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悪役令嬢、ネズミ駆除業者になる?

1、2週間経つと現れるジャイアントラットを待ちつつ、アナスタシアは、日々ランチの手伝いに精を出していた。

レダとは同じ部屋で暮らしている為、姉妹のように仲良くなっていった。

「ねえ、アナ。次にジャイアントラットが現れたら、試してみたい魔法があるんだけど。」

「へえ、何の魔法?」

「ウィンドストームよ。」

「いいんじゃないの?」

「今まで発動したことないんだけど、大丈夫かな?」

「・・・、ま、まあ、万が一の時は私が・・・。」

若干、不安になるアナスタシアだった。


そして待望のジャイアントラットが現れた。

「ちょっと、おじさん。今回は3匹もいるのに、5千ゴールドってどういうことよ?」

アナスタシアは、酒場の親父に文句を言った。

「あのなあ、アナスタシア。今回のは普通のサイズだ。前回が異常だっただけだ。」

「くっ・・・。」

「それにランチの手伝いで儲けてるんだろ?こっちはその分・・・くっ・・・。」

「ランチで儲けようと思うからでしょうに・・・。」


4人が休みの日に、討伐へ出かけた。

メインは冒険者であるはずなのに、優先させるのはバイトであった。

「いい?今回は、レオースとイアンの囮役はいいわ。」

「僕たちは何をすれば?」

「レダを守るのよ。万が一魔法で、仕留められなかったら一人一殺だからね。」

「僕とアナさんと?」

「イアンに決まってるでしょ。」

「えええええっ!俺、僧侶だよ?」

「男でしょ?ジャイアントラット1匹くらい何とかしなさい!」

「・・・。」

男に生まれるって、こんなに辛いのかと、最近しみじみ思うイアンだった。

「レダ、どれくらいの距離だと、魔法が届くの?」

「わかんないわよ、発動した事ないんだから。」

「仕方ないわね、ネズミが襲ってこないギリギリまで近寄るわよ。」

4人は、レダを守るような陣形でジワリジワリと近づいていった。

「そ、そろそろいいんじゃない?」

「わかったわ、じゃあ、魔法を唱えるわね。」

「レオースとイアンは、身構えて、ネズミがチラチラとこっちを見てるから。」

「わ、わかってる。」

イアンは怯えていた。

「ウィンドストーム!」

今まで感じたことないような魔力が、レダの周囲から感じられた。

ジャイアントラット3匹を巻き込むような竜巻が発生し3匹のジャイアントラットが宙を舞う。

上を見るアナスタシア、レオース、イアン。

ある程度、上空まで舞い上がった3匹のジャイアントラットは一気に、落下した。

3人の視線も、それを追って落下した。

ドカっ!

あれだけ高く舞い上がり落下したのだから、恐らく死んでいるだろう。

「レオース、念のためにとどめを刺して。」

「わ、わかりました。」

「イアンは、街の人に連絡を。」

「わ、わかった。」

「み、見た?アナ見てくれた?」

「見たわよ。ちゃんと。」

「私、ついに、ついにウィンドストームを!」

「よ、よかったわね。」

魔法のランクで言えば、ウィンドカッターの次の魔法で、冒険者の魔術師なら、むしろ使えない者は殆ど居ない。使えない魔術師は、属性の問題で使えないのであって、レダのように自分が得意な属性で発動できない魔術師は他には存在しない。

