突然の告白と相談と
さて酒場のランチの相談にはのったものの、どうしたものかとアナスタシアは考えていた。
時間が空いた時に街中をぶらついてみる。
「キラーボアのレシピを増やすの?」
レダが聞いてきた。
「それは、おじさんがやるでしょ。時間はかかるけど、煮込み系とか、意外とレシピはあるのよ。」
「そうなの?今まで出て来たことないんだけど?」
「仕込みに時間がかかるから、やらなかっただけでしょ。」
「あのおじさん・・・。」
単に面倒くさがり屋だっただけなのかと、レダは呆れた。
「しかし、本当に何もない町ね。」
レダと二人で街を回ってみたが、これと言って特色がない。
「まあ、旅人もあんまり来ることないし・・・。」
ここを訪れる旅人や冒険者は、この町に来るのが目的でなく、目的の途中に立ち寄る程度でしかない。
さらには、人気がある場所への中継地点からは外れており、立ち寄る理由が殆どない。
「そう言えば、酒場にしてはやけに薬草系が多かったんだけど、薬草系のお酒でも出してるの、あの酒場?」
「どうだろう?私たちはお酒を頼まないからよくわからないけど。ただ、この町の周囲には毒消し系の薬草が多く自生しているけどね。」
「へえ。使えそうね。」
「え、何に?」
「料理に決まってるでしょ?」
「いやいや、毒消し系の薬草は、苦いのよ?料理になんて・・・。」
「苦味だって、創意工夫すれば、最高のスパイスになるのよ。」
「そ、そうなんだ。」
「よし、それでいこう。」
こうしてアナスタシアは、レオースとイアンを使い、周囲に自生している薬草をかき集めさせた。
「おいおい、そんな草ばっかり取ってきて、ここは子供の遊び場じゃねえんだぞ?」
今から、ままごとでもするのかっていう程に、草が集められていた。
「これでスープを作ります。」
アナスタシアが、酒場の親父を含めた4人に宣言した。
「な、なんか美味しくなさそう・・・。」
レダが素直な感想を言った。
「や、薬膳スープか!」
酒場の親父が閃いたように言った。
「そうよ、さすが料理人を自称するだけはあるわね。」
「しかし、多すぎねえか?草の種類が?」
「あのねえ、おじさん。毎日同じスープじゃ、飽きるでしょうが。」
「ひ、日替わりスープかっ!」
「その通り、大量に作れば夜にも出せるでしょ?」
「いや、しかし、夜はお前らくらいしか客が・・・。」
「持ち帰りスープなんてどうですか?」
レオースが提案した。
「それはいいわね。手の込んだスープを自宅で少量作るのは手間だし。夜は持ち帰りでいいんじゃない?」
「お、お前ら・・・。うちの酒場の為に・・・。本当にありがとうな。」
「そういうのは成功してからいいなさい。ほらおじさん、スープを作るんだから、レシピを考えてっ!」
「お、おう!」
こうして潰れかけていた酒場が奇跡の復活を遂げた。夜は、スープを持ち帰る近隣の住民が殆どだが、中には平日であっても、酒場へ夕食を食べにくる家族もいた。
「今日の晩飯は俺の奢りだ。遠慮なく食べてくれ。」
いつもの4人にそう言った。
「おじさん、判ってると思うけど。」
「判ってるさ。料理に終わりはないだろ?」
「判ってるならいいわ。」
「アナスタシア、お前もこんな街でのさばってる器じゃないんだからな。」
「当然でしょ!」
そして、再び、ジャイアントラットの来襲。
今回は、猪サイズなのだが、数は4匹いた。
「ふっ、ネズミごときが、何度来たって、この私が退治してくれるわ。」
「なあ、レオース。レダがアナさん化してないか?」
イアンが小さい声で囁いた。
「ま、まあ。レダの魔法頼みだし・・・。」
「判ってるわね。レダ。タイミングを・・・。」
「大丈夫よ、アナ。この私にかかれば、あの程度のネズミなんていちころよ。」
「レオース、イアン。しっかりとレダを守るわよ。」
不安になったアナスタシアは、レオースとイアンに気を引き締めるように言った。
ギリギリまで近づき、4匹まとめて始末するため、タイミングを見計らって、魔法を放つ。
「ウィンドストームっ!」
ウィンドストームが3匹のジャイアントラットを空高く舞い上がらせる。
ウィンドストームから逃れた1匹は、4人に向かって猛突進してきた。
「来るわよ!」
レオースの元へ一直線に向かっていたジャイアントラットだったが、突然の方向転換で、アナスタシアを目がけて行った。
「アナさんっ!」
レオースが叫ぶ。
アナスタシアは、まるで踊り子のように一回転し、扇を突き出す。
扇は、ジャイアントラットの眉間にクリティカルヒットし、瞬殺させた。
舞踏術旋風槍。
回転エネルギーを槍のように突き出し、力を扇に乗せる舞踏の技。
直進していたネズミがその場で、急停止して死んだ。
まるで壁にでも、ぶつかったかのように。
レオース、イアン、そしてレダが茫然とする。
「レオース3匹の止めを、イアンは町の人を呼んできて。」
「わかりました。」
