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新しい朝が来た、希望の朝が?

大金を手に入れたカイン達は、鬱蒼と茂る森の中を歩いていた。

「しかし、暫くは遊んで暮らせるとは言え、依頼は、こなさないとな。」

カインの言葉に、他の3人から返事はない。

ゴトっ

何かが落ちる音が3つ。

カインが振り向くと首のない3人の仲間が立っていた。

「・・・。」

驚きで言葉を失う。

すぐさま正面へ向き直るとそこには。


血色に染まった頭巾を被り、体に似つかわしくない大きな魔斧を肩に担いだ少女が立っていた。


「ブ、ブラッディフッド・・・。」

「お前がカインだろ、弟子が世話になったな。」

「ち、違うんだ、俺は知らなかったんだ。」

「そうなのか?」

「ああ、な、仲間の魔術師が魔術師協会に頼まれて・・・、あんたの弟子とは知らなかったんだ。」

「そうだったのか、悪いことをしたなあ。いいか、動かない方がいいぞ?」

「へっ・・・。」

体が少し動いた。

すると視線が斜めに・・・落ちていく。

そうして、カインは絶命した。

「あーあ、だから動くなと言ったのに。」

そう言って、ブラッディフッドが去ると、森の中にあった4人の死体は、モンスターに食われ、土へと還っていった。


無事に届けられた姉の姿を前に、エラは複雑な心境だった。無事に戻ってきた喜びと・・・。

仮にも貴族の娘が、娼婦に身を堕とすは・・・。

喜びと怒りが半々であったが、次第に怒りの割合がどんどんと増えていく。

「エラよ。アナスタシアのことだが、ハゲール子爵の嫁にと考えておる。」

王がエラに言った。

「陛下、お恥ずかしい話ですが姉は娼婦へと身を堕としております・・・。子爵婦人なんて大それた・・・。」

「気にするな、ハゲール子爵は40過ぎても身を固めず女遊びにうつつを抜かしておる。本来なら爵位を取り上げる所だが、アナスタシアを嫁にするなら、爵位をそのままにと伝えるつもりだ。断りはせんだろう。」

「しかし・・・。」

「姉が子爵夫人になれば、エラも安心であろう?」

「それはもちろん。」

「そなたが安心なら、余も安心だ。」

「陛下、ありがとうございます。」

「直ぐにハゲール子爵には、通達しよう。さあ、アナスタシアを何処か寝室へ。」

「いえ、陛下。姉には牢屋へ入ってもらいます。」

「それは、厳しすぎるのはないか?」

「ヴィルドンゲン国を逃げ出したのです。婚礼までは牢へ入ってもらいます。」

「そうか、わかった。では、貴族用の牢へ。」

王が指示すると兵士たちが丁重にアナスタシアを運んで行った。


B級冒険者のパーティーに入り、今から新たな冒険が幕を開ける。

アナスタシアは、そう希望に満ち溢れていた。

そんなアナスタシアが、目を覚ますのは、牢に入れられてから数日が経ってからだった。

さあ、私の物語の幕開けよ!と目覚めてはみたものの。

体が重い。

まるで何日も寝ていたかのように。実際に寝ていたのだが。

周囲を見回すと、寝る前と何だか様子が違う。

あれ?宿屋で寝ていたんじゃ・・・。

鉄格子が目に入り、ここが牢の中だと確信した。

ん?

困惑するアナスタシア。

もしかして、私は長い夢を見ていたのだろうか?

全てが、夢・・・、そういう思いが込み上げてくる。

そりゃあそうか、私が冒険者なんて・・・。

失われていく自信に、下がっていく目線。

そして、視界に入ってきたのは、真っ赤なドレス風の冒険者服。

これはお師匠様に買ってもらった服だわ。

今までの事が夢でなかったことが判り安堵した。

では、何故、牢に?

再び疑問がわく。

いったい何処なのここは・・・。

牢のベッドから起き上がり、牢の外を見回す。

そうしていると、目が合った。

2匹のネズミと・・・。

2匹のネズミは、アナスタシアが起き上がるのを確認すると、チューチューと鳴き、何処かへと向かっていった。

ここは、サンドリヨン王国か!

