歴史の探求者
「別についてこなくても、あの場所で待っていてもいいのよ?」
アナスタシアは付いてきているフレイに言った。
「別にいいでしょ?どうせ暇だし。歴史の探求に興味があるわ。」
「あっそ。」
「おや、アナスタシア先生。こんな年寄りの家に何の用だい?」
「ちょっと待って、ヨネさん。先生って何?」
「ふぉふぉふぉっ、皆言っておるから。」
酒場のオヤジかっ!
「これ、借りていた文献なんだけど、他にないかしら?」
「ああ、蔵には一杯あるよ。」
「見せて貰ってもいい?」
「ああ、いいよ。気になる物があったら、持ってて構わないからね。」
「ありがとう。」
二人は、古い蔵の中へ入った。
「フレイ、適当に中身を見て料理のレシピみたいなものがあったら教えてちょうだい。」
「え?私も探すの?」
「暇なんでしょ?」
「そ、そうだけど・・・。」
二人は、蔵の中を必死に探した。
日も陰り始めた頃、ようやくレシピらしいものをフレイが見つけた。
「何か分量が書いてあるけど?」
「でかしたわ、フレイ。これを借りて帰りましょう。」
結局、この日は、レオースたちの修行を見る事は出来なかった。
「今日は、見に来なかったんだな?」
酒場で夕食を取りながら、リスキーが言った。
「私たちも忙しいのよ。」
アナスタシアが答えた。
「そ、そうか・・・。」
リスキーは少し寂しげだった。
その夜、自室にて。
「嘘でしょ?」
古い書物を見ながら、アナスタシアが声をあげた。
「どうかした?」
レダのベッドに座っているフレイが言った。
「大発見だわ。」
「教えてよ。」
「明日のお楽しみよ。」
「いいじゃない、別に。」
「ふふふ。」
アナスタシアは悪戯っぽく笑って就寝した。
翌日、アナスタシアが早朝から酒場に行くと、普段、会った事無いような人間が、結構な数が集まっていた。
「な、何なのこれ?」
「気にしないでくれ。」
酒場のオヤジにそう言われたものの。
まあ取り合えずは、気にしない事にした。
「で、何か発見があったか?」
「ええ、大発見よ。」
一同が息をのむ。
「レンネットが植物から作れるわ。」
「な、なんだって!」
アナスタシアの言葉に驚いたのは、酒場のオヤジとパン屋の旦那さん、あと数人だけで、他は全員ポカーンとしていた。
「それはどういうこと?家畜を屠殺しなくていいって事なの?」
ある程度、レンネットの説明をうけていたフレイが聞いた。
「そうよ、この辺りに自生している植物から生成できるわ。」
「凄い発見ね。」
フレイが改めて驚いた。
「そうね、何故、これが廃れたかは疑問なんだけどね。」
「私が産まれるずっと前なんだけどね、家畜の疫病が流行ったんだよ。それで一時期、家畜が皆無になったらしい。」
ヨネさんが言った。
「なるほど、それでこの製法も埋もれていったってわけね。」
「しかし、アナスタシア。大昔の製法だろ?その植物が今も存在するのか?」
「それは大丈夫よ、レシピを見る限り、ここのスープの材料の一つだから。」
そう言って、レシピを酒場のオヤジに見せた。
「こ、これでレンネットが?」
「まあ、試しにやってみましょう。」
「ここでいいか?」
「後々の事を考えたら、パン屋の方がいいわ。」
「よし、材料を揃えて移動しよう。」
こうして一行は、パン屋へと移動した。
大勢いるので、一部の人間が朝のパンの仕込みを手伝い、それ以外がチーズ作りを担当した。
「おいおい、ちゃんとホエイとカードに分かれてるじゃねえか。」
酒場のオヤジが感嘆の息を漏らした。
「旦那さん、とりあえずホエイでパンを作ってみて。」
「わかった。」
アナスタシアの指示に、パン屋の旦那が返事をした。
「ホエイなら、うちの料理にも使えそうじゃないのか?」
酒場のオヤジが聞いた。
「それ位、自分で考えなさい。」
「わ、わかった・・・。」
出来上がったフレッシュチーズを全員で試食する。
「う、うめえっ!」
「こりゃあ、まだまだ死ねないね。私が知らない旨い物は、まだまだありそうだ。」