「や、やったわ。」

興奮気味で、アナスタシアに詰め寄る。

「わ、わかったから、落ち着いて・・・。」

「アナさん、3体とも止めをさしました。」

「わかったわ。街の人を待ちましょう。あと、レオース、レダを落ち着かせてくれる。」

「は、はい。レダ、落ち着いて。」

「見てくれた?私の魔法。」

「そりゃあ見てるよ、傍に居たんだから。」

「私のウィンドストームよ。」

「う、うん、わかったから。」

レダの興奮はもちろん寝る前まで続いた。


ジャイアントラットをやっつけると、また1、2週間の待機期間が訪れる。

4人は、いつもの酒場で夕食をとっていた。

「なんだかネズミの駆除業者になった気分だわ。」

アナスタシアがボソッと言った。

「次にネズミが来ても大丈夫よ、私の魔法で一撃だわ。」

完全に調子に乗ってしまったレダ。

「聞いておきたいんだけど、覚えてる魔法はいくつあるの?」

元々、使える魔法が一つ。それもそよ風レベルというお粗末さ。

「ウィンドストームで、全部だけど?」

「え?」

「あのう、アナさん。レダはウィンドストームが発動しなかったんで、他の魔法は覚えてないんですよ。」

レオースが説明した。

「そ、そうなんだ。」

思った以上のポンコツぶりに、他に発する言葉が見つからなかった。

「最初に言ったわよね?最底辺だって。」

「そ、そうね・・・。」

「でも、早くジャイアントラット来ないかしら。」

「おいおい、害獣が来るのを待ち焦がれるんじゃねえよ。」

酒場の親父が注意した。

「おじさん、聞いてよ。」

「いや、いい。もう十分聞いたから・・・。」

レダは来る日も来る日も、魔法自慢を繰り返していたので、酒場の親父は、その話はお腹いっぱいどころか、お腹が破裂していた。

「レダ、調子に乗るのはいいんだけど。魔法を発動するときはタイミングには気を付けてね。」

「アナ。誰に言ってるの?私がタイミングを間違える訳ないじゃない?」

「そ、そう・・・。」

「レダってこんな子だっけ?」

小さい声でレオースに聞く。

「だ、大丈夫ですよ。ジャイアントラットが来る頃には治まっていると思いますから。」

「それならいいんだけど・・・。」


「そういえば。」

部屋に戻り、二人きりになってから、レダが聞いてきた。

「アナの目標と言うか、夢?みたいなものは何?」

「急に何?」

「いや、その、前に私の恋の相談に乗って貰ったじゃない?そのお返しじゃないけど。」

「私の目標は伝説になることよ。」

「で、伝説?」

想像の遥か上をいく目標にレダは驚いた。

「まあ、物語でもいいわ。」

「シンダーエラとか?」

「何でよっ!」

「いや、結構人気あるでしょ?女性に。」

「他にあるでしょ?赤ずきんちゃんとか。」

「ああ、あれね。」

「とりあえず4人目の英雄になる所からかな。」

「え、3大英雄が通過点なの?」

「それはそうよ、3大英雄だって、物語にはなってないでしょうに。」

「それは、そうだけど。」

正確には名もなき英雄が、赤ずきんちゃんには登場しているのだが。

「とても力になれそうにはないわ。目標どころか通過点が巨大すぎて・・・。」

「いいのよ、別に。いつか私の物語が出来たら読んでくれるだけで。」

「是非、読みたいわ。でもアナなら、主役とはいかないまでも、脇役には簡単になれそうよね?」

アナスタシアの能力を一番身に染みて知っているのがレダだった。

アナスタシアの力があれば、中級、いや上級冒険者のパーティーに入れば凄い事になると、レダは思っていた。

「は?脇役?」

「いいじゃない、脇役でも。私なら、それだけで満足するけど?」

「へ、へえ。脇役でもいいの?」

「ええ。」

「好きな人を奪われる幼馴染でも?」

「そ、そうなったら・・・それはそれで。でも、そうなると主人公がレオースって事にならない?」

「ありえないわね。」

「でしょ?」

「レダだけには言ってもいいわ。内緒にしておいてくれる?」

「え?何何?」

「実は私、脇役なら既に物語に登場してるのよ。」

「う、嘘!で、でもアナなら、ありえそう。」

「私の一番消したい過去よ。」

「冒険の物語?有名な物語かな?でも有名なのでアナのような女性が出てくるのは見た事ないわ。」

「シンダーエラよ。」

「え?」

「2ページ目に出てるから、今度見てみるといいわ。」

「う、うん。」

以前、アナスタシアが貴族という事は聞いていた。舞踏会の脇役かしら?でも2ページ目って、そんなに早く?疑問に思いつつも、夜も更けてきたので、レダは眠りについた。


翌日、朝のパンの販売が終わり、ちょっとした休憩時間にレダは、絵本が置いてある所へ見に行ってみた。

2ページ目を広げると、シンダーエラを虐める3人の醜悪な女性が描かれていた。

「嘘・・・。」

アナスタシアは貴族であり、シンダーエラは一般人。物語が事実とかけ離れているのは、よくある事だが。

それにしても、この描写は酷すぎる。アナスタシアはあんなに美人なのに。レダは絵本作家の悪意を感じた。


その日の晩、パジャマトークにて。

「アナ、見てみたわ。シンダーエラ。」

「そう。」

「酷すぎるわ。」

「そうね。」

「いつか絵本作家に出会うことがあったら、私が懲らしめてあげる。」

「駄目よ。だって私が殺るんだもん。」

そう言ったアナスタシアの体から大量の黒いオーラが漏れ出した。

「そ、そうなの?」

「ええ、だからもし、見かける事があったら私に教えてくれる?」

「わかったわ。直ぐに教えるね。」

「ありがとう。」

「一つ聞いてもいい?」

「いいわよ。」

「エラ王妃がシンダーエラのモデルなのよね?」

「そうね。」

「エラ王妃も元は貴族なの?」

「そうよ。」

「じゃあエラ王妃は、アナの義理の妹?」

「うん。」

「どうして、アナが冒険者に?」

「どうしてかしら?冒険者になるしかなかったからかもね。」

「色々あったのね。」

「ええ、色々と。」

そうしてアナスタシアは悲しい笑いを浮かべた。

レダは、それ以上聞くことが出来なかった。


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