アナスタシアは、そう確信した。

暫くすると、石積みの階段を女性が降りてきた。

王妃エラが、鉄格子の前に立つ。

「精霊の加護を失っても、まだネズミと会話ができるのね。」

アナスタシアが言った。

「ネズミ達は、私の大事な友達ですもの。」

2匹のネズミが、王妃エラの肩に乗っていた。

「私をどうするつもり?まさか処刑するの?」

「まさか、暫く頭を冷やしてもらうだけよ。」

「頭を冷やす?私が何をしたって言うの!」

「ヴィルドンゲン国を逃げ出した。」

「うっ・・・。」

「何も言えないでしょ?姉さんにも困ったものね。」

「あ、足を滑らしちゃって・・・。」

白々しく言ってみた。

「プライドだけは高い姉さんの事だから、耐えられなくなったのでしょ?」

「くっ・・・。」

「でもね、生きていく為とは言え、仮にも貴族の娘なのよ?娼婦にまで身を堕とすなんて・・・。」

「はあ?何で私が娼婦に?」

「娼婦の格好をして何を言ってるの?」

「あのねえ、エラ。よく見なさい。娼婦がズボンなんて履くわけないでしょ?」

「旅の娼婦は、そういうものじゃないの?」

「何よ、旅の娼婦って。居ないわよ、そんなの。」

「さあ?この国を出たことない私には、わからないわ。」

「いつまで、私を牢に入れておくつもりなの?」

「安心して、もう少しの辛抱だから。婚礼の準備が整うまでよ。」

「へえ、誰か結婚するの?」

「姉さんがね。」

「へえ、私が・・・ふぁっ?」

「喜んで姉さん。子爵夫人になるのよ。凄い事だと思わない?」

「わ、私が子爵夫人??」

「ハゲール子爵は知っているでしょ?」

「あの禿で、油ギッシュなおっさんの事でしょ?」

「何を言ってるの、姉さん。ハゲール子爵は禿げてはないわ。髪が薄いだけよ。」

「あんなの禿と変わんないわよっ!」

「ふっ、姉さんったら、サンドリヨン王国の髪が薄い人間を全て敵に回すような発言をしたりして、気を付けた方がいいわよ。」

「禿を敵に回そうと、別に気にもしないわよっ!」

「いずれにしても姉さん、貴族の娘が思うような縁談が出来ないのは、常識でしょ?」

「・・・。」

「準備が整ったら、牢から出してあげる。」

「あなたは信じないでしょうけど、私は冒険者なのよ。」

「へえ。」

完全に信じていない空返事。

「理由はわからないけど、仲間たちと逸れたのよ。」

「だから?」

「仲間たちを呼んでくれない?私が冒険者だと証明してくれるわ。」

「娼婦の客に偽の証言をしてもらうの?」

「違うわよっ!B級冒険者のカインを呼んで。そうすれば本当の事がわかるわ。」

「B級?姉さんが?笑えない冗談ね。」

「いいから、さっさと呼んで!」

「まあいいわ。恥をかくのは姉さんだと思うけど。」

そう言って、呆れながら、王妃エラは牢の前をあとにした。


貴族用の牢屋は居心地がよく、冒険者として野宿を経験しているアナスタシアにとっては過ごし易かった。

が、2日経っても、妹が何も言ってこず。

鉄格子に手で掴まり周囲を見渡す。

いたっ!

2匹のネズミが。

「ちょっと、あんた達、エラを呼んできなさい。」

ネズミに向かって、そう叫ぶが。

「チュ?」

首をかしげるネズミ。

「さっさと呼んでこないと、焼き殺すわよ!」

アナスタシアの尋常じゃない殺気を浴びて、ネズミ達は逃げていった。

「何なの姉さん、私は忙しいのよ?」

暫くして、王妃エラが現れた。

「カインはどうなってるのよ?」

「確かに姉さんがいうようにB級冒険者にカインという名の者は居たわ。」

「で?」

「連絡がとれないのよ。一応見かけたらって、話はしているけど間に合いそうにないわね。」

「間に合うって何よ?」

「結婚式に招待したいんでしょ?」

「違うわよっ!私が冒険者だと証明したいだけ。」

「もういいでしょ?どうでも?」

「どうでも良くないわよ。」

「ごめんね、姉さん、私忙しいから。」

「ちょっ・・・。」

再び牢に一人取り残されるアナスタシア。

連絡が取れないってどういうこと?

そもそも、なんで私はここにいるの?

再び疑問が沸き上がる。

もしかして、襲撃された?

しかし・・・。

カインはB級冒険者の手練れ、いくら宿屋で寝ていたからといって、そう易々とやられるわけがない。

一体、何がどうなっているのか。

ずっと眠らされていたアナスタシアには、まったく見当がつかなかった。


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