うまでもない。ジャイアントラットは人間より早いのだ。

しかし・・・。

レオースとイアンは、ジャイアントラット相手に逃げ回ったことがある。

よくよく考えたら、何故、あの時、あんなことが出来たんだろう?

とレオースは不思議に思った。

「いいか、アナスタシアが居ないんだ。速さを見誤るなよ。万が一の時は、相手に背を向けず、ゆっくりと後ずさりしろ。ジャイアントラットは自分のテリトリーを出た相手まで追うことは無い。」

「わかりました。」

レオースは、ようやく理解した。

アナスタシアの力の恩恵を受けていたのが、レダだけでなく、自分たちもだったことを。


レオースは慎重にジャイアントラットに近づいて行った。レオースやリスキーのような片手剣士は、基本盾を持たない。そもそも盾とは対人戦を想定した装備であり、モンスター相手だと意味がない。

あの剣と盾を持ったスケルトンでさえ、振り下ろす剣の攻撃力は人間の5倍の力があり、盾で受けたりしたら、その時点で、終わってしまう。一撃で死ぬことは無いにしても一撃で大ダメージを負ってしまう。

それ故に、対モンスターとの戦いにおいては避けが重要になってくる。

片手剣は他武器に比べ、軽いし、利き手じゃない方が空いているため、避けるのに適している。

ジャイアントラットのテリトリーに入ると、1匹がレオースに向かってきた、慎重に剣を突き刺す。

ジャイアントラットのスピードは、アナスタシアが仲間に居た時に比べて格段に速かった。

それでも一撃で一匹を仕留めると、残りの一匹も難なく仕留める事が出来た。

「よくやったなレオース。」

リスキーが、褒めながら近づいてきた。

「あ、ありがとうございます。」

「まだスタート地点に、立てるか立てないかだがな。」

基本の修行は、この後も続いた。


日中は、レオースが働いている為、リスキーは、いつも町をプラプラしていた。

「リスキーさんいらっしゃい。」

ピザ屋が挨拶した。

昼の時間はピザ屋も客が多いため、時間をずらしてから食事を取るようにしていた。

その為、ランチの仕事を終えたアナスタシアとフレイもピザ屋に居た。

「何にしましょうか?」

「そうだな、定番の・・・。」

今日は酸味の効いたアナスタシアの気分だったのだが。

ジーっとフレイが見つめていた。

「・・・。そ、そうだな。フレイにするか。」

「畏まりました。」

注文が入ると、フレイは小さくガッツポーズした。

「そういうの、やめなさい。」

アナスタシアが小さい声で注意した。

「いいでしょ?念を送るくらい。」

「ね、念っていうか・・・完全にガンをつけてたわよ。」

アナスタシアは呆れてしまった。


翌日、懲りずにピザ屋を訪れるリスキー。

昨日と全く同じ状況になり、固まった。

ちょっと待て、昨日もフレイを食べたのに、今日も頼めというのか・・・。

たまらず、手招きでフレイを呼ぶ。

「何?」

「昨日、俺がフレイを頼んだのは知ってるな?」

「ええ、もちろん。」

「今日は違うのを頼んでもいいだろう?」

「昨日は昨日でしょ?」

「・・・。」

こ、この女、今日も頼めというのか・・・。

困り果てたリスキーにピザ屋が助け舟を出した。

「実は、今、両方を食べたいというお客さんが増えてきたので、ハーフ&ハーフってのも始めました。」

「それだっ!それにしてくれ。」

「畏まりました。」

ちっ、余計なことを。

フレイは内心で舌打ちした。

「あのねえ、フレイ。何を食べたいかは、お客の自由でしょ?」

アナスタシアが注意した。

「それはそうだけど、知り合い位いいでしょ?」

「まあいいか・・・。」

リスキーならいいかと、アナスタシアは、諦めた。

明日は酒場でランチを取ろうと心に誓うリスキーだった。


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