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ホワイトスノークイーン

マルガリータは、ヴィルドンゲン国の王女として生まれた。幼いころに実の母親と死別したが、王は直ぐに新しい妃を迎えた。

義母との関係は最悪で、どうにかならないかと幼いながらに悩んでいたが、自身の家庭教師の女性が親身になってくれた。やがて二人は協力し合い、義母を追い出す事に成功した。

そんな家庭教師の女性を、王が見初め二人目の義母となった。自身の家庭教師であった女性なので、二人は本当の親子のように仲が良かったのだが。

幸せは長くは続かなかった。

二人の仲に亀裂が入りだしたのは、義母が娘を生んだくらいからだ。

やがて、待望の男子が生まれると、二人の仲は完全に険悪となってしまった。

王が、亡くなってからは、王妃を止めるものは誰も居なくなり、ついにはマルガリータの命を奪う凶行に出た。4度命を狙われながらも、難を逃れたマルガリータは、今では、この世界の伝説となっていた。

毒リンゴを食べて亡くなったマルガリータを救った小国の王子は、今ではヴィルドンゲン国の大公となり、妻のマルガリータ女王を支えている。


そんな国で侍女として働かせされているアナスタシアは恥辱にまみれていた。

サンドリヨン王国の王妃の姉が侍女?

それは、他の侍女たちの間でも話題になり、アナスタシアは好奇の目に晒された。

しかも貴族の出で、侍女になる者はおらず、周囲からの風当たりも強かった。

他の侍女たちとは生い立ちが違うアナスタシアを侍女長も心良く思わず、辛く当たっていた。

そんな中で、働いていたら心の中が荒んでいくのもしょうがなかった。

しかも、アナスタシアにはこれが一時的なものという事は知らされていない。

花嫁修業であることも。

「どうして、私だけがこんな目に!」

虐げられ、虐められようともアナスタシアは泣かなかった。

彼女の中で、妹のエラとマルガリータ女王への憎しみは日ごとに膨らんでいった。

私は、泣かない。

絶対、泣いてなんかやるもんか。

エラもマルガリータも、いつか見てなさい。

私は、二人の思い通りになんて絶対ならない。

彼女は、ずっと機会を伺っていた。


そんなアナスタシアに機会が訪れる。

国境付近の山道を通り、王城内で使う品々の買い出し隊に選ばれた。

買い出し隊は、多くの兵士と数人の侍女から構成される。険しい山道を歩くために馬車は使えず、自身の足で歩かなければいかない買い出しは、侍女たちには不人気の仕事だった。

侍女長から、買い出し隊への参加を言い渡されたアナスタシアは、無表情で返事をしながらも、内心でほくそ笑んでいた。

ついに機会が訪れた。

アナスタシアは、人目を憚って狂喜乱舞した。

見てなさい、エラにマルガリータ。

私がいつまでも、あなたたちの思い通りになると思ったら、大間違いよ。


一歩道を踏み外せば、山から転落し、そこは国無き地へと直結はしているが、とても生きて、たどり着けるような場所ではなかった。

その山道を通るときは、歴戦の兵士でさえ細心の注意を払う程だ。

そんな、誰もが尻込みしそうな場所で、アナスタシアは躊躇なく道を踏み外した。

これで、私は誰にも縛られることは無い。

山淵を転がって落ちていく、彼女は笑っていたが、彼女が笑っていたことに気が付いたものは誰一人として居なかった。

「だ、誰が落ちた?」

兵士が声を上げた。

「じ、侍女のアナスタシアが・・・。」

侍女として同じく同行していた別の侍女が答えた。

「これは、助からないだろう。」

隊の隊長が、アナスタシアが踏み外した場所を見て、そう言った。


「申し訳ありません。」

買い出し隊の隊長は、王城に帰ると深々と伏礼し、マルガリータ女王に謝った。

「アナスタシアが買い出し隊に参加していたのは初耳ですが、彼女は、助からないのですか?」

「あの山道を落ちれば、恐らく助からないと思います。もし辛うじて助かったとしても、国無き地では・・・。」

「そうですか。仕方ありませんね。」

隊長に下がるように指示し、女王は侍女長を呼んだ。

「あなたには、長いこと働いてもらい感謝しております。が、今回の件、責任はとってもらいます。」

「お、お待ちください。」

クビになる侍女長は、何とかそれだけは回避しようと食い下がったが。

「見苦しいですよ?私がそういうのが嫌いなのを知っているでしょう?」

マルガリータ女王の別称は、ホワイトスノークイーン。

自らが女王となる時に、継母はもちろん、その子供たちも躊躇することなく処刑した。

王としては当然の事ではあるのだが。

侍女長は、自らの危険を感じて、それ以上は何も言うことなく、王城を去って行った。

次に、女王はアナスタシアと関わりのあった侍女たちを呼んだ。

「あなた達にも責任はとってもらいます。そうね、鞭打ち10回というところかしら?」

「お待ちください、女王様。」

常に女王の傍に控えている兵士の一人が口を挟んだ。

「先日、鞭打ちの刑に処せられた兵士が10回の鞭打ちで死んだのをお忘れですか?」

「そうだったわね。では、何回が適切かしら?」

「私からは、1回と言いたいところですが、それでは女王の気がお済みでないでしょう?」

「そうね、1回ではねえ。」

「では、3回ではどうでしょうか?」

「いいわ、あなたにお任せします。」

「ありがとうございます。」

玉座の前に平伏していた侍女たちの顔は真っ青であった。


マルガリータ女王は、魔法の鏡を使いサンドリヨン王国のエラ王妃と通信をした。

「申し訳ありません。こちらで面倒をみると言っておきながら、このような結果になってしまい。」

「女王様、それくらいで。こちらこそ不出来な姉を押し付けてしまって、申し訳ありません。それに姉は、足を踏み外したのではないと思います。」

「それは、どういう?」

「自ら、落ちていったのだと思います。」

「それは、ないのでは?兵士たちでさえ尻込みする山道ですし、そんな自殺行為を?」

「きっと侍女の仕事に耐えられなかったのだと思います。姉にはそういった、くだらないプライドだけはありましたから。だから、今回の事は、どうかお気にせずに。」

「そう言って貰えると、こちらも気が楽になります。彼女の遺体ですが、何分、国外の場所になり、モンスターも居るでしょう。」

「女王様、きっと姉も望まないでしょう。そのまま土に還ることを望んでいると思います。」

「そう、もし何か遺品が見つかるようなことがあれば、そちらにお送りします。」

「お気遣い感謝いたします。」

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