我に返ったレオースは3匹に止めを刺しに行き、イアンは町へと向かった。
「アナ・・・。あなた一人でもジャイアントラットなら倒せるのね。」
レダが言った。
「最初に言ってたでしょ?」
そう、アナスタシアは最初から一人でも倒せると言っていた。それを信じていなかったのはレダ達だった。
レダは、この時、思った。
アナスタシアは私たちに何一つ嘘はついていないのだと。
3匹の止めを刺した後、レオースは真剣な表情で戻ってきた。
「アナさん!」
まるで告白でもするかのような呼びかけ。
げっ、こいつこんな状況で?と思うアナスタシア。
や、やめてっ!と耳を塞ごうとするレダ。
「僕を弟子にしてくださいっ!」
「「はっ?」」
ポカーンとするアナスタシアとレダ。
「僕にはレダやイアンのように師が居ません。だからアナさんが僕の師になってください。」
「えっと・・・レオースはショートソードでしょ?」
「はい。」
「ナイフに持ち変える気は?」
「それは、さすがに今更といいますか・・・。」
「私のは舞踏術よ。ショートソードには向かないわ。」
「そ、そうですか・・・。」
残念で、気落ちするレオース。
告白じゃなくてホッとしたアナスタシアとレダだった。
その日の晩、アナスタシアは部屋で一人寛いでいた。レダは、レオースと一緒に朝食用の日替わりスープを買いに酒場へと出かけた。
二人に気を利かせて部屋に残ったアナスタシアだったが。
酒場に行ったのはイアンを含めた3人だった。
3人はテーブルに付き、日替わりスープを飲んだ。
「おい、アナスタシアはどうした?」
もう夕食の時間は過ぎているので、酒場は落ち着いていた。
「部屋で寛いでいるわ。」
レダが答えた。
「おい、一人だけ除け者は、よくないんじゃないか?お前たち4人は、仲良しだと思ってたんだがな?」
「今日はアナの為に3人で話し合いに来たのよ。」
「ほう、深刻なんだな。」
「うん。」
「で、レダ。どういう話なんだ?」
レオースが聞いた。
「アナは、私たちと一緒にいるレベルの冒険者じゃないわ。」
「そうだね、今日、思い知らされたよ。」
レオースが神妙な口ぶりで言う。
「あんなに強いなんてね。」
イアンが言った。
「何だお前ら?今更なのか?俺はずっと言ってたよな?アナスタシアは、ここにいるような冒険者じゃないって。」
「どうして、おじさんはアナの事がわかったの?」
「お前たちに言ってもわからないだろうが、オーラが違う。」
「「「オーラ?」」」
「お前ら級持ちの冒険者を見たことはあるか?」
「一度だけ。」
3人の中でイアンだけが見たことがあった。
「どうだった?」
「なんか、こう迫力が違ったというか。」
「それもオーラの一つだな。」
「でもアナさんからは、そういった迫力は・・・。」
「イアンが見たって冒険者のオーラは凄みだな。でも本当に強い冒険者は、そういった凄みは普段は、出さないもんだ。」
「アナはそんなに凄いの?」
レダが聞いた。
「レダ、お前はどう思うんだ?アナスタシアの事を。」
「級持ちの冒険者に匹敵する力を持ってると思う。」
「判ってるじゃないか。」
「最初にアナは言ってたわ。もしもの時はジャイアントラットを自分が倒すって。」
「まあ、アナスタシアなら、巨大なジャイアントラットくらい倒せるだろうなあ。」
「私は信じなかったわ。あの時は・・・。」
「そりゃあ仕方ないよ、俺だって信じてなかったし。」
イアンが同調した。
「でも、今ならわかるわ。アナは、私たちが居なくてもジャイアントラットなんて敵じゃないって事が。」
「まあお前たちは冒険者と言っても、ここに留まっているからな、見る目は養えちゃあいないだろ。冒険者ってのはな、相手を見る目がないと生きていけない職業だからな。」
「相手ってのは、モンスター達だけじゃないんですか?」
レオースが聞いた。
「エイル教の教えにあるだろ?人は罪深く、強欲で残虐であるってな。同じ冒険者だからって油断していると命を落とす事さえあるからな。」
「なんだか酷い話ですね。」
「冒険者なんて荒くれ者と変わらないからな。」
スープを飲んで、一息つき、レダが再び話し始めた。
「アナは私たちと居るようなレベルじゃない。だから旅立ちの時が来たら、笑って送り出してあげましょう。」
「そうだね。」
レオースが頷いた。
「でもさ、あれだけ凄いのに、何でここに居るんだろう?」
イアンが疑問に思った。
「簡単な話さ。あの性格だろ?合うパーティーが中々見つからないんだろうな。」
酒場の親父が言った。
「そう言う問題なの?」
レダが聞いた。
「そう言う問題だ。冒険者のパーティーってのは、相性が合う合わないは、大事だからな。」
「そう言えばナンバー2の人って、パーティー組んでないよね?」
レオースが言った。
「性格に問題があるんだろうなあ。」
酒場の親父が答えた。
「なんかアナみたいね。」
レダの言葉に皆が笑った。