ヨネさんが言った。
「お、美味しい・・・。」
フレイが言った。
「こ、これがあれば、うちの店も。」
アナスタシアが知らないおっさんが、涙を流しながら言った。
「店って何よ?」
「う、うちの店はスパ屋でして・・・。」
「はっ?この町にスパ屋なんてあったの?」
「い、言ってやるな・・・。」
酒場のオヤジが言った。
「うちのパンも卸しているよ。」
女将さんが言った。
「初耳だわ・・・。トマトソースのスパはないの?」
「あ、あります。というか看板メニューです。」
「そう、女将さん、ソースを少なめに炒めた物を仕入れたらどうかしら?」
「パンに挟むのかい?」
「ええ、出来たら冷めても味が濃い物がいいわね。」
「スパ屋さん出来るかい?」
「す、直ぐにでも。」
そうこうしていると、ホエイを使ったパンが焼きあがった。
「はい、お待ち。」
焼きたてのパンを旦那さんが皆に配った。
「嘘だろおいっ・・・。」
酒場のオヤジが衝撃を受ける。
「なんという柔らかさ・・・昇天してしましそうじゃ。」
ヨネさんが昇天しかける。
「こんなにふわふわなパンが存在するの?」
フレイも驚きの声をあげた。
「まあ、ここまでは想定内ね。」
「スパのパンも?」
フレイが聞いた。
「あれは別・・・。問題はチーズよ。」
「チーズだって、これで十分だろ?」
酒場のオヤジが言った。
「これだけじゃあ駄目よ。チーズを作ってる村や町なんて数えるほどあるでしょ?」
「ま、まあ、それは・・・。」
レンネットが動物性だろうと植物性だろうとチーズに変わりはなかった。
「せっかく、薬草系が多く自生してることだし、薬草チーズを作るのよ。」
「や、薬草チーズ?」
「ポーションなんて嵩張るし、日持ちもしないでしょ?チーズなら、そんな心配も無用だわ。」
「毒消しチーズや、麻痺消しチーズとかか?」
「ええ、そうよ。」
「しかし、薬草系ってのは味がなあ・・・。」
「それはスープでも同じでしょ?それと日持ちさせるからチーズをスモークにするわ。」
「なるほどなあ。で、味については自分たちで頑張れと?」
薬膳スープの時もアナスタシアは、アイデアは出したが味については口出ししなかった。
「当たり前でしょ?料理は常に試行錯誤しないとね。」
「わかった。みんなも協力してくれ。」
「「「おおー。」」」
元々活気はあった町であり、最近の好景気もあって皆が進んで協力を申し出た。
その日の昼。
「今日のランチは酒場じゃないの?」
フレイが聞いた。
「スパ屋に行くわ。」
二人で、スパ屋を訪れた。
「こういうのって、閑古鳥が鳴いてるっていうの?」
スパ屋の状況を見て、フレイが聞いた。
「そうね・・・。」
「あ、アナスタシア先生、いらっしゃいませ。」
「トマトソーススパを2つ。」
「はい。」
そうしてトマトソーススパが運ばれてきた。
「ねえ、毒々しい赤じゃない?アナスタシアの服みたい。」
「失礼ね、私の服の方が鮮やかよ。」
二人は恐る恐るスパを食べた。
「濃すぎるにも程があるわっ!」
アナスタシアが突っ込んだ。
「む、胸やけがしそう・・・。」
フレイが口を手で覆った。
「で、でも。パン屋の女将さんが丁度いいって。」
スパ屋の店主が言った。
「それはパンの素材の話でしょ?スパでこれはないわっ!」
「そ、そうなんですね・・・。」
「これじゃあ先が思いやられるわね。思い切ってスパはパンの素材だけにすればいいわ。」
「で、でもそれだけじゃあ・・・。」
「現状を見てもスパ屋って稼げるの?」
フレイが率直な疑問を言った。
「そ、そうですね。」
「せっかくチーズが手に入るようになるのよ。思い切ってピザ屋にしてみたら?」
「ピ、ピザですか?」
「生地はパン屋から仕入れるとして、後は窯ね。」
「知り合いに頼めば、作って貰えます。」
「じゃあ決まりね。」
何とかスパ屋を救済する目途がたった。
スパ屋からの帰り道、フレイがボソッと言った。
「これも歴史の探求になるの?」
「い、言わないでっ・・・。」




